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導かれる者  作者: タコヤキ
第七章:年末
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第六十三話:補講

第七章は奇数日の十二時に投稿します。

 祝宴は中庭のテラスで開催された。精霊獣達も一緒に楽しむためだ。


『カーク兄さん、卒業おめでとうございます』

『兄ちゃん、これからは毎日遊べるの?』

 フェンリル姉弟が喜んでくれる。


 ワイバーンの魔石を摂取した二匹は成長していた。カークの膝下までしかなかった体高が、腿の半ば辺りへ届くようになっていたのだ。美しい銀狼の毛並みは、首筋だけが虹色に輝いている。

 首に巻かれたバンダナはそのままだった。赤色が姉のJJで、青色が弟のDDである。

 エルフの女神でヴァルキューレ(戦さ乙女)でもあるミロが着けてくれたそのバンダナは、フェンリル姉弟の成長に合わせて伸縮し、いつでもピッタリのサイズだ。


『良く育ちマシタ』

『まだ可愛いわー』

 フェアリーと紋白蝶のお気に入りである。




『カーク殿、お祝いを申し上げる』

 天翔馬(ペガサス)のアルベルトがお辞儀をした。


『なんでも七十三年ぶりの快挙を、カーク殿が最年少で成し遂げられたと伺ったでござる』

 どこか噛み合っていないが、カークは気にしない。

『そんなカーク殿から、吾が輩は何でも学びたい所存でござるぞ』

 低音の渋いハスキーボイスだ。サンドベージュの体毛は金属光沢を放って美しい。銀狼であるフェンリル姉弟と並べば、とても豪華な印象である。




『ご苦労様と言ってマスヨ』

 フェアリーが通訳してくれたのは、ケルベロスのデューイの言葉だ。オルトロスのヴァルカンとサンドラの夫婦も、カークの努力を労ってくれている。




「カーク殿、よくぞご卒業なさいましたね」

 涙声なのは水牛獣人のロクサーヌだ。赤鬼チャハンを彷彿とさせる体格の持ち主で、カークに帝国の一般教養を教えてくれた女性である。

「ありがとうございました」

 カークは素直に頭を下げる。集中講座を無事に卒業できたのは、彼女から多くの知識を伝授してもらえたからなのだ。




「まだ無自覚な処はあるが、この半年間で随分と成長できたな」

 祝宴も半ばを過ぎた頃に、サーモントラウト侯爵のアポロが話し掛けてきた。

「自分がどれだけ重要な役割りを担ってきたのか、改めて私から教えておこう」

 とても大切なことのようだ。


「まず初めに伝えたいのは、女神のミロ様を助けてくれたことだ」

 彼が残した最大の功績である。

「勿論、デュラハンを倒した強力な魔法も称賛に値するが、ミロ様と魔力を同調させて治療魔法が行使できたのはそれを超える驚異だ」

 コ・ドゥア氏の足とミロの左腕を繋げていた。


「何気なく、ごく当たり前のように私の魔力をお使いになられていました」

 躊躇いも違和感もなかったのだ。

「それが驚異的なことなんだよ」

 アポロは穏やかな表情で語る。

「エルフ同士でも困難なことなんだ。ミロ様の技能が優れているのはさておき、カークは良質な魔力を持っていると自覚しておいてくれ」

 これまで誰かと比較する機会がなかったので、カークはその言葉に戸惑った。しかし、魔法について上位のエルフが言ったことだ。素直に受け入れておく。


「嘆かわしいことだが、一部の魔法使い達が手を貸している」

 傭兵のように雇われて、教会の武闘派やその他の勢力の依頼で加担していたのだ。

「旧王国を取り込んだために、規模が拡大して目が行き届かなくなった。新たな秩序ができて落ち着くまで、暫くは時間がかかるだろう」

 エルフが言う時間とは、人間と同じなのか?


