決戦(ルベタ編⑪)
今こそ攻め時とばかりにスヴェインはショートソードで激しく攻撃してくる。
何度目かの斬撃をかわし、ボクは左の拳を彼のみぞおちにめり込ませる。短いうめき声を洩らしてヨタヨタと後退したスヴェインの横っ面に回し蹴りをお見舞いする。彼は勢いよく吹っ飛び、床に身体を打ち付けて苦悶の表情をして仰向けになる。
止めを刺そうと氷槍を構える。
背後から迫る強烈な殺気を感じたのは一歩を踏み出そうとした刹那だった。振り返る間などない。そう直感して横っ跳びに移動する。その直後、真空の刃が先刻までボクの首があった空間を通り過ぎていく。神風系中位魔術だ。
「いい動きしてるじゃないか?」
続いて目の前にやって来た巨躯の悪魔は十指の爪をボクの前でクロスするように振り下ろす。後方へと退避したが間に合わず、両頬についた爪痕から流血する。
左腕に負わせたはずの傷口は塞がっている。おいおい、魔界の魔物はこんなにも回復力が高いものなのかと驚嘆してしまう。
『やつめ、回復魔術も扱えるようだな』
ボクの心中を察してなのかどうかは不明だけど、リバス様の言葉に少し安堵した。回復魔術を使ったということはその暇さえ与えなければいいわけだ。とはいえ、それが難しいんだけども……
《俊足》を使ってアークデーモンの後ろに回り込む。
「うおぉぉ!」
気合いを入れて放った剛氷斬はアークデーモンの左の翼を切断する。
「ぐぅぉぉぉぉ!!」
絶叫がロビー内に響き渡る。おびただしい量の青い鮮血が噴き出す。ガクンと膝をついて激痛に顔を歪める悪魔に引導を渡そう氷槍を構える。
「かはっ」
氷槍がアークデーモンの左胸を貫こうとした瞬間、右胸に痛みを感じた。ゆっくりと落とした視線の先にはスヴェインの毒針があった。
「ふはははは……! ようやく命中しましたねぇ! これで勝負ありです!!」
自分たちの勝利に確信を持ったスヴェインが狂喜する。だが、その表情はすぐに凍りついた。ボクが何食わぬ顔で引き抜いた毒針を投げ返したからだ。そして、その毒針は今スヴェインの左胸に刺さっている。たしかスヴェインの毒針は人間にとっても猛毒になると本人が言ってたはずだ。
「く……そ!……」
スヴェインは慌てた様子で毒針を引き抜き、床に投げ捨てる。それから懐から取り出した小瓶の栓を開けて中身を一気に飲み干す。ふぅ…と一息つくスヴェイン。まさか解毒薬まで用意していたとは思わなかった。準備がいいな。
「なぜ、わたくしの毒針を受けて平気なのだ?」
「簡単なことさ。一度くらった毒なら《解毒》で治療できるからね」
スヴェインはボクの返答を聞いて舌打ちする。
「忌々しいスキルですね! それにしても、わたくしに止めを刺しにこないとは相変わらず甘いですねぇ。それとも、わたくしなど捨て置いても問題ないと?」
「そうだね。あんた程度なら問題ないよ。けど、理由はそれじゃない」
言って視線をそらす。そこには怒りに目を血走らせたアークデーモンが立っている。そう、隙を見せればすかさず強烈な一撃を仕掛けてきたに違いない。
「この俺をここまで怒らせるとはバカなやつだ! 容赦はせんぞ!!」
アークデーモンの動きがこれまでより速く、攻撃も鋭くなった。回避をあきらめて防御魔術したが深い傷をつけられていく。このままだとすぐに力尽きてしまいそうだ。ボクは空中に移動することにした。左の翼がない状態では飛べないはずだ。
「あまい!」
鋭く言い捨てて両手をかざす。魔術攻撃か!? ボクは飛んでくるであろう炎に注意を払う。だが、何も飛んでこない。どうなっている? 何が起こる? 何をしたんだ!?
『バカ者! ぼさっとするな!!』
リバス様の怒声がした時、眼前に急速に魔力が集まってきた。その刹那に起こった大爆発によって爆炎と爆風にさらされてしまう。ボクは領主邸を壁を突き破って外へと投げ出された。
「うぅ……く……そ!……爆発系下位魔術か……」
氷槍を地面に突き立てて杖代わりとし、ようやく立ち上がる。身体中が痛い。生きているのが不思議なくらいだ。たぶん紋章が宿っていたからあの爆発に耐えることができたんだろうな。
「しぶといな。だが、それも限界のようだな」
一部の壁が倒壊した領主邸からアークデーモンがボクを追って出てきた。たしかに辛いけど諦めるわけにはいかない。ボクは氷槍を構える。その姿に悪魔は嗤う。
「潔く死ねばよいものを! そんな姿になってもまだ戦うつもりか!?」
吐き捨てると、瞬時に近づいてきて爪で引き裂こうと右腕を振り上げた。それが振り下ろされた直後に飛び退く。鋭い爪が頭を掠め、出血してしまうがかまわず氷槍を手前に目一杯引く。
「くらえぇぇ!」
《剛力》を使っての氷剣の切っ先を突きだす。これは剛氷突きと名付けようかな。
「ぐがぁぁ!」
アークデーモンは腹を氷槍で貫かれ両目を見開く。氷槍を引き抜く。噴き出す青い返り血にかまわず体を回転させて剛氷斬で悪魔の巨躯を上半身と下半身に両断する。敗北など考えもしなかったアークデーモンは現実を到底受け入れられないといった表情だ。
「……く……そ!……この……俺が!?……」
恨めしそうな視線を向けながら悪魔は跡形もなく霧消した。それを見届けて両膝をつく。再び氷槍を杖代わりに使って倒れることだけは避ける。
「おやおや、随分と弱ってらっしゃるようでございますな」
遅れてやってきたスヴェインは元の穏やかな口調に戻っている。が、その眼光は鋭く殺気に満ち、残忍な笑みを浮かべていた。
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