表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導かれる者  作者: タコヤキ
第八章:商人として
78/145

第七十八話:目標

第八章は奇数日の十二時に投稿します。

「いいね」や評価ポイントが増えていました。ありがとうございます。


(僅か一年でここまで変わるとは、まるで予想できなかったぞ)

 樫の棍棒に滑り止めの縄を巻き、力任せに振り回していたことを思い出す。そして鋼鉄製の片手剣を購入するために、様々な仕事を経験したものだ。




 一週間でカークの装備が揃った。金属製の兜とデビルトータスのラウンド・シールドは以前のままだが、その他は一新されたのだ。


(ドラゴン・ヴァイパーのスケイルアーマーならば、下にチェインメイルを着なくても防御力は高いのか)

 カークのクリティカルヒットで切り裂かれたが、ドラゴン・ヴァイパーの革と鱗は通常の金属製の鎧よりも防刃効果が高く耐衝撃性にも優れている。ニケの魔法によりサーモントラウト侯爵家のシンボルカラーであるエンジ色に染められているので、見た目の武骨さは大幅に緩和されていた。


(ワイバーン革のズボンにグリフォン革のブーツとマント、ベヒモス革のベルトとグローブだ)

 もはや旅商人の装備ではない。

(そしてサーモントラウト侯爵家が所有していた、ミスリル銀製のロングソードが二本にエルダー・トレントの枝で作った弓まで貰えたぞ)

 弦はシーサーペントの腱で、アルベルトのハーネスにも使用されている素材だ。

(総額が幾らになるのか、想像もつかないな)

 レアモンスターであるメタリック・ジェル一匹分の素材だけで、今の装備ならば十人分が揃えられるらしい。




(更にはサーモントラウト侯爵家から励勤屋へ、活動資金として毎年金貨一万枚が融資されることも決まった)

 担保はメタリック・ジェルの魔石である。様々な魔法の触媒として活用できるので、継続して莫大な利益を生み出すと説明された。エルフの寿命は長い。触媒として使用されるので魔石の消耗も少なく、カークが生きている間は安定して継続される見通しだ。


(商人組合にある<励勤屋>の口座ではなく、帝国銀行に俺の個人口座が作られたのか)

 それは貴族としての特権だった。そこへ金貨一万枚が入金されている。認証カードと通帳に加えて、小切手帳まで揃えてもらった。


(もう<利益を稼ぐ>という、商人として働く理由が無くなってしまったな)

 カークは大いに迷う。

(いや、大丈夫だ)

 オーラルケアの啓蒙と医薬品の販売により、人々が健康な生活を送れるように支援する。冷凍乾燥された食材の普及により、便利で旨くて栄養豊富な食事を定着させるのだ。


(一人でも多くの人々が、豊かで幸福な人生が送れるように手助けをしよう)

 彼が商人として生きる目標が決まった。

 無意識だが貴族と同じ<施す側>に立って、物事を考えるようになったのだ。



◇◇◇



『カーク兄さん、慣らしは重要です』

『カーク兄ちゃん、皆と一緒なら楽しいね!』

 今日は大森林の運動場を訪れている。


 JJとDDのフェンリル姉弟と天翔馬(ペガサス)のアルベルトに加えて、ケルベロスのデューイやオルトロスのヴァルカンとサンドラも一緒だ。エルダー・トレントのルピへ挨拶すると共に、カークが新しい装備に慣れるため魔物を狩りにきている。


