表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導かれる者  作者: タコヤキ
第十章:遺跡
95/145

第九十五話:間欠泉

第十章は奇数日の十二時に投稿します。


(流石は帝国軍で、対応が早い上に合理的だな)

 地下空間の轍に合わせたトレッドのトロッコを作り、運搬作業を効率化したのだ。翌日の午前中には崩落現場の隙間を埋めて、魔物の死骸を回収し終えた。


 ハリソンとカークが現場検証に立ち会い、拠点の修理も含めてスケジュールは一日延期される。彼等にも三両編成のトロッコが貸し出されることになった。


 改めて五泊の準備を整え、一行は拠点を後にする。



◇◇◇



「なあラシャ。速度は徒歩の三倍だが、風魔法の操作は大丈夫なのか?」

 トロッコの先頭車両に乗ったハリソンは、轍の埃を吹き飛ばし続ける彼女を心配した。

「自分の魔力は殆んど使っていないから、何日間でも安定して継続可能です」

 地下空間で新たな魔力の使い方を覚えたラシャは、この数日間で驚くほどに習熟している。フェアリーに弄ばれた経験が、大きく影響していたのだ。


 二両目には荷物だけが積載されている。


「成る程。しかし、残念ながら私には、その存在が感じられるだけですな」

 三両目ではフェアリーと紋白蝶を交えて、カークとアルハイムが魔法談議を繰り広げていた。

 ガディはカークに借りたミスリル銀製の剣と、エルダー・トレントの素材で作られた弓矢を検分している。


 足漕ぎトロッコの動力は、カークとガディの二人が受け持っていた。四車線ある轍の北から二番目を使い、西へと進み続ける。


 地下空間の探索という目的のために、一時間おきに十分間停車して周囲の様子を確かめる。特に変化もなく順調に進み、午前中に前回の宿泊地点を通過した。




 二日目の午後に様子が変わる。


「北側の天井付近に、亀裂が確認されたぞ」

 ハリソンは独り言のように呟きながら、レポートを記入した。カークとアルハイムは地図に記す。

「一瞬だが、サラが蜘蛛を視認している」

 彼女が気付いて緊急制動をかけたが、停車するまでに通り過ぎてしまったのだ。トロッコのギアを入れ換えて進行方向を転換し、ユックリと近寄った時には姿を消していた。


『アレはヘル・タランチュラの巣デスネ』

『壁の向こうはウジャウジャしてるー』

 フェアリーと紋白蝶によると、六個もある魔除けの鈴に怯えて隠れてしまったらしい。


「……その程度であれば、余り脅威とはいえない」

 こちらから刺激しない限り、相手から襲ってくることは無いと判断された。魔物でも蜘蛛であれば気温の低さを嫌って、積極的に地下空間へ出て来ないモノにと推測される。


「経年劣化により亀裂が発生したと思われるので、速やかな閉塞と補強が必要である」

 ハリソンは記録内容を皆にも聞かせてくれた。


 それ以外のハプニングもなく二日目を終える。



◇◇◇



「匂いがする」

 三日目の午前中で、いち早く異変に反応したのはサラだった。ハリソンがトロッコに緊急制動をかける。


「ラシャの魔法は地面に向けられていたから、上層の空気が降りてきていたんだな」

 冷静な分析をしたハリソンは、トロッコから降りて徒歩で進むことにした。

「壁や地面が変色している」

 ツンとする刺激臭は、間違いなく酸だ。


「タオルを巻いてマスクにしてくれ」

 リーダーは的確な指示を出す。レンジャー部隊での経験が活かされているのだ。

「ラシャ、宜しく頼む。君が生命線だ」

 その言葉に真剣な表情で答える。


 カークの範囲照明の魔法が移動するのに伴い、カサカサと蠢く音が聞こえた。暗視が利くハリソンとサラの顔色が悪くなる。

「ローチと蝿と蟻の大群だよ」

 暫く進むと、余り聞き覚えのない水の音がした。


 間欠泉だ。


「酷い有り様だな」

 カークは範囲照明の位置をずらし、前方八十メートルまで見えるようにする。


 五十メートル先で地面が陥没していた。北東から南西にかけて、壁や天井も崩落している。幅二十メートルに渡る陥没区間には、白濁した青緑色の水が溜まった地底湖ができていたのだ。

