決戦(スコルゾ討伐戦⑤)
「お望み通りに抵抗したのだがお気に召さなかったようだな?」
歯を食い縛り、今にも襲い掛かってきそうなスコルゾに話しかける。
「小賢しい真似をするじゃないか。オラの視界を遮ったうえで催涙効果のある粉で動きを封じ、その間におまえさん自身はポーションで回復するって寸法かよ。だが、判断を誤ったんじゃないか? 催涙が効いてる間に攻撃するべきだった。そうすりゃ万に一つくらいは勝機があったろうによ」
「いいや、わたしの判断は間違っていなかった。あの時、攻勢に転じたとしても君を討てなかっただろう」
スコルゾは舌打ちをする。
「お見通しかよ。まぁ、てめぇがオラの逆鱗触れちまったのは確かだ。覚悟は決めてもらうぜ」
殺気を迸らせるスコルゾ。
「おやおや……。抵抗しろと言ったのは君じゃないか。リクエストにお応えして恨まれるとは心外だな」
「こんな嫌がらせみてぇな姑息なのはムカつくんだよ!」
スコルゾは四肢を駆使した怒涛の連続攻撃をくり出す。トゥナムは防御に専念することでどうにか回避し続ける。
「ちっ、ちょこまかと!」
攻撃をことごとくかわされ苛立つスコルゾ。
「伊達に君の攻撃を受け続けてきたわけではないということだ!」
「はん! オラの攻撃は予測できるとでも言いたいのか?」
スコルゾの鋭い視線を真っ向から受け止める。
「おい、ちょっとヤバいんじゃないか?」
「そんな、嘘だろ!?」
激闘を見守っていたならず者たちに動揺が生じる。それが更にスコルゾを逆撫でする。
「黙ってろ! この程度のことで騒いでんじゃねぇよ!!」
ならず者たちを恫喝して黙らせ、視線をこちらに戻す。
「いいか、勘違いするなよ? ちったぁ粘っちゃいるが避けてるだけじゃ勝てねぇぜ」
「そうだな。ならば!」
トゥナムはレイピアを縦横無尽に閃かせる。
「甘ぇよ!」
スコルゾはレイピアの軌道を見切っていく。さすがにスヴェインの片腕をしているだけはある。見事な身のこなしだと認めざるを得なかった。
(まだ効果が現れていないか。ここは一度退くべきか)
トゥナムは飛び退いて間合いをとる。
「ん?」
追撃しようと片足を踏み込んだスコルゾは右頬の一筋の切り傷に気付いて動作を止める。全ての斬撃を回避したと思っていたスコルゾは、傷口を軽く拭った指先に付着した血を見つめている。
「まぐれでも傷を負わせるとは驚いた。けどなぁ、いい気になれるのもここまでだ!」
地面を強く蹴って加速したスコルゾが横を通り過ぎる。トゥナムは背後からの攻撃を警戒して前方に跳ぶ。そこから体を翻して4発の火炎系下位魔術を射つ。スコルゾは3発目までをかわしたが最後の1発を回避不可能と判断し、防御魔術でダメージを軽減する。着地せず空中に留まっているトゥナムを視界にとらえ、好機とみて両手にそれぞれ一つずつ火の玉を作り、投げつけてきた。
「ぐっ!」
トゥナムは防御魔術でしのぐ。が、2発の火炎の球が同時にぶつかった衝撃によって多少の火傷を負わされてしまう。
「おらおら、まだいくぜぇ…」
スコルゾは、トゥナムの着地直後を狙って接近戦を挑む。矢継ぎ早に繰り出される格闘攻撃を捌くトゥナム。激しい攻撃の僅かな隙をついてレイピアで反撃するが、その刃は空を裂くばかりだ。スコルゾはここで一度後ずさって距離をとる。
「どうした? 息が上がってるようだぞ」
「るせぇよ。……敵に気を遣われるほど落ちぶれちゃいねぇ……」
「そうか。それはすまなかったな」
(効果は表れ始めている。しかし、まだ充分ではない)
トゥナムは冷静にその時を待つ。
「悪ぃが、いい加減に決めさせてもらうぜ……」
