魔王VS魔王①
ボクは海辺の高台で広大な大海を見渡している。フォラスから旅立つことを伝えて数日が過ぎた。
レミィとポポルには、ボクが最弱モンスターのガムイラスだったこと、リバス様に吸収されたことなど全てを打ち明けた。二人とも驚いてはいたが、案外すんなりと受け入れてくれた。
あれからレミィとはあまり話せていない。もちろん、旅立つ前にもう一度ちゃんと話し合わなければならないとは思っている。だけど、最近のレミィは時間を見つけてはどこかに出掛けているみたいで、夜遅くに帰ってくることも多い。何をしているのかを訊いても「心配しないで」と繰り返すばかりで教えてはくれない。
ボクにできることなんてたかが知れてるのは重々承知している。やっぱり、レミィからしてもボクはそれほどまでに頼りない存在なのかな……。本当にできることは何もないのだろうか。
「……はぁ……」
またしてもため息をつく。起床してからもう何度目なのか見当もつかない。というか、絶えずついてる気がする。
『やれやれ、またか。女々しいというかなんというか。魔王ともあろう者が人間の女にかまってもらえなくなっただけでこの様とは嘆かわしいことだ』
この人は相手が落ち込んでいても関係なしだな。相変わらず言いたい放題だ。
「リバス様にはわかりませんよ……」
反論しつつため息を吐く。
『知りたいとも思わん。そんな事より、身体は充分に癒えたであろうが。ならば、ヴィデルガラムの捜索に向かえ。貴様が不甲斐ないばかりに我の愛剣を失うことになったのだ。その責任は果たしてもらうぞ』
そう。リバス様と話し合った結果、旅の当面の目的は魔大剣ヴィデルガラムの捜索と決定したのだ。ボクがもっとしっかりしていれば、みすみす奪われてしまうことはなかった。だからこそ、なにがなんでも見つけ出してみせるつもりだ。
「もちろん覚えてますよ。魔大剣ヴィデルガラムかぁ……。いったいどこへいってしまったんでしょうかね? 神様、ヴィデルガラムを返してください!……なんてね」
我ながらつまらない冗談を口にしてしまったと苦笑する。その時だった。ボクの目の前に魔大剣ヴィデルガラムが現れたじゃないか!
「へっ、まさか、神様!?」
『たわけ! 上を見るがよい』
リバス様の鋭いツッコミに促されて頭上を見上げる。そこには冷ややかにボクを見下ろす少女の姿があった。彼女に見覚えある。
「君はたしか……なんて名前だったっけ?」
空中に浮かぶ少女に訊いた瞬間、火炎系下位魔術が目の前に落下してきて、ボクの前髪を少しだけ焦がした。
「あちちちち!……いきなり何するんだよ!?」
抗議すると今度は少女自らが地上に降り立つ。ボクと少女のちょうど中間あたりに魔大剣ヴィデルガラムが鞘ごと突き刺さっている。
「君はえぇっと……」
「ラミレラよ、魔王ラミレラ!」
そうか、思い出した! チセーヌで出会った魔王だ。
「ねぇ、その剣はあなたの?」
「あ、あぁ。失くしててさ。ずっと探してたんだ。わざわざ届けてくれたのかい?」
火炎系下位魔術で牽制されたこともあって、さすがに警戒してしまう。なによりもその視線には明らかな敵意が宿っている。
「あんた、ルベタとか名乗ってたよね? それって本当なの?」
「当たり前じゃないか。偽名を名乗ってもしかたないだろ」
とは言ったものの全然信じてくれてないみたいだ。
「それじゃ、その剣はどこで手にいれたわけ?」
「ええっと……」
返事に困ってしまう。なんたってボクが直接手にいれた物ではないわけだ。たしか、前の魔王から奪ったって言ってたはず。そのままを伝えたほうがいいのかな。
「前に倒した魔王から奪った物だけど?」
ボクが答えた刹那、ラミレラの姿が消えた。
『後ろだ!』
リバス様の声が脳内に響いた。だけど、振り返る間もなく凄まじい衝撃を受けて吹っ飛ばされてしまう。空中で体を回転させて受け身をとり、着地する。どうやらラミレラの蹴りをくらったようだ。
「いきなり、なんだっていうんだ!?」
「それが事実なら、魔王ディランザを知ってるはずよね!?」
魔王ディランザ? だれだ? 初めて聞く名前のはずだ。
『魔王ディランザだと? あの小娘……』
「リバス様は魔王ディランザをご存知なんですか?」
『うむ。魔王ディランザは魔大剣ヴィデルガラムの前の持ち主だ』
「えぇっ! ヴィデルガラムの元持ち主ということは、この魔王の紋章の持ち主だった魔王ですよね?」
『そうなるな』
話が少しずつ見えてきた。リバス様は魔王ディランザの命と引き換えに紋章を継承することで新たな魔王となった。その際、魔大剣ヴィデルガラムをはじめ、あらゆる物を奪った。そして、たぶんラミレラは……
「君は、魔王ディランザの血縁者なのか?」
「……ディランザは……あたしのパパよ! パパを殺したあんたを絶対に赦さないから!!」
ラミレラが再び襲いかかってくる。
「待ってくれ! ボクは君と戦うつもりはないんだ!!」
「パパを殺しておいて今さらなによ!」
「待つんだ! とにかく話を聞いてくれないか!?」
「命乞いなんて見苦しいだけよ!!」
防御魔術しながら懸命に話しかけるが、とりつく島もない。しかもラミレラの一撃は驚異的な破壊力をもっている。紋章の力を全開にして防御魔術しているにもかかわらず相当なダメージを受けている。おまけに動きが速すぎる。回避することはもちろん、反撃する隙さえ見つけられない。まともに戦ったとしても勝ち目がないのは明らかだ。
抵抗できずに、このまま殺されてしまうのか。そんな考えが浮かんできた時、ようやか猛攻が止んだ。
「どうして本気を出さないのよ? あんなに強かったパパを殺したくらいだから、こんなもんじゃないでしょ!? あたしはあんたを殺すために強くなったんだからね!! それとも、あたし相手じゃ本気になるまでもないってこと!? だったら、嫌でも本気にさせてあげるわ!」
再び身構えるラミレラ。
ああ、どうすればいいんだ!
『やれやれ、面倒だがしかたあるまい。貴様ではあの小娘を相手に勝てぬ。左腕にはめた腕輪に魔力を流し込み、内にある我の存在を強く意識してみるがよい』
「なんですか、それ? 何が起きるっていうんですか!?」
『つべこべぬかしておる余裕はなかろうが。現状をなんとかしたいと思うなら黙って言われたとおりにするのだ』
たしかに迷ってたり考えたりしてる暇はない。ここはリバス様を信じるしかなさそうだ。ボクはトゥナムから貰った腕輪に魔力を送り、内にいるリバス様の存在を強く意識した……
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