第五十話:未来と過去
第五章は奇数日の十二時に投稿します。
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「貴方に逢えて良かったわ」
彼女は心の底から思った。
「私の我が儘で、ごめんなさいね」
そのままであれば、滞りなく次の輪廻に導かれるはずだったのだ。
今の彼は五感がそれぞれ入れ替わっていた。
匂いを触る。
触覚は聞こえる。
音は見える。
視覚は味として伝わる。
味覚は香る。
一度身体から離れた魂は、元に戻っても機能が混乱していたのだ。
混沌の中を漂う彼は、長い時間をかけて徐々に自分を思い出してゆく。ランダムに入れ替わる五感は、偶然正しい組み合わせとなった。その時の快感に震える。正しい組み合わせの快感を求めて、彼は積極的に入れ替えてみた。
やがて視覚と嗅覚が入れ替わり、全てが元に戻ったのだ。
(佳い薫りがしていたのは、彼女だったのか)
優しく見守ってくれる視線に気付き、その存在を正しく認識したことに歓喜する。
「貴方は貴方のままです」
何も変わらない。
「あら、転んで膝を擦りむいたのね」
微笑みながら見つめる。
「そうよ。貴方には必要なことだわ」
戸惑う彼を優しく導いた。
「慌てなくても構わないのよ」
彼が過ごす時間は濃密だった。
◇◇◇
『慌なくてイイのデスヨ』
『ひと休みねー』
精霊はカークに甘い。
続く
第五章は奇数日の十二時に投稿する予定です。