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導かれる者  作者: タコヤキ
第一章:旅立ち
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第八話:霹靂

毎週月曜日の十二時に更新予定です。

ブックマーク登録と高い評価をいただきました。ありがとうございます。

 気を取り直したカークは、まず服を買いに出掛けた。


 マントで尻が裂けたズボンを隠し、町の屋台で朝食を買って食べる。鶏ガラで出汁を取ったトマトスープのパスタだけではもの足らず、ソーセージがパンの三倍は長いホットドッグも平らげた。パンはソーセージを挟んで持つだけの役割りである。


(まだ服飾店は開いていないんだな)

 早朝から服を買う客は少ないようで、カークは途方に暮れてしまった。

(では、道具屋筋へ行こう)

 彼は目的地を変えて、そそくさと歩き始める。




「いらっしゃいませ」

 彼が訪れたのは釣具も扱う小物店だ。

「相談がある」

 若い男の店員へ話し掛けた。

「トラベラーズ・インに連泊しているが、食事を今より多彩にしたいと考えているんだ」

 厳つい顔をしたカークの言葉にも、店員は普通の笑顔で頷く。

「実は安い魚を買って、腹を下したことがある」

 店員へ打ち明けるように小声で話した。

『真実の全てではありませんケドネ』

 フェアリーの突っ込みは無視しておく。


「低予算だが、最低限の機能と耐久性を備えた組み合わせだよ」

 若い男の店員が用意してくれたのは、短い釣り竿と二巻きの糸、小型の浮きと折り畳んだ葉っぱに収納された十本の釣り針だった。

「竿は一本が六十センチの三本組みで、組み合わせで長さを変えられる」

 二本だけと三本全部のどちらかを選べるのだ。

「対象となる魚は十から二十センチまでの大きさで、それに合わせた強さと細さの針と糸にした」

 小さくまとまり可搬性にも優れている。

「初心者用の渓流釣りセットで、全部込みだと銀貨二枚にオマケしよう」

 小魚の干物であれば、二十枚は買える値段だった。

(二十匹以上を釣れれば、元が取れる計算だな)

 カークは礼を述べて支払う。


 その他にも火熾し用の金具と着火剤、諸々の消耗品を吟味して安く揃える。複数の店舗を巡ったので、買い物を終えた頃には丁度よい時間になっていた。




『あっ、あの帽子が可愛いです……ケレド、今の服装には似合いまセンネ』

 服飾店が並ぶ商店街を歩いていると、店頭の陳列を眺めてフェアリーがはしゃぐ。しかし、彼女の好みはカークのセンスとは合わなかったのだ。


『犬獣人さんのお店デスヨ』

 フェアリーが見つけてくれたのは、革製品を取り扱う店舗だった。この地方の革職人には犬獣人が多い。加工工程に彼らの優れた筋力を必要とするのだ。

『品揃えが豊富デスネ』

 買い物好きなフェアリーは、上機嫌で広い店内を巡っていた。


「相談がある」

 カークに負けず厳つい店員へ話し掛けた。

「何だ?」

 ブル系の犬獣人の店員は、小さい子供ならば泣き出してしまいそうな迫力の持ち主であった。

「このズボンを仕立て直したい」

 そっとマントを脱いで、静かに後ろを向く。

「……測るぞ」

 お尻が裂けたズボンを見ると、店員は直ぐに察してくれた。


「一生モノだと思って、金貨二枚半で買ったんだ。できれば長く使いたい」

 脱いだ鞣し革のズボンを点検するブル店員へ、カークは希望を述べる。採寸が済み、腰に巻いたマントで下半身を隠していた。


「相手は?」

 ブル店員が切れた左腿の傷を指して問う。

「ヒュージ・スコーピオンの爪にヤられた」

 その答えに黙って頷く。


「一度バラして継ぎ足す」

 方針が決まったようだ。

「工賃と材料費込みで金貨一枚」

 半額を先払いする。

「明日の昼までだ」

 預り証を貰った。


「替えのズボンはこれにしろ」

 深い藍色で厚手な生地のズボンは、ゆったりとしたサイズだ。臀部と膝には革を当てて補強してある。有無を言わさず押し付けられたが、料金は銀貨八枚だった。

(太さに合わせると丈が長い)

