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導かれる者  作者: タコヤキ
第一章:旅立ち
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第九話:片手剣

毎週月曜日の十二時に更新予定です。

「昨日は山で落雷があったらしい」

「あんなに天気が良かったのに、不思議なことがあるもんだな」

「そのせいで目の前の獲物に逃げられて、多くの猟師達が迷惑したそうだ」

「一部の狩人は、逃げてくるヤツラを一網打尽にできたらしいぞ」

「どちらにしても、災難だったな」


 教会で日曜礼拝を終えた後に、各種の食材へ<祝福>を与える儀式が執り行われていた。専らの噂話しは昨日の落雷である。


『私達は被害に遭わなくて良かったデスネ』

 他人事のようなフェアリーの言葉を、カークは無視するしかなかった。




「ありがとうございます」

 儀式を終えたカークは、神父様から報酬である金貨四枚を受け取った。これで目標だった鋼鉄製の剣を買う資金が貯まったのである。喜び勇んで部屋を出ようとする彼を、慌てた様子の神父様が呼び止めた。


「軍からの功労金が届いていますよ。受け取ってから行きなさい」

 一瞬なんのことか分からなかったカークだが、直ぐに思い出して割符を探す。砂利を詰めた腹巻きに挟んであった。ほんのり暖かい割符を取り出すと、交換で金貨六枚を受け取ったのだ。

「ありがとうございます」

 改めて礼を述べる。


(すっかり忘れていたぞ。しかし、思いがけない臨時収入は嬉しいな)

 ヒュージ・スコーピオンとの戦闘は強烈な出来事だったが、その後の成長と新しい魔法の習得による葛藤が勝っていたのだ。そして本来は正当な報酬なのだが、彼は幸せな思考回路の持ち主だった。

(無駄遣いしそうだから、先にズボンを受け取りに行っておこう)

 なんとか自制する冷静さは残っていたようだ。



◇◇◇



「できているぞ」

 ランチの後で店を訪れると、ブル店員の方から声を掛けてきた。

「拝見します」

 折り畳まれたズボンを受け取ると、早速、試着室で履き替える。


「おや、これは?」

 股と脚の内側にある縫い目の部分に、黒くて伸縮性に富んだ革が継ぎ足されていたのだが、太股の前面に湾曲した薄い鉄板が縫い込まれていることにも気付いた。

「破れていたので補強しておいた。サイズには余裕があるはずだぞ」

 ブル店員は無愛想に告げたが、少し自慢なのか鼻の穴が広がっている。

「ありがとう。問題ない」

 カークは素直に感謝して、金貨二枚を渡した。

「良いデキだ。これぞ一生モノだよ」

 ブル店員が注文以外に施した勝手な改造であるが、彼もその内容に納得したので対価を支払ったのだ。

 しかし、結局は無駄遣いである。


(この店は長くないと思う。客の注文にない作業を、店員が勝手に追加することを止められていない)

 今回は仕上がりに満足したので文句は言わず、余計なトラブルを避けるために追加で支払っておいた。敢えて言えば、ブル店員の悪癖を助長したのである。


『安心できる補強デシタ!』

 フェアリーは喜んでくれた。



◇◇◇



(さて、それでは肝心の武器だ)

 カークは逸る気持ちを堪えて、意識的にゆっくりと武器屋への道を歩く。この四週間という期間は、金貨二十枚を貯めることに費やしてきたのだ。

(城壁の補修作業、過疎村への行商、山小屋に緊急支援なども行ったな)

 商人組合の斡旋により、様々な仕事をこなしてきた。

 更に治療魔法が使えることで、教会からも仕事を貰えたのは幸運だったといえる。

(この短期間で身体も随分と成長したぞ)

 ゴブリンやコボルトは瞬殺であり、魔物化した野犬にカラスや吸血蝙蝠などの対応にも慣れていた。


『着きまシタヨ!』

 フェアリーまでワクワクした表情だ。


「いらっしゃいませ」

 入り口でカークが商人組合の登録証を見せると、店員はこちらから問い合わせるまで話し掛けてこなくなる。自分が満足するまで、勝手に品定めができるのだ。と言っても毎週教会の帰りに通っていたので、既に店員とは顔馴染みになっていた。




(よし、やっぱりコイツにしよう)

 彼が選んだのは、長さ八十センチの片手剣である。

(護拳の形や大きさも良い感じだ)

 並べて陳列されている鞘の外観も気に入っていた。

(あちらのロングソードにも惹かれるが、今の俺の体格には長過ぎる)

