決戦(拠点洞窟防衛戦⑪)
「ちっ、なかなかしぶとい奴だな」
ザグムは、防御に徹してラルバンの応援を待つベレグを忌々しそうに睨みながら漏らす。攻撃や反撃を考えず、防御にのみ全神経を集中すればザグムの猛攻もどうにか防ぐことはできた。だが、この戦法がいつまでも通じるはずがない。ベレグの体力も徐々に削られている。このままではジリ貧だ。
「なぁ、勇者ベレグよ。今からでも遅くない。スヴェイン様のところへ戻る気はないか? おまえにその気があるならば、俺が話を通してやるが?」
思いがけない提案を持ち掛けてくる。しかし、この件に関しては俺の意思は変わらない。
「断る! なにがなんでもランツァ村長の仇を取るって決めたんでね」
「ばかな。おまえたちごときがスヴェイン様にかなうはずがないだろう。まして、アークデーモンという強力な魔物の力を手に入れているのだぞ。万に一つの勝ち目もない」
「うるさい。それでもやるしかないんだよ! ……おまえこそどういう風の吹き回しだ? 俺が知っているザグムは、一度でもスヴェインを裏切った奴を許すような男じゃないぞ」
ザグムは口ごもってしまった。なぜ、裏切り者を味方に引き戻そうとする? ベレグはザグムの意図を推測してみる。
(あいつやスヴェインは俺を戦力としては見ていなかったはずだ。とすれば、俺を引き戻すことでピラックの連中を自軍の戦力として使うためか? いや、それもない。仮に俺がザグムの提案を受け入れたとしてもピラックのやつらが戻るとは限らない。それどころか、俺に対する信用を完全に失くしてしまうだろう。あと考えられるのは……)
ベレグの中である一つの結論がでたが確信を持てない。それが正しかったとすれば、打って出たほうがいいかもしれないと考えたベレグだが、正解なのかを確かめなければならなかった。意を決して攻撃にでる。
「ちぃっ!」
突き出した槍の穂先がザグムの頬を掠める。出した槍を引っ込めず横に薙ぐ。
「調子に……乗るな!」
ザグムは身を低くして槍をかわし、ベレグの懐へと入り込み、片手剣を横一文字に振る。後退して回避を試みたものの斬りつけられた胸から血が滲み出る。が、ベレグは攻撃の手を止めない。左手をかざして火炎系下位魔術を放つ。
「ぬぐぐ……」
後方に飛び退いて防御魔術するザグムだったが、着地の際にバランスを崩し、火炎の球をまともにくらう。そこを連続突きで畳み掛ける。ザグムは避けきれずあちこちにかすり傷を負う。
ベレグは自分の出した答えが正しかったことを確信した。ザグムの本来の身のこなしを考えれば、この程度の連続突きなど捌けるに違いない。ということは、ラルバンに顔面を蹴られたことによるダメージが相当残っている。だからこそ、ベレグと戦うリスクを避けようとしたのだ。
確信を得たことでベレグの猛攻撃が始まった。雷撃系下位魔術で牽制し、そこから連続突きへと繋げた。ザグムは致命傷を避けているが足元がふらついている。
「えぇい! うっとうしい!」
ザグムはイラついた様子で片手剣を幾度か閃かせるが空を切るばかりだ。ベレグは、ここで一度距離をとろうと後退しつつ氷塊系中位魔術を放つ。出現した氷の針はザグムの左肩を掠めて消える。
今や呼吸が荒くなり、片膝をついて片手剣を杖代わりにしているザグム。
ベレグはの好機を逃すまいと火炎系下位魔術を撃つ。
「なめんな!」
ザグムは地面を蹴って姿勢を低くしたまま突っ込む。放った火炎の球はザグムの頭上を通り過ぎて消滅する。完全に意表を突かれ、回避行動が遅れたベレグにザグムは片手剣を一閃する。
「ぐぁ!」
ベレグは右足に鋭い痛みを感じた。ザグムは片手剣に付着した鮮血を振り払う。ベレグはの右足の太ももから出血している。まとっていた安物の鎧は容易く切り裂かれてしまっていた。
「ふん!」
ザグムは頭上に掲げた片手剣を振り下ろす。それを槍で受け止めて弾く。再びバランスを崩し、よろめくザグム。その隙に後方へ飛び退いて間合いをとり、左手をかざして火炎系下位魔術を繰り出す。出現した火炎の球はザグムのみぞおちに直撃する。
「うっ…ぐぅ!」
瞬間的に炎に包またザグムはうめき声を漏らす。
「これでとどめだぁ!」
ザグムの左胸に狙いをつけて槍を突き出す。
(これで決まった!)
そう確信した次の瞬間、ザグムは素早く槍の柄を掴むとグイッも手前に引っ張る。前のめりによろめいたベレグの背後をとると片手剣でその背中を斬りつけた。安物の鎧は切り裂かれていた。
「もらった!」
ザグムは片手剣の切っ先をベレグに向ける。
「ひぃ!」
ようやく振り返り、身に危険を感じて上体を横に反らした直後、ベレグは右肩に深手を負う。激痛に襲われて両膝をつき傷を左手で押さえるベレグ。ザグムは追撃しようと動く。
「くっそぉ!」
一瞬、目映い閃光がベレグの身体から発せられて周囲を照らす。現時点のベレグが使える唯一の光属性魔術の光輝系下位魔術だ。強烈な光で相手の視界を眩ませるだけの魔術なのだが使い方によっては役に立つ。
突然の閃光に目を眩まされたザグムは大きく仰け反る。痛みを堪えて右手に力を込めて槍を強く握って立ち上がる。もたもたしていられない。すぐにザグムの心臓に狙い澄まして槍を突き出した。
確かな手応えがあった。ベレグの渾身の一撃はザグムにヒットし、槍はその心臓に貫通している。
「こ……の……やろ……う……」
ザグムは息も絶え絶えになりながらも剣を握る右手を動かそうとする。が、そこまでだった。吐血して力尽きた。槍を引き抜くと鮮血が吹き出しながらうつ伏せに倒れ、亡骸と周囲の地面を赤く染めていく。
(勝った……)
ベレグは格上の敵を相手に勝利できたことに安堵した。
「さて……」
未だに駆けつけてこない男に文句の一つでも言ってやろうと元警備隊隊長の姿を探す。しかし、見つけたのは地面に倒れているラルバンの姿だった。側にはカナヒとバズラットの遺体がある。
(まさか、あのおっさんが死んじまったのか!?)
ベレグは目にした光景を信じられない思いを抱きつつ駆け寄った。
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