 裾を折り畳んでブーツへ押し込んだ。




 ランチには、最近流行り始めた中へ挽き肉を詰めて揚げてあるパンにした。ピリッと効いた香辛料が食欲を誘い、結局は三つも食べてしまったのである。


 釣り道具を持って北門へ向かう。今から釣りに行くと言ったら、門番の衛兵に怪訝な顔をされた。

「アンタなら大丈夫だと思うけれど、魔物に襲われて危ないと感じたら直ぐに逃げるんだぞ」

 昨日はヒュージ・スコーピオンと遭遇して倒してしまった彼だが、顔見知りのことを心配してくれる衛兵に謝意を伝えて出発する。



◇◇◇



(さて、実際には釣りだけが目的ではない)

 北東へ進んで川に沿って遡り、二時間近く歩いた先には落差が六メートルほどの滝があった。そこへ辿り着くまでにゴブリンを三匹叩きのめしたのだが、強くなった彼には以前のような手応えは感じられなかったのだ。


(新たに覚えた魔法を試そう)

 渓流釣りのポイントは交通に不便なところが多く、他の誰かと出会うことは少ない。独りで隠れて魔法を試すには、格好の環境であると考えたのだ。

『私がついていますケドネ』

 フェアリーはふよふよと浮いていた。


 中央に滝がある高さ六メートルの崖は、左右に幅二十メートルほど広がっている。滝の幅は三メートル。丁度真ん中辺りに五十センチの黒い岩が突き出していた。滝壺は半径十メートルの扇形をしており、向かって左側にズレたところから幅二メートルの川が流れている。

 滝壺の周囲は草が生い茂り、処所に大きな岩が散在していた。かなりの規模で地殻変動があったのだろう。

 カークが立っているのは、滝壺から二十メートルほど離れた岩の上だ。プラズマ・ボールの射程距離の限界に近く、確認には最適な環境だと思える。


『周囲に人の気配はありマセン』

 フェアリーが報告してくれる。

(よし、やってみるぞ)

 フェアリーに教えてもらった呪文を唱えた。初めてなので少し時間がかかる。カークの全身を淡い光が包み、目の前に青白い光球が浮かび上がった。


『射ち出す方向と速度を決めて、心の中で強く念じるのデスヨ!』

 カークは一番目立つ標的として、滝の途中に突き出した黒い岩を選んだ。

(最高速で、あの岩を)

 ハッキリと視認した岩に向かって念じる。


 ピシャーン! バリバリ……


 次の瞬間、光球は岩に当たって弾け、強く輝きながら放射状に周囲へ拡散した。その際に発生した落雷のような音で、付近に潜んでいた鳥達が一斉にバタバタと翔び立つ。


 通常であれば至近距離で落雷に遭遇すると、間違いなく感電被害を被るのだが、彼の身体を包む淡い光によって保護されていた。特に額へ巻いてある鉢金が危険だったのだが、本人はまるで気付いていない。


(光と音の目眩ましなのか?)

 チカチカする眼を瞬たかせ、カークは魔法の効果を判定した。

『違いマスヨ!』

 フェアリーが怒って叫ぶ。

『ホンの一瞬だけデスガ、高電圧の大電流が走り、超高温が発生するノデス!』

 かなり興奮した様子で、両手の拳を握りブンブンと振り回している。

『雷様と同じデスヨ!』

 自分の言葉で更に興奮が昂ってしまったらしい。プンスカしながら辺りを飛び回っていた。

『強くなればドラゴンでも一撃ですカラネ!』

 本当だろうか?




『とにかく、強い魔法なノデス』

 二~三分して戻ってきたフェアリーは、ゼイゼイと肩で息をするような仕草でカークに向かって主張する。

(普段使いできる魔法ではない、と分かったよ)

 真面目な表情で答えた。


(しかし、今の騒動で、魚は逃げてしまったな)

 魚どころか周囲には野生動物だけではなく、魔物の気配すら皆無だ。彼等にとっては正に青天の霹靂だったのだろう。


(だが、これで決まったぞ)

 カークはスッキリとした表情だ。

(鋼鉄製の剣にしよう)

 軽い足取りで町へ向かう。

(俺には治療魔法もある)

 呪文を唱えるのも速くなった。

(肉を斬らせて骨を断つ、ではないが、攻撃こそ最大の防御だ)

 物騒な考え方の商人である。




『プラズマ・ボールの魔法は、取って置きで最後の切り札なのデスネ』

 フェアリーも納得したようだ。




続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] ネタに走らず真面目な展開でよかったです。 釣具を買ったあと、水辺で妖精さんが裏切りの 「水面にプラズマボールを打ち込むと、魚がショックで浮いてきまスヨ」「釣具は罠や縫う用でスネ」とか言い始…
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