決戦(ルベタ編⑧)
目的を果たせないままに地下宝物庫を後にしたボクは、1階へと続く上り階段の途中で立ち止まった。
『気づいたようだな』
この先でボクを待ち受ける者がいる。そいつは多分……。大賢王の杖を構えながら階段を上り、1階のエントランスへとたどり着く。
視界には誰の姿もない。だけど、間違いなくここにいる。気配や殺気といったものを巧みに消してはいるが、索敵魔術とあらゆる感覚を研ぎ澄ませていたボクには、その存在を認識することができる。
『ふん。これでも気配を消しているつもりなのであろうな』
どうやらリバス様には相手の隠れている場所までもはっきりと判っているようだ。
「どこに隠れているか教えて下さいよ。ボクにはこのエントランスのどこかというくらいしか……」
『甘えるでないわ』
予想通りの返答が返ったきた。自力でなんとかするしかない。周囲を見回す。花が生けられた花瓶、馬に跨がって勇ましく剣を掲げる騎士像などが飾られ、数本の太い円柱が立っている。敵が隠れている場所として最も可能性が高いのは円柱のどれかだろう。一歩ずつ慎重に歩を進める。
「そこ!」
柱の一つに敵の気配をはっきりと察知して火炎系下位魔術を撃つ。火炎の球を避けるため柱から飛び出した人影は針を投げる。それを大賢王の杖で払い落とす。
「スヴェイン!」
ようやく姿を現した男の名を口にする。
「わたくしの隠れている正確な場所がよくわかりましたね。お見事です」
余裕の笑みを浮かべてスヴェインは拍手さえしてみせる。
「残念ですが、ルベタ様にはここで死んでいただかねばなりません。お覚悟を!」
スヴェインは素早い動きでボクの目の前までやってくると鞘からショートソードを抜き放つ。居合い抜きの鋭い一撃を大賢王の杖で防ぐ。スヴェインの攻撃は止まらない。四方八方から繰り出される斬撃を受け流し、隙をついて反撃する。が、スヴェインも同じように受け流す。
「ほほぉ……わたくしの動きについてくるとはさすがでございますな」
「スヴェイン、これだけの犠牲をだして何をするつもりだ!?」
「ほほほ……あなたにそのようなことをお答えするとお思いですか?」
「おまえが何を企んでいたとしても阻止してみせる!」
「かまいませんよ。ただし、あなたにそれが可能かどうか。魔王の実力、しかと拝見させていただくとしましょう!」
ボクとスヴェインは激しい攻防を繰り広げる。今ならはっきりとわかる。以前に戦った時、スヴェインはまだ本気ではなかったんだ。だとすれば、どうしてあの時に本気を出さなかったのだろうか? そうしていればボクを倒すこともできたはずだ。
「この短期間に驚異的に強くなられましたな」
「スヴェインこそ、前に戦った時は手加減していたのはなぜだ?」
「なぁに、簡単なことですよ。あの場ではランツァ村長の命を奪うことができればよかったのです。ルベタ様が生きて再び姿を現せば全ての罪を擦り付ける絶好の相手となりますからね。そうすることによりフォラスの住人たちをまとめやすくなるというものです」
大賢王の杖とショートソードが何度も激しく火花を散らすなか会話が続く。
つまり、魔王ルベタという倒すべき悪役を作り出してフォラスの住人を団結させることが目的だったんだ。実際、その効果は充分に得られていた。
「ですが、もうあなたは用済みです。わたしの描いたシナリオの舞台からご退場願いましょう!!」
「そうはいかない!」
激しい攻防戦は鍔競り合いへともつれ込む。互いに相手の出方を窺っていたが、同時に飛び退いて間合いをとる。
スヴェインの手から投げられた針を大賢王の杖で払い、氷塊系下位魔術で作り出した氷塊で反撃する。スヴェインは近くの柱に身を隠して避け、すぐに柱から飛び出して雷撃系下位魔術を放ってきた。ボクも柱に身を潜めることで迫る雷球を回避する。
ボクが呼吸を整えて柱から飛び出したところへスヴェインの毒針が飛んでくる。身を屈め、針が頭上を通過していくのを待って床を蹴って跳ぶ。空中へと移動したボクを狙い撃ちしようと毒針を構えるスヴェインだったが、それより早くボクが左手で練り上げた魔力によって生じた火炎の球が彼を襲う。
スヴェインは火炎系下位魔術を横っ跳びにかわし、再度狙いを定める。ボクが空中から魔術攻撃してくることは予測されていたらしい。
「これで……どうだぁ!」
大賢王の杖から生み出される魔力を神風系中位魔術として放出する。
「ぬぅ!」
スヴェインはすぐに防御魔術して対処するがノーダメージというわけにもいかなかったようだ。ボクを睨めつけると毒針をしまってショートソードを構える。着地の瞬間を狙うつもりに違いない。
《飛行》を使い、左旋回してスヴェインの後ろへと回り、上に進路を変更する。スヴェインの頭上を通過し、天井付近まで到達すると急降下した。
大賢王の杖とショートソードが激しくぶつかり合う。
「ぬぐぅ!!」
急降下の勢いと《剛力》を併せた一撃は受け流すことができなかったようだ。スヴェインはショートソードを落としてしまう。床に叩きつけられるかたちとなったショートソードには明らかな刃こぼれが見受けられた。今の攻撃が成功すればスヴェインに致命的なダメージを与えることができたんだけど残念だ。
武器を失い、形勢不利となったことでボクとの距離をとるために後退する。さらに追撃を防ぐために火炎系上位魔術が放たれる。しかも現れた火炎の矢は4本もあるとは恐れ入るよ。
ボクは魔力で防御魔術し、4本の火炎系上位魔術によるダメージを軽減する。全身が炎に包まれる。魔力によって作り出された炎や雷、氷柱なんかは発生する際に練り込まれた魔力が枯渇すれば自然消滅するものだ。よってボクの身体を包む炎もすぐに消え去ったのだが、それでもあちらこちらに火傷を負わされてしまった。
「いやはや、魔王というのはまことに恐ろしい存在でございますな。まさか、このわたくしが手加減なしの真剣勝負で引けをとるとは思いませんでしたよ。ですが、わたくしにはご存知の切り札があるのです! さぁ、アークデーモンよ! その姿を見せるのです!!」
スヴェインが両手を高々と掲げて叫ぶ。それを合図に突如として空間が歪み、そこからアークデーモンが現れた。
「ククク……これで勝負は決まりましたね。ルベタ様が氷槍の使い手だろうとこのアークデーモンには勝てませんよ。なにせ、彼は炎属性ですからね。つまり、あなたとは相性が悪いのです」
やっぱりボクが氷槍の使い手だという情報は伝わっていたか……
「フッ、ノルシュからあなたが氷槍の使い手だと報告を受けた時は驚かされましたよ」
「ノルシュ? 昨日の夜、襲撃してきたやつのことか?」
「ええ、そうですよ。あなたに情けをかけられた愚か者です。このわたくし自ら粛清してあげましたがねぇ」
「……殺したのか? 自分の部下を!?」
「当然です。敵であるあなたに情けをかけられて逃げ帰ってくるような腑抜けなど要りませんからね。生かしておいたところで今後の利用価値はないでしょう」
残忍な笑みを見せるスヴェイン。
「そうか。安心したよ。なんの迷いもなくおまえたちを殺すことができそうだ!」
ボクは、不適に笑いながら見下すような視線を投げ掛けてくるスヴェインとアークデーモンを睨み付けた。
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