表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導かれる者  作者: タコヤキ
第九章:開拓地訪問
89/145

第八十九話:鳥居

第九章は奇数日の十二時に投稿します。

(新鮮な淡水魚を大量に仕入れてしまったが、村長の販路に影響はないのだろうか?)

 カークは悩みながら、北端城を目指して大森林の上空を飛んでいた。村の名前がムツカリタというのを最後に知ったのだ。


(次の北端城は大都市なので、二日前の距離で地上へ降りるぞ)

 アルベルトも同意する。

(予備の武器や防具は不要になってしまったから、別の物を仕入れようか)

 よく晴れた春の陽射しを浴び、天翔馬(ペガサス)が牽く馬車は宙を駆けていた。




『おーい』

 遠くから呼ぶ声がする。


『まだ若い子デスネ』

『好奇心が旺盛よー』

 フェアリーと紋白蝶は誰か分かったようだ。

(ドリアードが認識阻害してくれている筈だが、半減したから効果が薄れたのか?)

 それは違う、と強く抗議された。


『あの気配は、不死鳥(フェニックス)でござる』

 親切なアルベルトが教えてくれたのだ。




『こんにちわー! 初めましてー!』

 少し速度を緩めると、間も無くして追い付いたフェニックスはアルベルトへ挨拶する。

『オイラはケロシってんだ! 宜しくな!』

 鷲に似た猛禽類の容姿だが、燃えるように真っ赤な全身と金色の冠毛を輝かせていた。体長は十メートルで、翼を広げると十五メートルにもなる。


『ふーん、アルベルトさんか。ペガサスさんを山のコッチ側で見かけたのは、今日が初めてだよ』

 左側に並んで飛ぶケロシは、中央山脈の西から来たようだ。山を越える、という人間には困難なことも、フェニックスである彼には容易い。


『じゃあ競争しよう!』

『待たぬか。カーク殿への挨拶がまだでござる』

 逸るケロシをアルベルトが窘めた。


『うぇーっ!? 金魂漢さんじゃないか!』

 カークに気付いた彼が叫ぶ。

『オイラ初めて逢ったぜ!』

 彼が騒がしいのは、若いだけではなさそうだ。

『話には聞いていたけど、本物は格好良いなー』

 嬉しそうに翼を羽ばたかせる。

『そんな美人を二人も連れているなんて、金魂漢さんは隅に置けないぞ!』

 フェアリーと紋白蝶にも挨拶した。


『金魂漢さんも、一緒に競争だ!』

 グリフォン革のブーツとマントで宙を駆けることは可能だが、移動速度では決してこの二人に追い付けないだろう。

『アルベルトに任せるよ』

 そう伝えて手綱を握り直した。




『意外と速くなったでござる』

 瞬発力こそフェニックスのケロシに敵わなかったが、いつまでも加速を続けるペガサスのアルベルトは、気付けばかなりの高速に達していたのだ。

『これはこれで楽しいでござるな』

 高速飛行の魅力に目覚めたらしい。


『負けないぜ!』

 背後へ迫るアルベルトを引き離すべく、更なる加速を始めたケロシだが、直ぐにスタミナの限界を迎えた。


『……飛び過ぎたんだ』

 ヘロヘロと力無く減速する。

『いつもの休憩所へ行こう。案内するよ』

 彼は滑空に移った。



◇◇◇



『あの輪っかの真ん中だぞ』

 ケロシに連れて来られたのは、メタセコイヤの並木が直径五キロの輪を描いている地域だ。鬱蒼と繁った樹木の中に、特徴的な三角屋根の建物が埋もれている。


『いつもここで休憩しているんだ』

 彼が降りたのは、中心にある鳥居のような止まり木だった。花崗岩を組み合わせて作られた鳥居は、長い年月を経てかなり草臥れていたのだ。


(あの建物は、古代人の霊廟と似ている)

 止まり木の周りを囲う舞台のような処へ降りたカークは、周囲の建物を見回して疑問を抱く。


『昔は人が沢山住んでいたけれど、いつの間にか誰も居なくなっちゃったんだよ』

 フェニックスのタイムスケールは不明だが、恐らくは数百年単位だと推測される。

『ちょっと前に来た時には、何だか汚いゴミが溜まっていたんだ』

 彼が<浄火>で掃除したらしい。


『なあ金魂漢さん。その馬車から、美味しそうな気配を感じるんだけど……』

 ケロシは空腹なようだ。


『冷凍した淡水魚だが、良ければどうぞ』

 カークは仕入れたイワナと鮎を運び出した。


『こりゃあ旨い!』

 保冷用の氷ごと食べたフェニックスのケロシは、喜びを隠さず大袈裟に羽ばたく。

『ウンディーネの聖水と同じ旨さだ!』

 カークは微妙な気持ちになった。




『なあ、ケロシ。もしかして<汚いゴミ>とは、こんなヤツじゃあなかったか?』

 カークは<寂しん坊の指環>の機能を使って、古代人のアーク・リッチの記憶を共有する。


『うーん。確かそんなヤツだったと思う』

 あまり覚えていないようだ。

『全部の建物からウジャウジャ出てきたから、纏めてみんな焼いたんだよ』

 面倒臭かったらしい。


(間違いないぞ)

 カークは目眩を覚えた。

(この地はかつて、古代人達が住む街だったのだろう)

 三角屋根の建物から推測したのだ。


(俺の推測だが、魔法の発展により<個人主義>が歪に進化したのではないだろうか?)