 カークが選んだ片手剣の二倍の長さがあり、両手で持てるように作られた柄も太い。

(あの鞘は、どう見ても馬に取り付ける構造だしな。値段も含めて憧れの存在だよ)

 彼の想像通り、その剣は騎士のために用意されたモノだった。


「決まったのか」

 声を掛けてきたのは、恰幅の良い熟年の男だ。その渋い声と印象的な姿は、商人組合の事務所でも見かけた記憶がある。

「良い品を選んだな」

 彼はカークが決めた片手剣を、陳列棚からおもむろに取り外した。

「ソロの旅商人が自衛のために備えておくには些か贅沢だが、安心して命を預けられる逸品であることは当店が保証しよう」

 不思議と大袈裟な話し方が似合っている。


「値札通りに剣が金貨二十二枚、鞘は金貨三枚だ」

 熟年の男が商品を持ってカウンターへ向かった。

「毎週熱心に通ってくれていたし、組合での評判も聞いている」

 なにやら小さな木箱を取り出す。

「これは私からのプレゼントだよ」

 蓋を開けると砥石が入っており、下側の小さな引き出しには大小のヤスリとサンドペーパー、グリスの壺が収納されていた。

「奥に居る職人から、日頃の手入れ方法を教えて貰うと良い。この後で声を掛けておこう」

 元に戻した木箱を、革の袋へ包んでくれる。

「では、支払いを」

 カークは慌てて財布を取り出した。

 コインカウンターへ金貨を並べて、確かに二十五枚あることを確認する。


「これが店の保証書だ。無くさないように保管しておいてくれ」

 日付と商品名を記入すると、その羊皮紙を丸めて紐で綴じた。

「当店は帝都に本店を構えており、他にも主要な都市へ支店を出している。そこでこの保証書を提示すれば、専門の職人によるメンテナンス・サービスを受けられる仕組みだ」

 状態に応じて費用は違うらしい。因みに店名が<ランプレディ武器商店>であることを、保証書を見て覚えたのである。




「その棍棒を見せろ」

 手入れ方法を教えて貰うために案内された職人は、右足が無く老いたドワーフだった。

「自分で巻いたのか?」

 豊かな白眉の奥に鋭く光った眼差しで問われ、カークは正直に肯定して頷く。


「使っているうちに歪み、その度に持つ向きを変えたんだな」

 矯めつ眇めつ樫の棍棒を改めた老ドワーフは、正確に彼の使用履歴を読み取る。

「力任せに何度も撲ってきたんだろう。良い素材だが、同じ使い方をしていると半年持たないぞ」

 嗄れた声と共に、グイッと突き返された。


「老翁、今回購入されたのはこの剣です」

 熟年の男が割って入る。

「分かっとるわい」

 荒い口調とは違って、両手で丁寧に受け取った。


(熟練者を敬っているのか)

 この店に対するカークの信頼度が増す。


「ふん。棍棒の使い方からすると全くの我流だが、意外と良い眼を持っているな」

 カークの体格と片手剣を見比べた老翁は、彼の選択眼を褒めてくれたようだ。

「これまでの棍棒で叩き潰すのとは違い、剣は斬れることを知っておけ」

 そう言ってカークに剣を持たせる。

「ミートポイントはこの辺りだ」

 金属製のガントレットを手に嵌めると、老翁は刃先の少し手前を握った。


「斬り付ける角度が片寄ると、偏磨耗と歪みに繋がるから、常に注意することだ」

 ガントレットの指で剣を撫でる。

「柄は楕円形だが反りが付いていない。護拳は取り付ける向きを変えられるので、重心に異常を感じたら直ぐに換装しろ」

 詳細な構造を教えてくれた。

「軍へ入隊する前に、我流で変な癖がついてしまわないよう、早い時期に誰かの指導を受けることだな」

 熟年の男とカークは、黙って話を聞き続ける。

 広い店内の散策へ出掛けたのか、フェアリーの姿は見えない。


「これから手入れの方法を説明するぞ。剣がどのような状態になるのか、使い方から推測してみるんだ」

 その後も老翁の説明が小一時間続いた。お陰でカークは貴重な知識を得ることができたのだが、店側としては老翁の時給換算で赤字になったと思われる。


 宿に戻ったカークは、今日得た知識をメモにまとめて記しておいた。



◇◇◇



「気を付けるんだぞ」

 武器屋の帰りに青嵐亭を訪れたカークは、一週間後に旅立つことを伝える。


『私が着いていますカラネ! 大丈夫デスヨ!』

 将来への希望と不安が混ざった表情のカークを、フェアリーは元気に励ましてくれた。




続く

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