魔王ルベタ①
改稿済みです。
晴れ渡った青空には輝く大陽。大陸から遠く離れた孤島フォラスは今日も時間がゆっくりと流れていた。でも、それはついさっきまでの話だ。今、ボクは爽やかな風が吹き抜ける草原を全力疾走している。いや、そうしなければならないのだ。
「待てぇっ、モンスターめ! オイラが成敗してやる!!」
少年が背後から叫んでいる。待てと言われても、木剣を振り回しながら追いかけてくる奴を待つほどバカじゃない。そんなことをすれば殴り付けられるだけじゃないか。
ボクの名前はルベタ・ガムイラス。自分で言うのも変だけど見た目は小人のようで愛らしい。だけど、弱小モンスターランキングなんてものがあれば、ぶっちぎりで1位を獲る自信はある。雑魚モンスターとして有名なスライムにでさえ簡単に補食されてしまうのだから悲しい。
ちなみにガムイラスというのは種族名だ。ボクたちモンスターは名前の後ろに種族名を付ける習慣がある。
敵はスライムばかりじゃない。人間の子供でさえボクたちにとっては恐ろしい存在だ。今まさにその脅威から逃げ回っているわけである。こんな物騒な子供を育てた親の顔が見たいものだ。
とはいえ所詮は子供。ボクとの距離は徐々に広がっている。体力の限界だろう。それに引き換え、こっちはまだゆとりがある。毎日のようにいろんな危険から逃げ回ってるんだもんね。
「へっへーんだ。残念だったね!」
後ろを振り返り、あっかんべーをする。今回もピンチを乗り切ることができた。安堵して視線を前方に戻す。
ボクは動きを止めた。行く手に草原はなくなり、その先に水平線が見える。そして足下には断崖が……。もしも落ちたらと考えると身震いがする。ゆっくりと後方を見る。そこには息を切らして追い付いてきた少年の姿があった。
「追い…詰めた…ぞ。オイラの…計算通り……」
絶対に嘘だ。だけど、そんな事はどうだっていい。それよりもこの状況をどうやって乗り切るかが重要だ。
「な、なぁ。お互いに冷静になろう。まずは話し合おうじゃないか」
「イヤだ!」
ボクの提案を即答ではねつける。可愛くない性格だなぁ。でも、ここは大人の対応をしてやらないとね。それに、ぶっちゃけて言えば戦闘になると勝ち目はない。
「そんな事言わずにさ。もしかしたら仲良くなれるかもしれないじゃないか」
「モンスターなんかと仲良くしてやるもんか!」
おいおい、モンスターってだけでえらい嫌われようだな。ボクが何をしたっていうんだよ。
「オイラの必殺技を見せてやるからな! 覚悟しろ!!」
え~~! そんなのがあるのか!? 慌てるボクにかまわず少年は木剣を大上段に構える。
「くらえ、勇者斬り!」
一応、少年にとっては必殺技のようだが、木剣を上から下へと振り下ろすだけのシンプルな攻撃だ。しかも、走り疲れているせいでヘロヘロになっているのだから余裕でかわせる。
あと、ネーミングにセンスがなさすぎる。勇者を斬るための必殺技のようにも受け取れてしまう。
なんにしてもボクは回避を難なく成功させる。よし、このままトンズラをかましてやる。
「ああっ、逃げるのかよ!? 卑怯者! 意気地なし! 腰抜け! 弱虫! 臆病者!」
走り去るボクの背後から浴びせられる罵声の数々。いくら勝ち目がないといってもここまで言われて黙って逃げるわけにもいかない。お仕置きしてやろうじゃないか。
振り返り様に懐から紫色の小さな実を取り出して少年に投げつける。
「うげっ!」
少年の顔面に命中した実は破裂して悪臭を放つ。堪らず仰向けに倒れた少年は鼻を押さえて悶絶する。
おお、これはいけるんじゃないか? 今がチャンスとばかりに反撃にでる。跳躍して今度は赤い実を少年の口の中へ放り込む。
「辛ぇぇぇ!」
痺れるような辛さにのたうち回る少年。万が一の護身用にと持っていたのが役に立った。
「どうだい、少年。これに懲りたら二度と罪のないモンスターを追い回すんじゃないぞ。では、さらばだ」
着地したボクは別れを告げて立ち去ろうと踵を返す。だけど、涙目で悶絶し続けていた少年は気力を振り絞ってボクの体を掴んできた。まずい、調子にのりすぎた! やっぱりあのままトンズラしておけばよかった! 今さらながら後悔する。
「ぬぁぁぁ!!」
激怒した少年に投げ飛ばされたボクはそのまま断崖から落下する。
「ひぇぇぇぇぇ~~!!」
我ながら情けない悲鳴をあげる。この高さから落ちれば死んでしまう可能性が極めて高い。あぁ、ボクの生涯もここで終わりなのか。
「ん?」
下方に視線を移す。そこは小さな砂浜になっていて、誰かが仰向けに倒れている。その人物が天に向かって突き上げた右手が蒼白い光を発する。直後、その光に呼応するかのようにボクの身体も輝きだした。何が起きたのか理解できないまま、あらゆる感覚がなくなった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
次話は2022/4/2(土) 20:00頃に投稿予定です。