魔王VS魔王②
「もういいわ! あんたが本気にならないんだったら勝手にしなさい! だけど、あたしは本気でいくからね!!」
ラミレラが我の横をすり抜けて背後に回り込み、回し蹴りへと繋げる。
「なっ!?」
ラミレラの表情が凍りつく。背後からの攻撃がいとも容易く受け止められたことがショックだったのであろう。驚くのも無理はあるまい。先ほどまでより動きが格段に速くなったのだからな。
「いよいよ本気になったってわけね! だったら、これならどう!?」
ラミレラは動きをさらに加速させる。拳が蹴りが次々に繰り出される。
「そ、そんな!?……」
全ての攻撃をことごとくかわされたラミレラは動揺を隠せないようだ。
「ふむ。貴様風情ではその程度であろうな。圧倒的な実力の差を見せつけられた気分はどうだ?」
「ひっ!」
いきなり背後から話しかけられ、ラミレラは短い悲鳴をあげて飛び退く。
「えっ?」
再び敵の姿を見失い、困惑するラミレラ。
「もしや我を探しておるのか?」
「ひぃっ!!」
ラミレラは、またしても背後をとられたばかりか、今度は両肩に手を置かれてしまい、遂に尻餅をついてしまった。
「ど、どうなってんのよ!?……こんなの、さっきまでとはまるで別人じゃん!……」
ラミレラは、尻餅をついた体勢のまま、ジリジリと我から離れていく。もはや余裕などまるでなく、恐怖に支配されておる。
「別人、か。たしかに間違ってはおらぬぞ。我はルベタではないからな」
「……さっきから何言ってんのよ?」
「わからぬか? 我こそはリバス! 魔王リバスである!!」
「やっぱり! あんたがパパを殺した魔王リバスだったのね!?」
我の名を知ったラミレラは立ち上がり、睨めつけてくる。
「うむ。たしかに魔王ディランザを殺ったのは我だ。だが、その事で恨まれる筋合いはない。魔王とはいついかなる時にも命を狙われる覚悟をしておかねばならぬ。小娘、貴様も魔王の紋章を宿しておるのならば肝に命じておくのだな」
「うるさい!」
我が親切に諭してやったというのに聞く耳も持たぬか。なんとも愚かしいな。ならば、少々痛い目にあってもらうほかあるまい。
殴りかかってきたラミレラの顎に掌打を、腹に膝蹴りを同時にヒットさせる。強烈なカウンターをまともに受けて仰向けに倒れた。
「くっそぉぉぉぉ!!」
ラミレラは《飛行》を使って上空へと移動し、魔力を練り上げて巨大な火炎の球を作り出した。火炎系最上位魔術か。この間のアークデーモンのやつよりは強力だ。同じ魔術でも使い手によって威力は違うものではあるからな。
「丸焦げになっちゃえ!!」
放たれた巨大な火炎の球が猛スピードで迫ってくる。
「やったぁ!!」
ラミレラは高台の頂上部全体を焼き払った火炎系最上位魔術の威力に歓声をあげる。
「バカ者。あの程度で我を殺れるわけがなかろう」
背後から聞こえた我の声にラミレラが体を強張らせる。この隙に蹴り落としてやってもよかったのだが見逃してやる。
「こ、このぉ!」
振り返ったラミレラは我から離れ、火炎系下位魔術を5発同時に放つ。我は防御魔術する。当然、ダメージなど微塵もない。
「かはっ!」
次の瞬間、我に空中から蹴り落とされたラミレラの体は高台に背中から叩きつけられた。それでもどうにか立ち上がろうとした時、目の前に我の拳があることに気づいたようだ。
「……さっさと殺しなさいよ!」
自分には勝機はないと観念したのか、ラミレラは全身から力を抜いて横たわり、瞳を閉じる。
「なにしてるの?」
ラミレラはいつまで経っても止めを刺そうとしない我に怪訝な表情を向ける。
「今回は特別に見逃してやろう。我の気が変わらぬうちに失せるがよい」
「どういうつもりよ? ここで見逃しても、あたしなんかいつだって殺せるってこと!?」
ラミレラはプライドを傷つけられたことで怒りを顕にする。
「それもあるが……久しぶりに身体を自由に動かせて機嫌がよいのだ。それに、このまま貴様を殺せば後々うるさそうなのでな。そうであろう?」
『当たり前じゃないですか。そもそもリバス様がラミレラのお父さんを殺したのがきっかけなんですから!』
「何度も言うが恨まれる筋合いはないのだがな。まぁ、よかろう。今回に限り、貴様の顔を立ててやろうではないか」
ふと足元を見やる。ラミレラが不審者を見るような目で我を見ておる。傍目からは独り言にしか聞こえぬから仕方なかろう。
「先刻まで貴様が痛めつけておったルベタがいろいろとうるさいのでな。いずれにしても貴様には関係ない話だ。さっさと消えるがよい。ただし、ヴィデルガラムは返してもらう」
「悔しいけど今回は負けを認めたげるわ。だけど、次に会ったら絶対に勝ってやるんだから!」
唇を噛みしめ、安っぽい捨て台詞を吐きながらラミレラは立ち去る。あの程度の実力で我を倒そうなどとは片腹痛い。あまり絡んでこられるのもうっとうしいな。止めを刺しておいたほうがよかったのではないかと思い、遠ざかっていく後ろ姿にため息を洩らす。
『へへへへ……』
突然にルベタの笑い声が聞こえたきた。何がおかしいというのか。
『リバス様って案外優しいところもあるんですよね』
何を言うかと思えばくだらんことぬかす。魔王である我に対して優しいなどと言う輩は誰一人いなかった。
それはそれとして、このあとはどうしたものか。せっかく肉体を取り戻したのだ。ルベタに身体を渡す必要などありはしない。
『せっかく自由に動けるんですから、島を散策してみたらどうです?』
疑うことを知らぬ愚か者がほざいておる。貴様は二度と表には出てこれぬというのにおめでたいことだ。
島の散策、か。このフォラスを支配下におくのも悪くないかもしれん。ひとまずチセーヌに向かうとしよう。
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