第九十一話:持ち株
第十章は奇数日の十二時に投稿します。
(居心地が好くて、つい長逗留してしまった)
北端城で一週間も過ごしたのだ。
(軍需産業の一大拠点だけあって、様々な工房が軒を連ねている)
前回は帝都を目指し急いでいたので、一泊しかしていない。広い街を散策すると、思わぬ工芸品や掘り出し物が見つかったのだ。
また市場調査と称して日々違う店でディナーを食べ、<ヘヴィ・ミート>と<毎日パスタ>以外にも幾つか魚料理のレストランを開拓していた。
つまりは無駄遣いしたのである。
◇◇◇
約束の期日に間に合うように、急いでメボンアの町へと向かい、アロレイ司祭兼代官に会う。今回も新鮮な魚介類と精肉を持ち込み、集合食堂を経営するテレサに喜ばれた。
「冷凍乾燥された食料品は、鉱山の現場でも重宝しています」
昼食を用意する手間が大幅に省けたのだ。教会で保管する非常食以外にも大量の注文を受ける。在庫の殆んどを納品して何とか間に合わせた。
「毎月この量を定期的に仕入れますので、宜しくお願いしますよ」
原価で金貨三十枚、売値で金貨九十枚である。商品の持つ魅力で商売が上手く運んだ。カークは資金繰りと在庫の確保を手配する。
(こんなにも早い時期に、帝都へ戻って仕入れなければならなくなるとは)
紋白蝶に頼むのだ。
『お任せー』
直ぐに引き受けてくれた。
狐娘の回復を確認して、翌日の早朝に町を出る。
『魔力をお願いシマス』
フェアリー経由で、風の精霊であるシルフィに伝言を頼む。サーモントラウト侯爵へ、冷凍乾燥された食料品の追加発注だ。
◇◇◇
「フェニックスと知り合って、大森林の奥にあった古代人の遺跡を訪れたのか」
転移で帝都へ戻り、アポロに報告する。羽根を仕込んだマントも見せた。
「そこにあった鳥居へ、フェアリーが聖なる祝福を施したんだな」
石碑と同様な転移ポイントであることも伝えたのだ。
「分かった。一度、妻と二人で調査へ向かおう」
帝国最強の夫婦である。
「ムツカリタの鐘か。カムシン伯爵には私から話を通しておく」
ウンディーネのことも報告した。
「もしかして、と思っていたが、やはりカークの仕業だったんだな」
それは<深夜の奇跡>として帝国軍を騒がせた、ヒュドラとデビルヴァイパーのスタンピードだ。
「帝国の上層部には、それとなく伝えてある」
奇跡を信じた無茶な暴走を抑える必要があった。
「食料品の手配に一日かかるので、明日はフェンリル姉弟と遊んであげてくれ」
アポロは諦めたような表情で告げる。
「毎回、同じ量を倉庫へ置いておくので、次からは勝手に持って行って構わない。無くなれば直ぐに補充しておこう」
初回と同じ金貨百枚分だ。費用は小切手で支払い、リクエストがあればメモを残して伝えることになった。
「イワナと鮎の一夜干しです」
ロクサーヌへのお土産だ。後の処分に困らぬように、食べて無くなるモノを選んだのである。彼女はとても喜んでくれた。
「人間の子供は成長が早い」
その夜にアポロは、妻のニケへ愚痴を漏らしたのだ。
◇◇◇
「次はグレート・クリフへ向かいます」
そこから北へ幾つかの開拓団が進んでいた。
「新たな転移ポイントは、二つまでにしておけ」
アポロに釘を刺される。
「分かりました。それでは行って参ります」
フェンリル姉弟も見送ってくれた。
鳥居まで転移して、ドリアードへ挨拶する。霊脈の力で魔力を回復し、ゆっくりと北東へ向かう。
◇◇◇
(グレート・クリフで生鮮食品を仕入れても、まだ俺が眠れる場所は確保できるな)
カークは馬車の中を見て考える。
(荷物を満載した時のために、一人用のテントを購入しておこうか)
彼は特殊な移動方法なので、独りで野宿する機会が多いのだ。
(ブリジット先生に貰った教科書は、独学では難しいけれど面白いからな)
帳簿や整備日誌を記録した後に勉強しており、範囲照明の魔法が重宝している。
(今は純粋な知的好奇心のために勉強しているが、いづれは商売に活かせるだろう)
恐らく彼女は、そこまで見据えているはずだ。
