決戦(スコルゾ討伐戦⑥)
(決まった! これはかなりかっこよく決まったんじゃかいか?)
ベレグは、我ながら最高のタイミングで登場したものだと自分に酔っていた。
洞窟に残ったもののなんとなく居心地が悪く、ピラックの奴らが「トゥナム様の加勢に行く」と言いだした。その成り行きで同行する羽目になってしまった。
息づかいも荒く、弱りきった状態のスコルゾが突っ立っている今ならば勝てそうな気がするベレグであった。
「ハーッハッハッハ! 残念だったな。俺が来たからには覚悟してもらおうか。おまえたちが好き放題できるのもここまでだ!」
頭上で槍を回転させたあと、その穂先をスコルゾに向けて言い放つ。
(くぅ! かっこよすぎるんじゃないか!? この姿をレミィにも見せてやりたいぜ)
ベレグは心の中でガッツポーズをとる。
「さぁ、あんたらは雑魚どもを片付けるんだ。こいつは俺に任せろ!」
後から続くピラックの連中に指示を飛ばす。
「さすがは勇者!」
「ルベタとトゥナム様の次に頼りになるぜ」
「大丈夫かぁ? 途中で逃げるなんてナシだぞ」
「期待してるぞ」
「なぁんか不安なんだよなぁ……」
「頼んだぜ、リーダー!」
などと口々に言いながら、ならず者たちに挑んでいくピラックの住人たち。
「へっ……エセ勇者さんよ。まさか、オラに勝てるとでも……思ってんのか?」
スコルゾは相変わらず辛そうな雰囲気を醸し出しながらも強気な態度を崩さない。
「どういう意味だよ。おまえこそ辛そうじゃないか」
「なめるなよ。……毒をくらってようが、てめぇ程度なら問題なく殺れる……丁度いいハンデだ」
臨戦態勢をとるスコルゾを観察する。トゥナムとの戦闘でかなり弱っているのは間違いない。しかし、ベレグポーションで回復してきたとはいえ万全とはいかない。
「じょ、上等だ。白薔薇の勇者の実力を見せてやるよ!」
腹をくくって挑みかかる。
まずは連続突きで牽制するがあっさりと捌かれてしまう。それどころか、隙をついて肘鉄による反撃を受けてよろめいたところに左ストレートが顔面にもらう。スコルゾは鼻血を出して仰向けに倒れたベレグの顔を踏み潰そうと足を上げる。
(おいおい、マジかよ。こいつ、こんなに強かったのか!?)
とんでもない強敵に戦いを挑んでしまったことへの焦りと後悔が押し寄せてくる。
「させるものか!」
ベレグのピンチを救ったのはトゥナムの撃った雷撃系中位魔術だ。雷の針がスコルゾの左胸に突き刺さる。
「へっ、……オラ一人を倒すのに二人がかりとは反則なんじゃねぇか?……」
「おや、戦争だと言ったのは君だろう?」
スコルゾはトゥナムに正論を返されて黙る。ベレグはその隙の立ち上がって体勢を立て直す。
「雑魚は……引っ込んでろ!」
ベレグに対してお呼びでないとばかりの態度が露骨だ。だが、スコルゾが負っているダメージは深刻だ。身のこなし、技のきれや威力が明らかに低下している。
「うぉぉぉぉぉ!!」
ベレグは無我夢中で槍を振るい続ける。スヴェインを裏切った時点でこの争乱に勝つ以外に生き残る道はない。ならば、なにがなんでもスコルゾをここで倒しておく必要があった。
「ちっ、……鬱陶しい奴だぜ!」
巧みに槍をかわし、一瞬で俺の懐へ飛び込んだスコルゾはベレグの首を両手で掴んで持ち上げる。手足をばたつかせて逃れようともがくが放してはくれない。それどころか首を絞める力がどんどん強くなっていく。
「く……そ……」
意識が朦朧としてきて全身から力が抜けていく。しっかり握っていたはずの槍が右手から落ちる。
(ちくしょう! 所詮は俺なんかじゃ勝てるはずがなかったんだ……)
全てを諦めた時、宙吊りになっていたベレグの身体が落下した。一気に流れ込んでくる酸素を取り込むことで薄れていた意識が覚醒する。
ベレグはヨロヨロと体を起こす。
「なっ!?」
衝撃の光景を目にして息を呑む。トゥナムが手にしたレイピアがスコルゾの左胸に突き刺さり、スコルゾの右拳がトゥナムの胴体に深くめり込んでいた。互いに相当なダメージを受けているはずだ。ふと気づけば、トゥナムが吐血した大量の血がベレグの鎧にベットリと付いていた。
両者が同時に崩れ落ちる。
「トゥナム様! トゥナム様!!」
トゥナムの体を抱き起こして出せる限りの大声でその名を叫び続けるベレグ。
「……よかっ……た……。無事……だったか……」
ベレグは、安堵の表情を見せて微笑を浮かべるトゥナムの姿に涙が溢れてきた。
(なんだって、俺なんかを助けるためにこんな無茶をするんだ? 俺はスヴェイン側についた奴なんだぞ!?)
そんの思いがベレグの胸を締め付けた。
「どうしてだよ?」
涙声で問い掛ける。
「簡単だ……。君も……フォラスの人間だ……。だったら……命懸けで守るのが……領主であろう?」
掠れた声で答えを返すトゥナムの体をそっと地面に横にして立ち上がる。ベレグは背後から殺気を感じて振り返った。そこには凄まじい形相のスコルゾが立っていた。
「……邪魔だぁ!」
強烈な裏拳を受けて吹っ飛ばされてしまうベレグ。
(駄目だ! 今、あいつを止められるのは俺しかいないんだぞ!!)
自らを奮い起たせて、空中で体勢を直して着地する。憤怒に目を血走らせたスコルゾがトゥナムに止めの一撃を加えようと拳を振り上げている。
「やめろぉぉぉぉ!!!」
ベレグはとにかくトゥナムを守りたい一心で駆け出す。それと同時に左手をかざす。光輝系下位魔術の閃光によってスコルゾの視界を眩ませることに成功する。その隙に渾身の力を振り絞った右ストレートをスコルゾの顔面に叩きつけた。
「て……めぇ!!」
四つん這いで着地したスコルゾが再び襲ってくる。異様なまでの執念に戦慄をおぼえるが怯んでいる暇はない。急いで足元の槍を拾う。
「終わりだぁぁ!!」
ありったけの魔力を込めて投げた槍は一筋の光となって飛んでいき、スコルゾの頭部を吹き飛ばした。そうして残された体は失速して血の海に沈む。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
両膝を地面について肩で大きく息をする。もはや体力も魔力も使い果たしてしまった。だが、トゥナムの治療は一刻を争う。ベレグは無理矢理に立ち上がる。
「う、嘘だろ?……あの、スコルゾが!?」
「信じられねぇよ……」
「もう、だめだ」
残されたならず者たちは戦意を失くし、武器を手放して跪く。ベレグは生き残った仲間に連中を捕縛するよう指示を出す。それから重傷を負っているトゥナムを治療するためレミィたちが待つ洞窟へと急いだ。
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