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導かれる者  作者: タコヤキ
第八章:商人として
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第七十四話:アイデア

第八章は奇数日の十二時に投稿します。

(調子に乗り過ぎたな)

 日が暮れても雨は降り続いていた。

(仕方がない、今夜は野宿だ)

 サハギンの群れを掃討することに、時間を忘れて夢中だったのである。

(まあ、そのお陰で、プラズマ・ボールの便利な使い方をマスターできたぞ)

 カークは自分の閃きに満足していた。


 サハギンが湧いていた沼から離れて、ドリアード達が整えてくれた空き地へ停まる。四方八方から木々の枝が集まり、雨避けの庇を作ってくれた。集中講座の授業で使った簡易コンロを用意して、大量のお湯を沸かす。


「どうぞ」

 サハギンの魔石を回収するために、十六名のウーイが集まっていた。その彼らに紅茶を振る舞ったのだ。

 お礼に踊りを見せてくれる。動きはバラバラだが、感謝の気持ちは充分に伝わってきた。踊り終わると魔石の回収へ出掛けてしまう。ウーイは夜の暗闇の中でも活動できるのだ。




 範囲照明の魔法で辺りを照らす。夜の森は静寂に包まれていた。カークとアルベルトがサハギンを掃討した余波で、辺りに生物は残っていない。


「魔力が欲しいのか?」

 二つのプランターに植えられた二組のドリアードの若木から、カークに対して控えめな依頼があった。

「森の木々を癒すんだな」

 朧気ながら意思を感じる。

「加減が分からないから、過不足があれば教えてくれ」

 いつもはフェアリーが魔力を供給しており、カークが直接与えることはしていない。両手の掌をかざして、体内を巡る魔力をゆっくりと放出した。


「……もう充分なのか」

 直ぐに止められる。意外と限界が低い。ばら蒔いた小粒なプラズマ・ボールの三つ分だ。カークは最小限に魔力を絞ったのだが、小粒の一つだけで三匹のサハギンを爆散させていた。明らかにオーバーキルだ。

「これでも多すぎるのであれば、今の俺には制御が難しいぞ」

 困った顔でドリアード達へ話しかける。


『急に魔力が増え過ぎマシタ』

『十倍の一割は一人分なのよー』

 フェアリーと紋白蝶の説明によると、カークはこの一年で魔力が急激に増えたらしい。百ポイントの一パーセントは一ポイントだが、一万ポイントの一パーセントは百ポイントなのだ。

「魔力を少しずつ使う練習が必要だな」

 新たな悩みを抱えた。




「安全宣言を伝えてきたでござる」

 白い羽根を折り畳んだアルベルトが降りてくる。夜の空中散歩に行っていたのだ。

「噂話しが好きなシルフィ達へ知らせたので、あっと言う間に他の妖精へも広まるであろう」

 風の妖精と出会ったらしい。

「沼の跡地には水が滲んでいたでござる」

 地下水脈と繋がっていたのだ。

「ウンディーネの眷属にも、声を掛けておき申した」

 沼の北西に滝があり、サハギンのスタンピードからそこへ避難していたのである。


 カークは携帯食料で夕飯を摂り、馬車の中で寝袋にくるまって眠った。



◇◇◇



『おはようございマース!』

『また魔力が増えたわねー』

 御者席の後ろにある小窓が少し明るい。雨は降り続いているが、夜は明けたようだ。

「おはよう」

 フェアリーと紋白蝶に挨拶して、朝のルーティンを始める。馬車を出てアルベルトとドリアード達にも声をかけた。


「魔力を絞って少量で制御したい」

 炙ったハムとパンで朝食を終えたカークは、インスタント珈琲を飲みながら呟く。

「難問でござるな」

 サハギンの魔石を食べたアルベルトが応じる。ウーイ達は解散したようだ。


『杖を使ってみマスカ?』

『直ぐに破裂しそうよー』

 杖に込める魔力量が多すぎると、粉々に破裂してしまう。そうならないように制御を覚えるのだ。

 ドリアード達の推薦に従って木の枝を伐り、適当な長さに揃える。即席だが立派な魔法用の杖ができた。念のために、と言って五十本も用意したのだ。


「この籠の中へ杖を入れて試すんだな」

 ドリアードのリクエストに応じる。魔力を込め過ぎて粉砕された木の屑は、彼等にとって良質の肥料となるのだ。勿体無くて捨てるなんてトンでもない。

(壊すことが前提なのか)