 地底湖の中間点に隆起した岩山があり、先端の裂け目から間欠泉が噴出している。その勢いは強く、天井を穿ち、遥かな高さまで噴き上げていた。


「よい目印になりそうだ」

 複数ある天井の開口部からは、柔らかな春の陽射しが差し込んでいる。


「酸に侵されて、天井付近の地盤が脆くなっているのだろう」

 それに気付かぬ大型動物や魔物が踏み抜き、酸の地底湖へ落下する。骨まで溶かす強さはないようで、至るところに無数の骸骨が散乱していた。


「全身を酸に焼かれながらも、なんとか淵に這い上がって息絶えた屍肉へ、スカベンジャーが群がるんだな」

 ハリソンは唾を吐くように呟く。

「まるで地獄だ」

 誰もが無言で頷く。


「とにかく離れよう」

 念のために一キロの距離を置いた。




「残念ながら、探索はこれで終わりだよ」

 古代人の遺物らしきモノは見付けられなかったのだ。



◇◇◇



 サイクロプスに餌を横取りされたワイバーンは、怒りの余り後頭部へ突進した。狙いが外れて肩の肉へクチバシが刺さり、自力では抜けなくなってしまう。

 猛烈な痛みに我を忘れて暴れ回るサイクロプスは、無意識にマンティコアの住み処を蹴散らした。


 逃げるサイクロプスを追うのは、怒り狂ったマンティコアである。


 暫くして追い付いたマンティコアは、隙を狙ってサイクロプスの喉へ噛み付いた。サイクロプスは無我夢中でマンティコアの背中を握り締める。飛び付かれた勢いで転んだサイクロプスは、ゴロゴロと転がって山の斜面を落ちて行く。


 クチバシが折れたワイバーンは、サイクロプスから離れて横たわる。全身の骨が砕けていた。


 普段ならば絶対に近寄らない、酸性の間欠泉まで転がった二匹は、絡み合ったまま地面を壊して落下する。



◇◇◇



『危険デスヨ!』

『皆は無理だわー』

 フェアリーの緊急警告に、紋白蝶が転移魔法の呪文を唱え始めた。


「どうした!?」

 一キロ先から聞こえてくるのは、大質量が落下した轟音と、激しい魔物の咆哮である。


「!」

 ラシャは咄嗟に最大限で風魔法を発動した。間欠泉の地底湖から、災害が襲ってくるのだ。


「絶対に振り向くな!」

 暗視魔法で状況を認識したカークは、ラシャ以外の全員を後ろに向かせた。テレパシーも含めた強制命令には全員が抗えない。


 サイクロプスを下にして落ちたマンティコアは、噛み付いた顔を酸に焼かれて地底湖を脱出する。タテガミと四肢に付着した酸を撒き散らし、カーク達が居る方向へ駆け出した。


 ラシャの突風により行く手を阻まれるが、怒りと恐怖の本能が走り続けさせる。


(冷静に、正確に、狙いを定めろ)

 右手の人差し指を突き出し、荒れ狂うマンティコアへ照準を合わせた。霊脈の魔力を集約したその一撃は、太いプラズマ・レーザーとなってマンティコアを貫き、骨も残さず蒸発させたのだ。

 そのまま進んだプラズマ・レーザーは、隆起した岩山をも粉砕する。地下空間の遥か奥深くまで到達し、地面に落ちて大爆発を引き起こした。


 その結果、地底湖の向こう側は完全に崩落して、地上の地形さえも変えてしまったのだ。




 偶然にもフェアリーと視覚を共有したラシャは、一部始終を目撃してしまう。理解の範囲を超越したカークの魔法に、ガタガタと全身が震えて止まらなくなった。

 ペタンとその場へ尻を落とし、いつの間にか魔法も途切れている。


『……神の慈悲、だよ』

 頭の中でカークが囁いた。

 同時に暖かい治療魔法が優しく全身を包み、彼女の恐怖と不安を払拭してくれる。


 ラシャはカークの胸にしがみつき、大きな声を上げて泣いた。


(漸くワシの出番なのだが、誰にも知られないのはとても切ないモノだな)

 ラシャ本人も気付かぬ失禁は、ノーム司祭の浄化魔法によって隠滅される。



◇◇◇



『霊脈は危険デスネ』

『過ぎたるは猶及ばざるが如しよー』


『……何だか賑やかでござるな』

 相変わらずカークの仲間は暢気だった。




続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