 これまでの経験を踏まえた想像である。

(それぞれが魔法を極めて、アーク・リッチになるまで登り詰めた)

 遺された三角屋根の建物は、お互いにかなりの距離がおかれていたのだ。


(たった一人でもコ・ドゥア氏があれほど苦労したのに、フェニックスのケロシは街単位で掃除したんだな)

 恐ろしいプレッシャーを思い出す。


『霊脈の集積地デスヨ』

『とても濃いわー』

『ポカポカでござる』

 フェニックスが休憩所に選ぶほどの場所だ。こんな処へ人間が住んでいると、アーク・リッチになるのは必然的なのだろう。


(積極的に介入しないが、精霊達は間接的に人類の生活と進化へ影響を与えていたのか)

 人類にとって脅威となる存在を、汚く感じただけで浄火してしまったのだ。


『大体は合ってマスネ』

 フェアリーが同意してくれた。




『金魂漢さんは飛ばないのか?』

 ケロシが唐突に尋ねる。


「少しだけなら宙に浮けるが、速くは動けない」

 グリフォン革のブーツとマントへ魔力を込め、ゆっくりと浮上し鳥居の高さまで静かに昇った。

「これが精一杯だな」

 ケロシの周りを回る。


『ふーん。それじゃあ不便だろう?』

 いや、そうでもない。

『オイラの羽根をあげるよ』

 二枚貰った。

『マントに仕込んでおけば、もっと速く飛べるぜ』

 魚のお礼らしい。

『試してみなよ』

 マント内側に仕込んで魔力を込めると、猛烈な勢いで垂直に飛び上がった。


(魔力の変換効率に優れている)

 カークは落ち着いて魔力を制御し、普段のアルベルトと同じ速度まで落とす。

(確かに、空を飛ぶのは楽しいな)

 水平飛行に移り、メタセコイヤの並木に沿って旋回してみた。眼には見えないが前面に紡錘型の結界があり、それが空気を掻き分けているので風は感じない。




『お礼に祝福しマスネ』

 飛行中にはしゃいでいたフェアリーと紋白蝶は、鳥居へ戻るとケロシに感謝を伝えた。

『霊脈から魔力を借りマスヨ』

 フェアリーの身体が光り始める。


 彼女がキッカケを作ったのか、周囲から虹色に輝く光の粒子が立ち昇った。徐々に量が増えて、鳥居ごとケロシを包む。


『こりゃあ気持ち良いな』

 フェニックスは大きく翼を広げ、恍惚とした表情を浮かべる。

『疲れがとれたよ』

 パタパタと翼を羽ばたかせた。


『やっちゃいまシタネ』

『浄化装置よー』

『驚きでござる』

『スゲーな、フェアリーちゃん』


 草臥れた花崗岩の鳥居は、その素材が大理石のように変質している。そして陽炎を纏い、輪郭を揺らめかせていたのだ。


『霊脈が枯れない限り、浄化し続けるわ』

『うむ。ここは妖精と精霊の楽園になる』

 ドリアードの牡株と牝株の二人が発言した。フェアリーがやらかした聖なる祝福の余波を受け、急成長している。


『我等はこの地に決めました』

 開拓者として、古代人が遺した街を再建するらしい。しかし、ここに住むのは妖精と精霊だ。


『転移のポイントよー』

 紋白蝶がクルクルと舞う。


『今度は友達を連れてくるぜ』

 ケロシも喜んでいる。


(穢れを浄化し、魔物を斥け、治癒を振り撒く。これは最早<神器>と呼べるのではないか?)

 カークは呆れていた。




『この葉を頭に乗せて祈れば、認識を阻害する魔法が使えます』

 ドリアードが分けてくれた葉っぱを、フェアリーと紋白蝶が頭に乗せる。


『ここまでありがとうございました』

『いつでも遊びに来てください』

『オイラはもうちょっと遊んでから帰るぜ』


 カーク達は夕暮れの前に旅立つ。



◇◇◇



『休暇村デスネ』

『いつでも行けるわー』

『宿泊施設が欲しいでござる』

 カークの仲間は喜んでいた。




続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