決戦(拠点洞窟防衛戦③)
森は異様なまでに静まり返っていた。動物はもちろん、モンスターすらもこれから始まるであろう激戦を予感してかその姿を見せず、遠く離れた場所で息を潜めているかに思える。
「布陣が完了しました!」
「了解した。各自、持ち場で連絡を待つように伝えろ」
「はっ」
報告にやってきた警備隊員の伝令を任せる。トゥナムは、なるべく平静を装ってはいるが心中は不安が渦巻いていた。ピラックに住民たちが話に耳を傾けてくれるのか自信はなかった。
トゥナムがアークデーモンに襲撃されて姿を隠したのは2年ほど前だ。それからは隠れ家にしていた洞窟から出ることは一度もなかった。無論、それには理由がある。実弟のリゲックを信じたかったというのもその一つだ。また、姿を見せることでスヴェインがアークデーモンを使って強行手段にでることを危惧していたというのもある。しかし……
(はたして本当にそれだけだったのだろうか。わたしの心の奥底にはスヴェインとアークデーモンに対しての恐怖心もあったのではないか。見つかれば今度こそ殺されてしまうという考えもあったかもしれない。そんなわたしが何かを言ったところで受け入れてくれるのか……)
トゥナムはひとり悩んでいる。
「珍しく緊張されておるみたいですな」
隣に立つラルバンが話しかけてくる。
「ああ。ピラックの住人たちを説得することができるのか。その自信が持てないんだ」
ラルバンには隠さずに打ち明けた。幼少のころより見守り続けてくれている彼には隠したところで見透かされてしまいそうだったからだ。
「さぁて、そいつはなんとも答えることはできませんな。が、俺はトゥナム様を信じておりますよ」
「フッ……ラルバンやみんなの期待を裏切るわけにはいかないな。やれるだけのことはやってみよう」
トゥナムはただ敵がやつてくるであろう前方を真っ直ぐに見て答えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一時間ほど経った。洞窟を目指してやってくる一団が視界に入ってくる。遂にやってきたか。
「我が名はトゥナム。フォラスの民たちよ、わたしの話を聞いてほしい!」
努めて冷静に、そして声を張り上げて第一声を発する。
「トゥナム様だ!」
「まさか、生きてらっしゃったのか!?」
「本物なのか?」
予測していた通りだった。敵方はどよめき始める。混乱が生じているのはたしかだ。
「よく考えてほしい。我々が戦うことに意味はあるだろうか? 同じフォラスの民同士が争って何になる!?」
「あんたが本物のトゥナム様だとすれば、なぜ魔王の味方をするんだ! あいつは俺たちを騙してこの島を支配しようとしたんだぞ!」
ベレグが率いてきた隊から男の声が聞こえてくる。
「それは誤解だ。チセーヌがゴブリンによって被害に遭った時はランツァ村長と共に戦ったという。ピラックが海賊に襲撃された時も彼が勇敢に戦った姿は諸君も見たはず! その時の彼の姿は偽りに見えたのか!?」
沈黙するピラックの住民たち。そんな彼らに代わって黒ずくめの装備をまとった男が前に進み出る。おそらくはスヴェインが迎え入れた連中のひとりだろう。
「それを知っていながら、あんたは隠れて何もしなかったのか? そんなやつの言うことを信じられるとでもいうのか?」
「そうだ! おれの知っているトゥナム様はそんな薄情な方じゃねぇよ。やっぱり偽物だな!?」
「亡くなったトゥナム様のお姿まで利用するなんて、魔王らしい最低なやり方だ!」
黒ずくめの男の一言で状況は悪くなった。ピラックの民たちが口々に叫ぶ。恐れていた展開となってしまった。だが、引き下がるわけにはいかない。
「たしかにわたしは臆病者だ。それに関しては反論の余地はない。罵倒も甘んじて受けよう。しかし、魔王というだけでルベタを悪と決めつけるのは間違っている。諸君はスヴェインが言ったことをただ信じただけなのではないのか? スヴェインこそ我らの真の敵なのだ!」
「スヴェイン様が真の敵と言うか。ならば、その根拠を示してもらいたいものだな」
黒ずくめの男も引き下がらない。
「根拠だと? それならばゴブリンや海賊を撃退したことで証明されているではないか」
「そいつらの黒幕がルベタだったとしたらどうだ? それだけではない。魔界のモンスターであるアークデーモンをも手なずけて配下としているのだ。貴様がまことにトゥナムだというのならばアークデーモンに襲われた被害者のはず。魔王ルベタを庇い立てするのはおかしいのでは?」
「そうだ。わたしを襲ったのはアークデーモンであった。だが、アークデーモンを使役していたのはスヴェインだったのだ」
「これは異なことを言うのだな? ただの人間であるスヴェイン様がどうやってアークデーモンなどという凶悪なモンスターを支配できるというのだ?」
「おそらく何らかの契約を結んでいるのだろう」
「ほぉ。それはどのような契約だ?」
「……残念だが、それは判っていない」
「では、何か証拠はあるのか?」
「……ない……」
「クックックッ……。それではまるで話にならんではないか」
黒ずくめの男は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。容易に論破できる相手ではないようだ。
「おまえが言うように魔王ルベタがこの島の支配を企んでいるとするならば、ゴブリンや海賊を使ったのはなぜだ? そのような回りくどいことをせずともアークデーモンを使役するだけでよかったのではないか?」
「愚問だな。魔王の考えることなど理解できんが推測ならできる。魔王ルベタにとっては全てが余興なのだろうさ」
「余興だと?」
「ああ、そうだ。人間の心を弄び、信頼を踏みにじることに悦びを見いだしていたのだろう」
「ならば、アークデーモンが魔王ルベタを襲ったのはどう説明する? おまえの推測通り魔王ルベタとアークデーモンに繋がりがあるのだとするならばおかしいではないか」
「簡単なことだ。おおかた仲間割れでもしたのだろう。所詮は私利私欲のために行動しているような浅ましい連中だからな」
「なるほど。だったら証言してもらうとしよう」
「何を言い出すかと思えば。いったい誰に証言させるというのだ?」
「そこにいるベレグにだ」
わたしが提案したことで、それまで論戦を見守っているだけだったベレグに皆の注目が集まった。
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