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導かれる者  作者: タコヤキ
第五章:変わる日々
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第四十二話:思いがけぬ再会

第五章は奇数日の十二時に投稿します。

(船を降りてからで助かったな)

 ロンゴウゲの港町で一泊した翌朝、それまで曇っていた空からついに雨が落ちてきた。

(ここから帝都までは陸路だけだ)

 しかし馬車でも十日かかる。

(まあ、急ぐ旅でもない。ゆっくり行こう)

 ひとつアクビをしてから朝のルーティンを始めた。



◇◇◇



『あれは<ウーイ>デスネ』

『泣いてるー』

 雨の街道を駅馬車に乗って進んでいると、フェアリーと紋白蝶が精霊を見つけた。どうやら緊急事態らしい。


「済まないが、ここで降りる」

 カークは御者へ金貨一枚を払って、駅馬車を途中下車した。行程の半分も進んでいないが、ウーイが泣いているのを見過ごせない。

「皆で分けてくれ」

 他の乗客には、オヤツに買っておいたポップコーン二袋を渡し配ってもらう。途中で馬車を停めた詫びの気持ちである。




「どっちだ?」

 駅馬車が離れてから、道端へ踞るウーイに優しく尋ねた。最近フェアリーがお気に入りのドライプルーンを渡すと、おずおずと受け取りながら後ろを振り返る。

 街道沿いの森の奥だ。

「分かった」

 ひと言告げて森へ向かう。


『悪い奴がイマス』

『強敵よー』

 そのアドバイスにカークは身体強化を施した。


(何だ、この瘴気は?)

 雨の森は暗く、カークは範囲照明の魔法で視界を確保する。途端にバチバチと反応したのだ。

 慎重に奥へ進むと、周囲に人骨が散乱していた。そのどれもが酷く損壊している。

 更に警戒をしながら森の奥を目指す。


(……これは、ガーゴイルだな)

 人骨に混ざって壊れた石像が落ちていた。頭部は破壊されているが、背中の羽根と先の尖った尻尾は間違いない。

(この先で争っている)

 何かが砕ける音が聞こえたのだ。


『助けまショウ』

『危ないわー』

 魔除けの鈴が鳴り始めた。




 木々が薙ぎ倒され、空き地になっている。

 そこで闘っていたのは黒い騎馬に乗った首なしの騎士と、巨大な異形のミノタウロスだった。

『デュラハン!』

『任せてー』

 紋白蝶が輝く。


『禍々しいデスネ』

『臭いのイヤー』

 デュラハンは騎馬も騎士も真っ黒な金属製の鎧を身にまとい、どちらも頭が無かった。正確には騎士の頭は自分で抱えている。関節から漏れる瘴気は、独特の腐臭を放っていた。


 対する異形のミノタウロスは四頭身だ。とても顔がでかい。頭頂部の左右には曲がった角が生えており、先端が鋭く尖っている。太短い首は筋肉が盛り上がった肩に埋もれているので、まるで頭から両腕が生えているように見えた。握り拳はカークの顔と同じサイズだ。

 脚は短いが足は極端に大きかった。



 デュラハンがミノタウロスに大剣で斬り付けると、カバーする腕に深い傷を負った。その周囲にはガーゴイルとスケルトンが集まり、ミノタウロスの背後から襲っている。


 木に隠れたカークは、腰を下げて様子を窺う。争う奥に黒いローブをまとった人物が居て、カークへ向かって杖を振るのが見えた。その射線上にいたガーゴイルは、見えない刃で真っ二つになる。音もなくカークへ迫るその刃だが、紋白蝶の<ゾーン>に触れた瞬間、黒いローブの後ろへと転移させられた。


 ザクザクと三つに斬られた黒いローブは、声を上げることなく絶命する。


 ガーゴイルとスケルトンの動きが鈍った。

 デュラハンの剣をミノタウロスが受け止め、両手で握って力競べの状態へ持ち込む。


(慎重に狙え)

 カークはプラズマ・ボールの呪文を唱え、動きの止まったデュラハンを睨んだ。


 拳大に圧縮された光球が現れると、ポッカリ開いたデュラハンの首から鎧の中へ飛び込む。


 チュドーン!


 内部でプラズマ・ボールが破裂すると、デュラハンは一瞬でバラバラに千切れて吹き飛んだ。ミノタウロスも被害を受けていたが、致命傷は負っていない。足元に転がる兜を掴み上げると、力を込めた両手で握り潰した。


「ヒィーッ!」

「化け物だ!」

 黒いローブの居た辺りから悲鳴があがる。

 カークは強制睡眠と呪文封印を立て続けに発動させると、片手剣を抜いて走りだした。


 倒れていたのは三人の男だ。カークは全員の両足の膝から下を切り落とす。それでも眠り続ける男達を見下ろしていると、背後に懐かしい気配を感じて振り向いた。


「カーク殿、助太刀、感謝する」

 右胸の入れ墨から血を流したコ・ドゥア氏だ。その隣には左肩から腕を切り落とされたエルフの女性が寄り添っている。良く見ればコ・ドゥア氏の右足も脛から先が無い。


(この人は巻き込まれ体質だな)

 カークは治療魔法で挨拶する。



◇◇◇



「助かりました」

 ミロと名乗ったエルフの女性は、カークの魔力を使って治療した。先にコ・ドゥア氏の足を治し、その後で自分の左腕を繋げたのだ。長い睫毛と高い鼻が印象的な美人である。色黒なコ・ドゥア氏の異粧と羽根飾りが付いた頭巾は変わらない。


