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導かれる者  作者: タコヤキ
第五章:変わる日々
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第四十七話:森の老人

第五章は奇数日の十二時に投稿します。

「それでは参りましょう」

 サーモントラウト家の当主であるアポロが告げると、豪華なリムジン馬車はゆっくりと静かに動き始めた。


「今日はカーク殿が出品なされた魔石が、幾らで落札されるのかを見届けます」

 隣席のニケが穏やかに続ける。

「ですので、無駄遣いはなさいませぬように」

 旦那様へズバリと釘を刺した。

「出品者専用の閲覧席だから、心配は要らないさ」

 簡単なやり取りの中に、夫婦の年輪を感じ取ったカークである。


 リムジン馬車に乗ったまま中央口を通過した。

 上級市民街を西へ向けて、十五分ほど進むと大きな敷地に入る。オークションは公営のイベント会場を借りて開催されるのだ。


「カーク殿の魔石は、第二会場でしたわね」

 オークションで扱う品物の種類によって、開催場所が分けられていた。絵画や工芸品など加工された完成品は第一会場で、魔石などの素材は第二会場である。家畜や借金奴隷といった生き物が第三会場だった。

 敷地内には幾つかの大きな屋敷が建てられており、広い駐車場も完備されている。


 一軒の大きな屋敷の前に馬車が停まった。カークから先に降りるとアポロが続き、最後に降りるニケを優雅にエスコートする。


「ようこそ。サーモントラウト卿」

 恰幅のよい老紳士が出迎えてくれた。

「このような簡易オークションへ足を運んでいただきまして、誠にありがとうございます」

 恭しく頭を下げる。その間に四人の護衛らしき屈強な男達が周囲を固めた。


(実力は俺と同じレベルだな)

 この護衛達の程度であればエルフの夫婦の足元にも及ばないが、主催者側にも何らかの事情があるのだろう。カークは無言で付いて行く。


 案内されたのは二階の桟敷席だ。ステージを真正面から見下ろせるが、一階に居る参加者からは見えない場所である。

 ゆったりとしたソファーへ座ると、各自にカタログが配布された。内容は今日の出品リストだ。全部で二十品あり、カークが出品したワイバーンの魔石は十六番目だった。




(意外と静かなんだな)

 アポロが頼んだワインとフルーツを堪能しながら、桟敷席から淡々と進むオークションを眺める。

 綺麗な柄の織物や、巨大な鉱石の塊、魔物の革や骨などの素材が出品されていた。およそ金貨五十枚から始まり、百枚前後で落札されている。取り引き額が金貨百枚を越えると税金が二割に倍増するのだが、参加者達はそれだけの価値があると判断したのだろう。