街に着いたカークは久し振りに<青翠亭>を訪れ、いつものように独りでディナーを食べる。今日はノンアルコールにした。
「重要案件があるのだが、検討して欲しい」
カウンター奥の席で食後の珈琲を飲んでいると、エプロン姿で鼻の大きな男が話し掛けてくる。
グレート・クリフから真っ直ぐ北へ行った突き当たりの山裾に、開拓団によって大規模な岩窟住居が発見された。魔物が住み着いていたので、帝国軍の魔物討伐部隊へ報告する。
手練れのレンジャー部隊が投入され、今も討伐は続いているのだが、どうも戦況が思わしくない。
どうやら古代人の遺跡であり、様々な仕掛けが施されていたのだ。
「薬草の村にある教会で顧問として認められ、貴重な装飾品を持っている」
魔除けの鈴のことを指していた。
「治療魔法が使える上に、霊廟での出来事を経験した者は数少ない」
カーク以外には、シスター・メリィとクリフト司祭しか居ないのだ。
「一先ずは十日間」
鼻の大きな男は両手の指を広げた。
「日当は金貨十枚で、オプションもつける」
声を潜めて囁く。
「安全な仲間だ」
真剣な表情で見つめる。
「教えてくれ」
暫し考えてから言った。
「預けてある金貨五百枚を、効率的に運用できる方法はあるか?」
眠らせておくだけでは勿体無い。
「……そうだな、カークのキャリアならば<持ち株>が認められるだろう」
静かに話し始める。
「組織の運用資金を投資するんだ」
一株金貨一枚で、一口百株から購入可能だった。業績に応じて変動するが、配当は最低年利三パーセントが確約されている。年末の決算で利益が確定した後、毎年三月末に支払われるのだ。
「金貨五百枚だと五口が買えて、来年には金貨十五枚が配当される」
それは最低保証金額であり、過去十年間は毎年数パーセントの上乗せがあった。
「別に様々な株主優待制度がある。初級は系列店で食事が半額になるぞ」
昇級すると、ホテルやリゾート施設を割り引きで利用できるらしい。
カークは五口を購入する。
「手続きは任せておいてくれ」
会員カードが黒曜石に変わった。
「半金を前払いするから、支度に使っても構わない」
金貨五十枚を受け取る。
「直接向かうのか?」
地図と黄土色のミサンガが渡されて、五日後の集合場所を教えてもらった。
◇◇◇
「ありがとう、アルベルト」
翌日の早朝から移動して、深夜には現場である岩窟住居らしき場所に到着する。大森林の上空を、従来以上の速度で飛行してきたのだ。
(暗視魔法は便利だな)
上空をゆっくりと旋回してもらい、カークは観察を続ける。
『霊脈デスネ』
『かなり濃いわー』
『三叉路でござるな』
それは暗視魔法を使ったカークにも見えるほどに、太く濃い三本の霊脈だった。闇夜に怪しく光って浮かび上がり、東西からと北からの筋が合流している。その合流地点に岩窟住居が位置していた。
(明らかに古代人は霊脈を認識しており、それを活用する方法を確立していたんだな)
恐らく薬草の村も、霊脈の影響を受けていると想像された。
(帝国軍の陣地も確認しておこう)
岩窟住居の前にはバリケードが築かれ、分厚い防衛線が展開されている。開拓団を護るように部隊が取り囲み、今後は街の要所となる場所に建物の基礎が配置されていた。
(田畑や牧場のために樹木が伐採され、幹線道路のレイアウトも縄張りされているな)
集中講座で学んだ開拓地の開発プロセスを思い出す。
(東西を流れる川の中間点だったのか)
古代人もここを選んだ理由の一つだろう。
(集合までに、この辺りを探査する)
岩窟住居の中は予想できないので、せめて周囲の状況は知っておきたかったのだ。アルベルトにも同意を得た。
(東の川から山を北上して西の川へ。各一日ずつを充てれば詳しく調べられるな)
今は魔物の気配が感じられない。帝国軍の討伐部隊が掃討してから、まだそれほどの時間が経っていないのだ。
『どうせ岩窟住居には入れないでござる』
それまでにアルベルトの運動を兼ねて、三日間の予定を組んでいた。
◇◇◇
『初めてデスネ』
『何があるかしらー』
『のんびりと過ごすでござる』
相変わらずカークの仲間は暢気だ。
続く