「残念ながら二人だけになってしまったのです」

 治療が済むとカークは持っていたレモン入りの炭酸水を振る舞った。三人の護衛が居たのだが、デュラハンにやられてしまったのだという。


「彼等を弔い、後続を待ちます」

 既に連絡を入れてあるらしい。カークは持っていた食料を全てコ・ドゥア氏へ渡した。


「三人から情報を収集しましょう。生かしておいてくれたことに感謝します」

 ミロは足を切られた三人へ近寄ると、小さな杖を取り出して歌うように呪文を唱える。周囲の地面から蔓が生え、三人の顔へ絡み着いた。どうやら目、耳、鼻、口などの穴から、内部へ侵入しているようだ。

 暫らくするとニョキニョキと枝が伸び、先端がクルクル巻いてクルミ大の実を結ぶ。


「これを解析することで、重要な手がかりが得られることでしょう」

 実を回収したミロは無表情で呟いた。三人はもう動かない。


「カーク殿は帝都へ向かわれるのか」

 ボンレスハムを一本食べ終えてからコ・ドゥア氏が言った。

「では頼みたい」

 そしてミロと頷き合う。




「彼等だ」

 少し離れた大木の洞には、二匹の子犬が丸くなって眠っていた。

「フェンリルの姉弟です」

 銀狼だとミロが教えてくれる。

「親を守り切れなかったのは痛恨ですが、この姉弟だけでも助けられたのは僥倖でした」

 カークには二匹の見分けがつかない。

「赤いバンダナが姉、青色が弟です」

 ミロが首に目印を巻いてくれた。


「帝都のニケというエルフに伝えておきます」

 先方から迎えに来てくれるらしい。

「貴方が犬好きで良かったわ」

 ミロとは初対面だが、彼女はカークのことを知っていたのだ。

「姉はJJ、弟はDDです」

 名前を教えてくれた。


「お願いします」

『はい』

 ミロが洞の奥へ囁くと、か細い女の声がする。

『アルラウネさんデスヨ』

 フェアリーが紹介してくれた。

『もう起きても大丈夫よ』

 植物娘はそう言って両手を翳す。

 耳と尻尾の先がピクピク動き、やがてうっすらと眼を開いた。

『お兄さんに着いて行きなさい』

 アルラウネの言葉にカークを見上げた二匹は、揃って同じ動きをする。


『お兄さん?』

『兄ちゃんだ!』

 おっとりした姉のJJと、まだあどけない弟のDDはテレパシーが使えるようだ。


『初めまして、カークだ』

 二匹へ挨拶する。

『カーク兄さん?』

『カーク兄ちゃん!』

 起き上がってカークの足元に近寄る二匹の頭を撫でた。

『JJです』

『DDだよ』

 揃って自己紹介してくれる。

『宜しく』

 カークが伝えると、二匹は喜んだ。厳つい見た目を気にせず、直ぐに懐いてくれた。


『尊いわー』

 カークの胸の中で紋白蝶が悶えている。

『明日まで待てないー』

 彼女は<ゾーン>を使ったので、回復するための時間が必要だった。


『精霊獣さんデスネ。宜しくお願いシマス』

 フェアリーとも挨拶を交わす。


「やはり、カーク殿で安心だ」

 そのやり取りを見たコ・ドゥア氏が微笑んだ。両手にサラミソーセージを持ち食べている。


「食べに行ってらっしゃい」

 ミロの許しを得て、フェンリル姉弟は勢いよく駆け出した。周囲に散乱するガーゴイルやスケルトンの死骸から零れた魔石を食べに行ったのだ。

「これだけあれば、一週間は保つでしょう」

 精霊獣は燃費が良い。

(ワイバーンの魔石は隠しておこう)

 オークションに出品するのだ。




「お礼にデュラハンの剣を進呈する」

 コ・ドゥア氏が提案した。

「そうね。解呪と浄化を済ませてからになるので、一ヶ月後にはお渡しできます」

 ミロも同意する。それまでの期間は帝都に居ることになった。

「滞在場所はご心配なく」

 ニケというエルフが手配してくれるようだ。


『ただいま』

『食べたー』

 二匹が食事を終えて戻ってきた。

『余りは集めた』

『全部だよ』

 満腹した後は、残った魔石を全て回収してくれたらしい。

「まあ、ありがとう。お利口さんね」

 笑顔のミロは二匹の頭を撫でて誉める。尻尾が千切れそうな勢いで振られた。

「ガーゴイルとスケルトンは一つずつで構わないわ。デュラハンの魔石があれば証拠として充分です」

 カークは残りをまとめて革の袋へ収納する。

「オヤツに持って行ってください」

 ミロの言葉に頷く。


「では、先に行くぞ」

 カークが言った。早く移動しなければ、雨の中で野宿になってしまう。

『はい』

『ちょっと待って』

 二匹のフェンリルは大木の洞へ向かった。


『アルラウ姉さん、ありがとう』

『ありがとー!』

 二匹は挨拶してから戻ってくる。

 その姿を見たミロは感動に涙を堪え切れず、プルプルと震えていた。


「では、また」

「導きのままに」

 軽く手を振りカークは歩き始める。


 今回コ・ドゥア氏が召喚したミノタウロスは<シュミラク>と呼ばれていた。



◇◇◇



『ウーイが待ってくれてマシタ』

 街道へ戻ると、花を抱えたウーイが居た。

 二匹に匂いを嗅がれながら渡してくれる。促されて花の蜜を吸った。甘い。魔力が少し回復する。

(間に合って良かったな)

 カークは安堵の溜め息を洩らした。


『どっちー?』

『行くよー!』

 二匹は待ちきれないようだ。

 カークが指差すと、勢いよく走り出す。


『賑やかになりマシタ』

『早くモフりたいー』

 妖精達は相変わらずマイペースだ。




続く

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