『今日のお土産はグリフォンの羽根です』

『前に倒したんだよ』

 フェンリル姉弟は更に強くなっていた。


「よく来たな」

 大森林の奥にある泉の隣に生えている古い大木が、森の老人と呼ばれるエルダー・トレントのルピだ。

「ほう、金魂漢よ。そなたは二倍になっておる」

 以前は四割だった。

「なるほど、メタリック・ジェルを倒したのか」

 樹の幹に浮かんだ、髭の長い老人の顔が納得の表情を浮かべる。


「その弓はワシの枝で作ったヤツだな」

 カークが背負っている弓を見て言った。

「では追加で枝を三本譲ろう。それで矢と矢筒を作ればよい」

 頭上でバサバサと音がすると、目の前に太い枝が三本落ちてくる。

「魔力さえ補充すれば、矢は何本でも再生できるぞ」

 カークは枝を拾って縄でまとめた。

「紋白蝶に頼めば、放った矢の回収も容易であろう」

 意味不明な事を話す。

「グリフォンの羽根と爪が残っていれば、それを使って良い矢ができるのだが」

 帰ったら尋ねてみよう。


「なんじゃ、グリフォンの靴を履いておるではないか」

 今更ながらに気付いたように話す。

「その様子ならば、まだ試しておらんな」

 魔力を込めれば宙を駆けられるらしい。

「この後で練習しなさい」

 マントも同時に使えるようだ。


「ではまた会おう。元気でな」

 快く見送ってくれた。




『カーク兄さんが鬼よ』

『逃げろー!』

 大森林の運動場で鬼ごっこが始まる。珍しくトロルが五十匹以上も群れを作っていたので、ついでに間引いておくことにした。


『今ので五匹連続だわ』

『よーし、負けないぞー!』

 フェンリル姉弟はトロルの頭を蹴り、地面に下りないで何匹連続で倒せるのかもチャレンジしている。


(身体を動かしながらの魔力制御は難しい)

 カークはグリフォンのブーツへ魔力を込めて、宙を駆ける練習をしていた。身体中から漏れた魔力をミスリル銀製のロングソードに纏わせ、スパスパとトロルの首を刎ねている。


『やられたー!』

 弟のDDが、カークに尻尾を触られたのだ。鬼の交代である。


『もう十匹しか残っていないのね』

 姉のJJが不満を漏らした。


 アルベルトは微笑みながら見守っている。


『ボクが負けちゃったな』

 DDは笑いながら尻尾を垂らす。トロルが全滅した時点で鬼ごっこも終わったのだ。遊び始めてから十分しか経っていない。


(よい練習になったぞ)

 カークは短時間で宙を駆ける動きがマスターできた。彼の反射神経や平衡感覚といった、身体能力が底上げされていたのだ。



◇◇◇



「待っていましたよ」

「時間はとらせない」

 転移で戻ってきたら、屈強な熊獣人の二人が出迎えてくれた。サーモントラウト侯爵家の警備員を勤めているガイルとゲイルだ。


「成長しましたね」

「雰囲気が違うぜ」

 年末に楯の使い方を教えてくれたコンビは、カークがメタリック・ジェルを倒したことを聞き付けて、どれ程成長したのかを確かめに来ていた。


「ルールは前回と同じです」

「手加減も忘れないからな」

 練習用の木刀と楯も準備してある。


 カークは確かに成長していた。前回の経験があったといえども、二人の動きに着いて行けたのだ。そしてグリフォンのブーツを発動させると、初めて優勢となった。


「それは狡いですよ」

「でも負けないぜ!」

 ヒートアップしたガイルとゲイルは、更にギアを上げて連携する。フェイントが見破れなくなったカークは、なす術もなく圧倒されたのだ。


(毎日トレーニングを続けている二人には、どうしても技術が劣ってしまう)

 見て直ぐに動きを真似しても、所詮は付け焼き刃で自分のモノにできていなかった。

(速度で上回っても、絶対的な体格差は覆せない)

 成長したカークでも、二メートル百二十キロを超える熊獣人の巨体には負けているのだ。

(その差を埋めるのが、装備や魔法なのか)

 激しい攻防を繰り広げながらも、並列思考で一つの結論へ辿り着けた。



◇◇◇



「冷凍乾燥の食材も補充できたな」

 退役軍人の傭兵という販路を見つけられたので、積極的に売り込むことを決めたのである。資金に余裕ができたことも大きく影響していた。


(商品の価格表も専門のデザイナーに作り直してもらえたし、自己紹介と宣伝を兼ねたビジネスカードまで用意してくれたぞ)

 カークが書いた価格表を見て、虎獣人のリックが手配してくれたのだ。


 出発前夜のディナーに呼ばれて本館を訪れる。


「カーク、今年はもうこれ以上のサプライズは要らないから、ゆっくりと旅を楽しんできてくれ」

 サーモントラウト侯爵のアポロは、まだ一月なのにお腹一杯な表情だ。

「我がサーモントラウト侯爵家は、カークが経営している<励勤屋>を後援することに決めた。本日よりこの徽章を常時携帯することを認める」

 貴族の御用商人として認可されたのである。彼はカークの心構えが変化したことを知ったのだ。


(確かに<熱量交換>という危険な魔法が使える者を、帝国としては放置できないんだな)

 貴族の御用商人という特権を与えることによって、帝国の管理下に置く必要性を理解した。アポロが想定している思惑の範囲は、カークには想像もつかないほど広いのだろう。


「これからも、帝国の繁栄に貢献して欲しい」

 カークは謹んで徽章を受領する。

 この出来事を知ったロクサーヌは、涙を流して喜んでくれた。



◇◇◇



『再出発デスネ』

『期待しちゃうわー』

『馬車を牽くのはお任せあれ』

 カークの仲間は、相変わらずのマイペースだ。




続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