決戦(拠点洞窟防衛戦⑩)
カナヒの放つ火炎系下位魔術を盾で防ぎ、バズラットの射つ矢を斧で叩き落とす。二人とも遠距戦を得意とするタイプで、接近戦に持ち込めば2対1でも勝機は充分といえる。
「むん!」
ラルバンは右手の斧を薙ぐ。その刃がバズラットの頬に一筋の切り傷を残す。
「おっさんが! 調子に乗ってんなよ!」
接近されたことによって弓矢で戦うのは不利とみたバズラットは弓を投げ捨て、代わりに懐から短剣を取り出して構える。また、ラルバンの背後では魔力を高めたカナヒが攻撃のタイミングを見計らっていた。
ラルバンは元より攻撃魔術への耐性が弱いうえに防御魔術もからっきしだ。つまるところ、生粋の戦士タイプであり、魔術とは相性が最悪ということになる。それでも、あのカナヒひとりを相手にするだけならば勝つ自信はあった。
(さぁて、どうしたものか)
バズラットに攻撃を仕掛ければ必ず隙ができてしまう。カナヒはそれを待っているはずだ。バズラットを一撃で確実に屠ることができればいいが、先ほどの反応速度からして難しい。かといって、時間をかけ過ぎればベレグがやられちまう可能性も否定できない。それに何よりトゥナムが危険だ。やむを得ず戦場に立っている者たちへの被害も拡大してしまう。
「へへへ…」
バズラットもそんな状況を理解している。ラルバンが迂闊に反撃できないのをいいことに一方的に攻める。
「ちっ、やりにくいったらねぇな!」
バズラットが短剣を頭上に掲げた一瞬にその背後へと回り、振り向く暇を与えず背中を蹴りつける。
ここでカナヒが焦って魔術を発動させてくれれば狙い通りだったが、そこまでうまくはいかなかった。カナヒは飛ばされてきたバズラットを避け、ラルバンが隙をみせる瞬間を虎視眈々と狙っている。
「く……そ……がぁ!……」
一方、バズラットは蹴られた背中を押さえながらゆっくりと立ち上がる。振り返った双眸に宿る眼光は鋭く、憎悪に満ちていた。
カナヒがバズラットに何かを囁く。
バズラットが動く。
「なに!?」
さっきまでよりも格段に速くなっている。カナヒの魔術で能力を強化したのか。が、対処できないスピードではない。バズラットはラルバンの脇をすり抜けて背後をとろうとする。振り向き様に斧を閃かせるが手応えがなかった。距離をとっていたバズラットには斧は届かない。
「いい加減に死んじゃってよねん!」
背後に感じる強い魔力は炎の球となりラルバンを襲う。火炎系下位魔術だ。
「くそったれが!」
回避を諦めて左手の盾を構える。
「ぬぐぅ!!」
カナヒが撃った火炎系下位魔術を盾で受ける。ラルバンは衝撃と熱気に襲われる。さすがにノーダメージというわけにはいかない。
「くたばれ!」
バズラットは火炎系下位魔術を防いだ直後のラルバンを追撃する。ラルバンは短剣を受け止めようと斧を構える。しかし、ラルバンはバズラットの攻撃を受けきることができなかった。
「もらった!」
バズラットが振るった短剣がラルバンに深い切り傷をつける。吹き出した鮮血が地面を赤く染める。魔術によって向上した能力は素早さだけではなかった。腕力も強化されていたのだ。
「ぬ……うぅ…」
仰向けに倒れた身体でどうにか立ち上がろうとする。
「まだ息があるのかよ……。まぁ、いい。すぐに楽にしてやるよ」
バズラットは短剣の刃先を俺に向けて勢いよく振り下ろす。
(あの一撃を受ければ、この激痛からも解放されて楽になる)
そんな考えがほんの一瞬だけ脳裏をよぎる。が、すぐに振り払った。一刻も早くカナヒとバズラットを倒してベレグの応援に行かねばならない。ベレグもまたラルバンが駆けつけるのを待ちわびてるにちがいない。それに、トゥナムも苦しい状況で戦っている。ルベタにいたっては最も危険な戦いに身を投じているのだ。
振り下ろされた短剣を腕ごと掴んで止める。ラルバンに攻撃を止める力が残っているとは思っていなかったバズラットは動きが停止する。それは一瞬だが、それで充分だった。ラルバンは握られていた短剣を奪い取る。反撃を警戒したバズラットは距離をとるため後方へと飛び退く。ラルバンは奪った短剣を投げつける。
「な……なぜ?」
左胸に深々と突き刺さった短剣を見ながら、信じられないといった表情のカナヒ。
「へっ……俺を……なめんじゃねぇよ!」
「そんな……」
カナヒの全身から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「カ…カナヒィィィィィ!!」
絶叫をあげてカナヒの元は駆け寄るバズラット。既に息をしていない身体を抱き起こす。その背中が小刻みに震えている。
(そうか。こいつは嬢ちゃんのことを……。だが、同情はしねぇ。戦場に立つからには死と隣り合わせだ。まして、こいつらのようなプロならそんなことは常に意識していなければならねぇ)
ラルバンが動く。
「カナヒの仇だ! ぶっ殺してやる!!」
憤怒の形相で振り返ったバズラットだが直後に首が飛ぶ。愛する者を失った哀しみと奪われた憎しみで周りが見えなくなっていた。ラルバンが斧を拾うには充分過ぎるほどの時間があった。もしも、戦意を失くして立ち去るのなら黙って行かせてやるつもりだった。しかし、バズラットは仇討ちを選んだ。ならば敵として討ち果たすのみである。
地面に転がる頭部の目から頬を伝う涙がバズラットの無念を物語っている。
(来世というのがあるのなら、次は今とは違う、もっと幸せな生き方をできることを祈ってやるとしよう……)
ラルバンは強敵の冥福を祈った。
ベレグの助太刀をしようと足を踏み出そうとする。が力が入らない。それどころか、しっかり握っていたはずの斧が手から落ちる。全身から力が抜けて、意識が薄れていく。
(俺は……ここまで……なの……か?……)
最後に、ラルバンは自身が倒れるのを感じた。
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