表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導かれる者  作者: タコヤキ
第十章:遺跡
91/145

第九十一話:持ち株

第十章は奇数日の十二時に投稿します。


(居心地が好くて、つい長逗留してしまった)

 北端城で一週間も過ごしたのだ。

(軍需産業の一大拠点だけあって、様々な工房が軒を連ねている)

 前回は帝都を目指し急いでいたので、一泊しかしていない。広い街を散策すると、思わぬ工芸品や掘り出し物が見つかったのだ。

 また市場調査と称して日々違う店でディナーを食べ、<ヘヴィ・ミート>と<毎日パスタ>以外にも幾つか魚料理のレストランを開拓していた。

 つまりは無駄遣いしたのである。



◇◇◇



 約束の期日に間に合うように、急いでメボンアの町へと向かい、アロレイ司祭兼代官に会う。今回も新鮮な魚介類と精肉を持ち込み、集合食堂を経営するテレサに喜ばれた。


「冷凍乾燥された食料品は、鉱山の現場でも重宝しています」

 昼食を用意する手間が大幅に省けたのだ。教会で保管する非常食以外にも大量の注文を受ける。在庫の殆んどを納品して何とか間に合わせた。

「毎月この量を定期的に仕入れますので、宜しくお願いしますよ」

 原価で金貨三十枚、売値で金貨九十枚である。商品の持つ魅力で商売が上手く運んだ。カークは資金繰りと在庫の確保を手配する。


(こんなにも早い時期に、帝都へ戻って仕入れなければならなくなるとは)

 紋白蝶に頼むのだ。

『お任せー』

 直ぐに引き受けてくれた。


 狐娘の回復を確認して、翌日の早朝に町を出る。


『魔力をお願いシマス』

 フェアリー経由で、風の精霊であるシルフィに伝言を頼む。サーモントラウト侯爵へ、冷凍乾燥された食料品の追加発注だ。



◇◇◇



「フェニックスと知り合って、大森林の奥にあった古代人の遺跡を訪れたのか」

 転移で帝都へ戻り、アポロに報告する。羽根を仕込んだマントも見せた。

「そこにあった鳥居へ、フェアリーが聖なる祝福を施したんだな」

 石碑と同様な転移ポイントであることも伝えたのだ。

「分かった。一度、妻と二人で調査へ向かおう」

 帝国最強の夫婦である。

「ムツカリタの鐘か。カムシン伯爵には私から話を通しておく」

 ウンディーネのことも報告した。


「もしかして、と思っていたが、やはりカークの仕業だったんだな」

 それは<深夜の奇跡>として帝国軍を騒がせた、ヒュドラとデビルヴァイパーのスタンピードだ。

「帝国の上層部には、それとなく伝えてある」

 奇跡を信じた無茶な暴走を抑える必要があった。


「食料品の手配に一日かかるので、明日はフェンリル姉弟と遊んであげてくれ」

 アポロは諦めたような表情で告げる。

「毎回、同じ量を倉庫へ置いておくので、次からは勝手に持って行って構わない。無くなれば直ぐに補充しておこう」

 初回と同じ金貨百枚分だ。費用は小切手で支払い、リクエストがあればメモを残して伝えることになった。




「イワナと鮎の一夜干しです」

 ロクサーヌへのお土産だ。後の処分に困らぬように、食べて無くなるモノを選んだのである。彼女はとても喜んでくれた。




「人間の子供は成長が早い」

 その夜にアポロは、妻のニケへ愚痴を漏らしたのだ。



◇◇◇



「次はグレート・クリフへ向かいます」

 そこから北へ幾つかの開拓団が進んでいた。

「新たな転移ポイントは、二つまでにしておけ」

 アポロに釘を刺される。

「分かりました。それでは行って参ります」

 フェンリル姉弟も見送ってくれた。


 鳥居まで転移して、ドリアードへ挨拶する。霊脈の力で魔力を回復し、ゆっくりと北東へ向かう。



◇◇◇



(グレート・クリフで生鮮食品を仕入れても、まだ俺が眠れる場所は確保できるな)

 カークは馬車の中を見て考える。

(荷物を満載した時のために、一人用のテントを購入しておこうか)

 彼は特殊な移動方法なので、独りで野宿する機会が多いのだ。


(ブリジット先生に貰った教科書は、独学では難しいけれど面白いからな)

 帳簿や整備日誌を記録した後に勉強しており、範囲照明の魔法が重宝している。

(今は純粋な知的好奇心のために勉強しているが、いづれは商売に活かせるだろう)