「過保護だと感じることもあるだろうが、カークは我々にとって大切な存在なんだ。諦めて折り合いをつけてくれ」

 予防安全は理解しているつもりだ。




 祝宴は静かに終わり、穏やかな夜を迎えた。



◇◇◇



「それでは、行って参ります」

 卒業試験の翌日は朝から帝国大学へ行き、開拓団への推薦状を発行してもらう。

 帝国政府が推奨しているだけあって、今は開拓団に希望者が殺到していた。その中で少しでも有利な条件で自分を売り込むために、集中講座の卒業生であることを活用するのだ。




「おはようございます。カークさん、お待ちしていました。どうぞこちらへ」

 商業課の受付嬢に呼ばれた。他の受講者達が並んでいる列から離れて、別室へと案内される。


「私はミハエルだ。宜しく」

 部屋には中肉中背の中年男が待っており、カークが入室すると向こうから挨拶してきた。これといって特徴がない、ごく平均的な帝国の男性である。

「カークです。こちらこそ宜しく」

 軽く握手を交わすと、デスクを挟んで席に着く。


「単刀直入に話をしよう」

 独特のハンドサインを確認すると、ミハエルは静かな口調で話し始めた。

「我が帝国大学の工学部車輌学科では、帝国軍の輜重部隊と提携して新たな馬車を開発しているんだ」

 そう言って図面を広げる。

「プロトタイプのモニターを頼みたい」

 そう来たか、と内心の思いを封じる。

「ついては構造とメンテナンス方法を理解するために、三週間のトレーニングを受けて欲しいんだ」

 ドサリ、と分厚い本をデスクへ載せた。

「構造図とサービスマニュアルを用意してあるから、一通り確認して覚えてくれないか」

 モニターの最中には、メカニックが同行してくれる訳ではないようだ。


「カークは数学と物理が得意だと聞いている」

 それでもハードルは高い。何しろ三週間で工具の使い方も覚えなければならないのだ。

「工学部の実技指導者はドワーフが多い」

 職人気質の者ばかりなので、ミハエルはマネジメントを丸投げされて困っているらしい。

「とにかく、無料で最新式の馬車が使えるんだから、頑張ってくれよ」

 その表情に彼の苦労が偲ばれる。


「では、案内しよう」

 今からガレージへ移動するのだ。

「依頼したい仕事は沢山あるから、その点については心配無用だよ」

 ミハエルは教師ではない顔で言った。


 帝国の最高学府である帝国大学。そこにも<互助会>のネットワークは繋がっていたのだ。



◇◇◇



「後は宜しく」

 そう言い残してミハエルはガレージを出て行った。そして、カークはドワーフに囲まれている。


「カークです。宜しくお願いします」

 背の低い彼等を見下ろしているが、失礼にならないよう丁寧に挨拶した。


「ハーマンだ」

 一回り大きな体格で矍鑠とした老年の男が、ゴツゴツした手を差し伸べてくる。白髪混じりの髭親父と、握手を交わして友好的に挨拶した。

「助手のライラよ」

 続いて隣に居た小柄な女性と挨拶する。細くて柔らかそうな髭だ。

「ホセだ、宜しく」

 声を聞くとまだ若い男のようだが、見た目はかなり厳つい。だが前髪は残っている。

「後の奴等は追々紹介しよう」

 ハーマンが切り捨てた。

「時間が無いから、大急ぎで詰め込むぞ」

 早速始まるようだ。




「これが<蓮五号>という型番のプロトタイプで、<蕪十三号>から派生したシリーズの最新型である」

 カークが紹介されたのは、巨大だが貨物用としてはオーソドックスなスタイルで、とても頑丈そうな箱形の馬車だった。車輪とその周囲が特徴的である。

「やはり気になるか」

 ハーマンがニヤリと笑う。

「来週に教えるから、待っていてくれ」

 秘密が嬉しそうだ。


「一週間かけて分解して、次の二週間で元通りに組み立てるんだ。全工程を実際に体験してもらうぞ」

 勿論、その期間中はスタッフが着きっきりでアドバイスしてくれる。

「その後は実際に運転して、操作性や乗り心地等のモニター項目をチェックしてもらう」

 それはアルベルトをここへ連れて来ることだ。カークは一抹の不安を覚えた。

「良い馬が相棒だと聞いているので、今から楽しみにしているぞ」

 そう言ってハーマンは豪快に笑う。


「では来週の月曜日から、宜しく頼む」

 それまでに作業服を用意しておいてくれる。工具や備品はレンタルだ。


(金曜日のランチも延長されるのか?)

 少し気まずい。

(まあ、何とかなるだろう)

 フェアリーと紋白蝶を見習って、呑気に考えるカークであった。



◇◇◇



『アルラウネに挨拶しまショウ』

『忘れちゃだめよー』

 大丈夫だ、忘れてはいない。因みに暗視魔法は未確認のままである。




続く

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