スコルゾの右回し蹴りを反射的にかわし、レイピアを振りかざして反撃するも空振りに終わる。その後も互いに一進一退の攻防戦が続く。
「ぬぐぅ!」
レイピアによる突きを左肩に受け、苦痛に表情をゆがめるスコルゾ。
「なに!?」
スコルゾの右手がレイピアを引き抜くのを阻止する。刀身を強く握った拳から鮮血が滴り落ちていく。
「ぬぅぉぉぉ!!」
スコルゾが渾身の回し蹴りを放つ。危険を感じてレイピアの柄から手を放し、回避しようと動くが間に合わなかった。自らの武器を手放すことに対しての一瞬の迷いが反応を遅れさせたのだ。
スコルゾの左足がトゥナムの右腕に命中した。凄まじい衝撃に吹き飛ばされた体は地面に叩き付けられる。
どうにか立ち上がったものの全身を激痛が襲う。右腕は骨が折られてしまったようだ。利き腕を封じられては今後が苦しくなるのは必至だった。
一方、スコルゾは肩で大きく息をしながらレイピアを投げ捨てている。
「……くそっ……どうなってやがる?……」
自らの異変に困惑しているようだ。本来の彼ならばここで止めを刺しにくるだろう。だが、そうしていない。いや、できないというべきだった。高熱によって思い通りに動くことができないのだ。
「…あんた……何……しやがった?」
スコルゾは息苦しそうにしながらも鋭い視線を向けて問う。
「なに、大したことはない。今の君は猛毒におかされている状態だ」
「なん……だと?」
驚いたようにスコルゾは目を見開く。
「あの……妙な粉か!?…」
「ご名答」
煙幕でスコルゾの視界を遮った後、小袋を裂いて拡散させた黒い粉末こそが猛毒の正体だ。
「あんただって吸ったんじゃないか?」
「たしかに。だが、わたしは直ぐにマントで口元を覆ったからな。さらにこの毒を中和する解毒剤も飲んでいる」
「ちっ……やってくれるぜ……。狩りの時間は終いにしようじゃねぇか……。おい、出番だぜ」
控えていたならず者たちが各々の武器を構える。
「一騎討ちではわたしを倒すことができないと認めるのかね?」
(今のわたしにならず者を相手にして勝てる見込みはない。さらに言えば、スコルゾ一人を倒すのも困難だ)
トゥナムは最悪の状況に陥ることを避けようと試みる。
「……言ったはずだ……。狩りは終わりだとな。つまり、こっからは戦争だ……。勝つことを最優先に行動する!」
(一騎討ちの続行に持ち込むのは無理か! もはや打つ手はない……)
トゥナムが覚悟を決めた時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「だったら、俺たちが加勢しても問題ないよな?」
突然聞こえてきた声に一同が振り向く。
「おまえたち!?」
そこにはピラックの住人たちとそれを率いてきたベレグが立っていた。
「どうして……」
予期せぬ援軍を非常にありがたかく思いつつ、ベレグに訊く。
「奴らをいつまでも好き勝手にさせておくわけにはいかないでしょう。それに、ヒーローはピンチに駆けつけるもんだ!」
「トゥナム様、オレたちが間違ってた。せめてこいつらだけでも任せてください」
「そうです。フォラスを守るために一緒に戦わせて下さい!!」
トゥナムは皆の心強い言葉に胸が熱くなるのを感じた。フォラスのために命懸けで参戦してくれたことが嬉しかった。
ベレグはニッと口角を上げる。それからスコルゾやならず者たちのほうを向く。
「さぁて、ここからは俺たちが相手だ。覚悟してもらおうか!」
ベレグは槍を構えてスコルゾの元に駆け出し、その後をピラックの民たちが続く。
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