 カークの魔石は、金貨二百五十枚だった。落札したのは帝国大学の魔法学部だ。

 税金の二割と手数料として一割が引かれ、カークには金貨百七十五枚が支払われる。後日、商人組合の口座へ振り込まれるのだ。


 特にハプニングもなく、二時間ほどで無事にオークションは終了した。



◇◇◇



『カーク兄さん』

『遊ぼう!』

 フェンリル姉弟のお誘いだ。

 オークションを境に、隔日から月水金にスケジュールを変更した。少しずつカークが二匹と離れる準備を始めているのだ。


 いつものように森の奥にある一対の石碑を経由して、大陸南西部の大森林へと移動する。


『挨拶に行くらしいデスヨ』

 フェアリーを通じて、ニケのパートナーであるケルベロスのデューイが伝えてきた。どうやら行き先が決まっているようだ。彼の先導で森を進み、一時間ほどで小さな泉に着く。


『カブトムシよ』

『金色!』

 泉の隣に生えている古い大きな樹の幹へ、黄金色に輝く巨大なカブトムシが止まっていた。姉弟は喜びながらも、慌てて駆け寄ることはしない。


『ゴールデン・ヘラクレスの親分デスネ』

『お久しぶりですー』

 フェアリーが教えてくれた。どうやら紋白蝶も知り合いのようだ。


『こちらのお方デスヨ』

 カークが挨拶しようとすると、フェアリーはカブトムシではなく大樹を指す。

『エルダー・トレントの<ルピ>さんでござイマス』

 そう紹介された大樹の高い位置へ、髭の長い老人の顔が浮き上がってきた。


「あー……うー…… えっと、聞こえておるかな?」

 上から爺さんの声がする。

「今、紹介されたルピじゃ」

 テレパシーではなく、直接話していた。

「今日はJJとDDへ逢いたくてな、デューイに頼んだのじゃよ」

 はへへ、と笑う。

「こっちへおいで」

 呼ばれた姉弟はルピの前に並んでお座りする。オルトロス夫婦は心配そうに見守っていた。


「ここ暫くは運動場で遊んでおったじゃろう。そのお陰で結構な成長を遂げておる。しかし、もうすぐ限界を迎えるのじゃ」

 子供の身体では処理しきれなくなるのだ。

「本来は両親が与えるモノじゃが……」

 ルピが言葉を詰まらせる。

「今回は代わりにワシが授けてやろう」

 姉弟は黙って聞いていた。


「ほら、これじゃ」

 キラキラと虹色に光る蔓が伸びて、二匹の上で螺旋状に曲がる。そこから虹色の粒子が音もなく降り注ぎ、姉弟を優しく包んだ。

 暫くして収まる。

「これで大丈夫じゃよ」

 あっさりしたモノだ。


『姉ちゃん虹色!』

 弟は姉の首筋が虹色に光っていることに気付いた。

『そう言うDDもよ』

 同じく弟の首筋も虹色に輝いていたのだ。




「さて、そこの金魂漢よ」

 カークのことらしい。

「随分と馴染んでおるようじゃな」

 高所から見下ろす。

「ふむ。ネクタルとアムブロシアも効いておる。では次のステップへ向けて、少しだけ後押ししておこうかの」

 そう言ってまた蔓を伸ばした。

「限定解除は五年先になるが、ある程度は容量を確保できそうじゃな」

 カークの知らない枷が外れる。


「今はまだ実力の四割が使えるだけじゃ。これから精進すれば、十二倍までは耐えられるようにしておいたぞ」

 エルダー・トレントが何を言っているのか、カークには理解できなかった。




「では最後に。そこなDDよ、お前は優しい」

 ルピの声が響く。

「強くなれば、もっと優しくなれる」

 弟はお座りしながら首を傾げた。

「忘れるな」

 そう言って枝を揺らすと、黄色い果実を姉弟の前にそっと置く。

「二人で食べるとよいじゃろう」

 エルダー・トレントは静かに微笑む。


『旨い!』

 躊躇わずに噛ったDDは叫んだ。

『姉ちゃんも食べなよ』

 優しい弟である。

『慌てないで』

 そっと姉を気遣う。

 これまで単語が精一杯だったフェンリル姉弟は、より饒舌になっていた。


 カークは何故か空腹感を覚える。

 ふと気付くと横にウーイが立っていた。


(このチーズは旨いぞ)

 カークはキューブ状に固められた、オヤツ用のチーズを手渡す。交換でインゲン豆を貰った。プチプチとした食感を楽しんでいると、不思議に空腹が収まる。

(ありがとう、助かったよ)

 ウーイに伝えると、頷いてくれた。


(寝ていたのか)

 エルダー・トレントの幹に止まったゴールデン・ヘラクレスが動かないので、カークは心配して調べてみるとグッスリ熟睡していたのだ。


「この後は東の方で遊んで行けばよいじゃろう。カマキリが増えすぎて蜘蛛が減っているから、間引いてくれると助かるのう」

 エルダー・トレントの言葉に、ケルベロスはシッカリと頷いた。場所がどこなのか分かったようだ。




『次はお土産を持って来ます』

『またね』

 フェンリル姉弟が挨拶して、移動を始めた。



◇◇◇



 ケルベロスの案内で森の東へ到着する。確かにカマキリが多かった。木々が疎らな一帯には、大小様々なカマキリが五十匹ほどの群れを成している。


『少し待つように言ってイマス』

 フェアリーが通訳してくれた。

 ケルベロスのデューイとオルトロスのヴァルカンが連れ立ってカマキリの群れに突進して行く。サンドラはフェンリル姉弟を守っていた。


 焦げ茶色のカマキリは、体長一メートル前後の個体が多く、中には二メートルに達したモノも居る。デューイとヴァルカンは木々を蹴り、空中を飛び回って大物を中心に狩っていた。


『お待たセシタ、らしいデスヨ』

 およそ半分に数を減らしたカマキリの群れは、体長一メートル以上の個体が居なくなっている。

『油断は駄目』

『真剣勝負!』

 フェンリル姉弟は慎重に構えていた。

(眠れ!)

 カークは強制睡眠の魔法を撒き散らす。広範囲に渡って効果を発揮し、バタバタと魔物が倒れた。


 JJとDDはお互いを庇い合いながらも、起きているカマキリへ向かって積極果敢に攻撃する。カークは眠っているヤツの頭を落としていった。


(メンテナンスが必要だな)

 鋼鉄製の片手剣は、その切れ味が衰えている。購入してからまだ三ヶ月だが、倒した魔物の数は千匹近くになっていたのだ。

(素人の手入れでは限界なのか)

 明日は街に行こう、とカークは決めた。




『お買い物したいデスネ』

『アップルパイよー』

 呑気な妖精達である。




続く

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