 恐らく彼女は、そこまで見据えているはずだ。




 街に着いたカークは久し振りに<青翠亭>を訪れ、いつものように独りでディナーを食べる。今日はノンアルコールにした。


「重要案件があるのだが、検討して欲しい」

 カウンター奥の席で食後の珈琲を飲んでいると、エプロン姿で鼻の大きな男が話し掛けてくる。


 グレート・クリフから真っ直ぐ北へ行った突き当たりの山裾に、開拓団によって大規模な岩窟住居が発見された。魔物が住み着いていたので、帝国軍の魔物討伐部隊へ報告する。

 手練れのレンジャー部隊が投入され、今も討伐は続いているのだが、どうも戦況が思わしくない。


 どうやら古代人の遺跡であり、様々な仕掛けが施されていたのだ。


「薬草の村にある教会で顧問として認められ、貴重な装飾品を持っている」

 魔除けの鈴のことを指していた。

「治療魔法が使える上に、霊廟での出来事を経験した者は数少ない」

 カーク以外には、シスター・メリィとクリフト司祭しか居ないのだ。


「一先ずは十日間」

 鼻の大きな男は両手の指を広げた。

「日当は金貨十枚で、オプションもつける」

 声を潜めて囁く。

「安全な仲間だ」

 真剣な表情で見つめる。




「教えてくれ」

 暫し考えてから言った。

「預けてある金貨五百枚を、効率的に運用できる方法はあるか?」

 眠らせておくだけでは勿体無い。


「……そうだな、カークのキャリアならば<持ち株>が認められるだろう」

 静かに話し始める。

「組織の運用資金を投資するんだ」

 一株金貨一枚で、一口百株から購入可能だった。業績に応じて変動するが、配当は最低年利三パーセントが確約されている。年末の決算で利益が確定した後、毎年三月末に支払われるのだ。


「金貨五百枚だと五口が買えて、来年には金貨十五枚が配当される」

 それは最低保証金額であり、過去十年間は毎年数パーセントの上乗せがあった。

「別に様々な株主優待制度がある。初級は系列店で食事が半額になるぞ」

 昇級すると、ホテルやリゾート施設を割り引きで利用できるらしい。


 カークは五口を購入する。


「手続きは任せておいてくれ」

 会員カードが黒曜石に変わった。


「半金を前払いするから、支度に使っても構わない」

 金貨五十枚を受け取る。


「直接向かうのか?」

 地図と黄土色のミサンガが渡されて、五日後の集合場所を教えてもらった。



◇◇◇



「ありがとう、アルベルト」

 翌日の早朝から移動して、深夜には現場である岩窟住居らしき場所に到着する。大森林の上空を、従来以上の速度で飛行してきたのだ。


(暗視魔法は便利だな)

 上空をゆっくりと旋回してもらい、カークは観察を続ける。


『霊脈デスネ』

『かなり濃いわー』

『三叉路でござるな』


 それは暗視魔法を使ったカークにも見えるほどに、太く濃い三本の霊脈だった。闇夜に怪しく光って浮かび上がり、東西からと北からの筋が合流している。その合流地点に岩窟住居が位置していた。


(明らかに古代人は霊脈を認識しており、それを活用する方法を確立していたんだな)

 恐らく薬草の村も、霊脈の影響を受けていると想像された。


(帝国軍の陣地も確認しておこう)

 岩窟住居の前にはバリケードが築かれ、分厚い防衛線が展開されている。開拓団を護るように部隊が取り囲み、今後は街の要所となる場所に建物の基礎が配置されていた。


(田畑や牧場のために樹木が伐採され、幹線道路のレイアウトも縄張りされているな)

 集中講座で学んだ開拓地の開発プロセスを思い出す。

(東西を流れる川の中間点だったのか)

 古代人もここを選んだ理由の一つだろう。


(集合までに、この辺りを探査する)

 岩窟住居の中は予想できないので、せめて周囲の状況は知っておきたかったのだ。アルベルトにも同意を得た。

(東の川から山を北上して西の川へ。各一日ずつを充てれば詳しく調べられるな)

 今は魔物の気配が感じられない。帝国軍の討伐部隊が掃討してから、まだそれほどの時間が経っていないのだ。


『どうせ岩窟住居には入れないでござる』

 それまでにアルベルトの運動を兼ねて、三日間の予定を組んでいた。



◇◇◇



『初めてデスネ』

『何があるかしらー』

『のんびりと過ごすでござる』

 相変わらずカークの仲間は暢気だ。




続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