 カークは複雑な思いだった。


「ロンゴウゲまでは一本道でござるな。馬車の操縦は吾が輩にお任せあれ」

 アルベルトの好意で、カークは魔力量を絞って流す練習を始める。



◇◇◇



(魔力を抑制するには、ネックレスや腕輪等の装飾品が必要なんだな)

 カークは帝国大学魔法学部のバルビエリ学部長を思い出していた。様々な装飾品を身につけていたが、その溢れる魔力を抑えきれずにいたのだ。

(薬草の村へ着いたら、シスター・メリィに相談所してみよう)

 手帳のToDoリストへ記入しておく。


(魔力だけを流そうとするから、量を制御し難いのだ。治療魔法を発動する要領であれば、もう少し上手くできるかも知れない)

 カークは三本めの杖をオガ屑に変えた処で、やり方を軌道修正する。


(まずは治療魔法から試してみよう)

 カークは杖に魔法を流した。

(薄く、浅く、ムラがないように)

 慎重に魔力を減らしてゆく。

(枝の中は密度が不均衡だな)

 魔法の透過率が部分により異なっていた。

(繊維の隙間に染み込ませられるぞ)

 ごく少量の魔力を制御しながら、杖の全体へ均一に浸透させる。

(外へ漏れないように、固めておけるだろうか?)

 無駄に魔力を浪費していることに気付いた。

(治療魔法ではなく、只の魔力で包んでみよう)

 カークが意識して切り替えた途端に、乾いた音を立てて杖が割れる。中に込められていた治療魔法は、虚しく周囲へ拡散して消えた。


『臨界デスヨ』

『課題は安定化ねー』

 カークは七本めで漸く杖を壊さずに済んだ。それから三本続けて成功する。

(魔力の制御は難しいな)

 治療魔法を染み込ませるのは慣れたが、最後に魔力でコーティングするのは繊細な技術が必要だった。四本目を失敗して治療魔法を散らす。


(……まてよ、もしかして……)

 五本連続で成功させたカークはコツを掴んだ。

(完全解毒の魔法でも試す必要があるぞ)

 魔法を切り替えた。


(できた)

 治療魔法で慣れたカークは、完全解毒の魔法では一本しか失敗せずに済む。双方の魔法を込めた杖を十本ずつ揃えた。

(この杖を折ると……)

 力任せに半ばで折る。

(おっ、出たぞ)

 杖に染み込ませた治療魔法が破断面から噴出した。

(成功だ)

 完全解毒の魔法を込めた杖でも確認する。

(これは売り物にできるな)

 追加で五本ずつ成功させた。


(強制睡眠も使えるだろう)

 何度か失敗したが、一度上手くできると六本連続で成功する。

(杖の在庫が尽きてしまった)

 昼休みに枝を補充しなければならない。

(少量の魔力を制御できるようになり、当初の目的は果たせたぞ)

 カークは満足した。



◇◇◇



(魔法を込めた杖を折り、その効果を発揮させる道具を商品化するには、どのような条件が必要だろうか?)

 帝都と港町ロンゴウゲの中間地点にある小さな村に着いたカークは、駐車場付きの宿を選んで宿泊する。部屋に入って一人で検討を始めた。


(先ずは安定して任意の一か所で折れる必要があるな)

 同様の魔道具としてポーションやスクロールが存在しているので、その条件を参考にして考えてみる。誰でも間違えずに発動できなければならないのだ。

(保管や運搬時に誤って折れてしまわない強度を確保しつつ、使う際には確実に折れなければならない)

 ポーションの容器は割れやすく、海綿を重ねたクッション材に穴をあけて挿し込んでいることが多い。スクロールは軽くて耐衝撃性にも優れているが、発動までに時間がかかるのが難点だ。杖を折る仕組みは、可搬性に優れてポーション並みの即効性がある。どれもが使い捨てであるのは、魔道具の性質上避けられない。


(魔法の種類を識別する方法は何があるだろうか)

 ポーションは色が違うし容器の形状も変えてあり、スクロールは記載されている呪文の内容自体が異なっているのだ。

(手に持って使う場合は、咄嗟に判断できるのは形状だな)

 丸、三角、四角の三種類が分かり易い。

(材料の選定も重要だぞ)

 木材には性格があるのだ。安定して廉価に調達できる材料で、魔法の効果が高く加工性と保管性に優れたモノを選らばなければならない。

(ある程度は商品企画書にまとめておこう)

 価格や製造方法など、薬草の村で相談する項目を整理しておいた。



◇◇◇



『まるで商人みたいデスネ』

『魔法の練習だったのにねー』

『瓢箪から駒でござる』

 相変わらずカークの仲間は暢気だ。




続く

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