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導かれる者  作者: タコヤキ
第四章:移動
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第三十九話:重要なこと

第四章は奇数日の十二時に投稿します。

(流石は要塞都市だな)

 駅馬車を降りたカークは、北端城と呼ばれる町を取り囲む巨大な城壁を見上げた。


(古くから帝国領の北端に位置しており、王国侵略戦争の最前線だった町だ)

 カークは記憶を辿り、知っている限りの情報を思い出す。食事は駅馬車内で済ませておけた。

(だが本来は<神の裾>という大森林に涌いた魔物の襲撃から、帝国の領土を護るための防衛拠点である)

 今では大森林の開拓が進み、帝国軍の訓練場として活用されていた。

(軍需産業の一大拠点は、帝国軍の兵士を育成する場所でもあるのか)

 この町には絶えず大量の人、物、金が流れ込む。そして次々と消費され、加工されて全国へ広がっていた。それには兵士も含まれている。


 懲役中の犯罪奴隷から体格の良い者を選抜し、軍隊式の教育を施す。倫理観と協調性を徹底的に再教育することで、社会復帰後の行動を是正する目的がある、というのが建前だ。

 実際は魔物討伐の際に最前線へ送られて、肉の楯として使い捨てられるのだった。

 帝国軍の基本姿勢は「数は力」である。

 農業と同じで、単一機能の数を揃えるのだ。楯、槍、弓。魔物との戦闘に於いて必要な機能を単純化して、圧倒的な数量でゴリ押しする。

 その際の消耗品として、犯罪奴隷上がりの兵士を楯として使い潰し、戦闘に勝利してきた。そうやって社会秩序の維持に役立てるのだ。



◇◇◇



「帝都へ行くのであれば、次はトンバ川だな」

 商人組合の事務所を訪れたカークは、クーポン券でチケットの先行予約を希望した。

「駅馬車と乗船券がセットになって、半金貨の割り引きだよ」

 総額で金貨五枚から一割の値引きだ。

「遅れるんじゃあないぞ」

 明朝の第一便が取れた。




「一泊で頼む」

 早い時間にトラベラーズ・インの北端城西口店へチェックインしたカークは、最近はご無沙汰だった教会を訪ねる。フェアリーが教えてくれたのだ。




『例のブツが届いてマスネ』

『分かるわー』

 教会に着くと、薬草の村から納品があった。エンジェル達がはしゃいだお陰で、思わぬ高品質となった第一段の薬草だ。

(卸値で二割増しか。市場での売価は二倍になるのだろうな)

 カークは顧問であることを隠したまま、お布施を納めて祈りを捧げた。




(軍需産業の中心地だけあって、製造業に携わるドワーフが多い)

 駅馬車が出発する場所を事前に確認したカークは、商人組合の事務所で覚えておいた町の地図を思い出しながら独りで散策する。

(力仕事が多いのだろうか、屈強な獣人の姿も多く見かけるぞ)

 その誰もが陽気な表情で働いていた。




(どちらにしようかな?)

 夕飯の時間が近付いている。帝国で流行りのチェーン店は<ヘヴィ・ミート>と<毎日パスタ>らしい。この町にも相次いで二号店がオープンしている。

(肉も魅力的だが、客層に問題がありそうだ)

 この町の厳つい男どもが集中することは、容易に想像された。

(パスタにしよう)

 実際に店を訪れる客を見てから選んだ。




「まずはサングリアのデキャンタとブロッコリーのタルタルソースサラダ、ヤミツキ・スティックを頼む」

 カウンターが満席だったので、二人掛けのテーブルへ案内された。メインのパスタを選ぶために、前菜で時間を稼ぐ。その間にフェアリーが店内をリサーチしてくれるのだ。


 ヤミツキ・スティックは、ストレートの麺をゴマ油で揚げただけのモノだが、油を吸った小麦粉が旨い。


(この店を選んだのは良いが、女性客が多くて浮いてしまったな)

 カウンターはガッツリ炭水化物を補充したい男達で占められており、テーブル席には三~五人組みの女性グループが多かった。その中で厳つい男のカークが独り、とても目立っていたのだ。

(まあ、今更気にしても仕方がない)

 明日には旅立つので開き直った。


『三色のソースが掛カッタ、お野菜のパスタが美味しそうデシタ』

 フェアリーのレポートを聞いたカークは、リクエスト通りに注文する。


 約十分後、サングリアをお代わりするのと同じタイミングでパスタが配膳された。


(バジルの緑、トマトの赤、クリームソースの白。確かにどれもがパスタに合う)

 細切りのピーマン、ニンジン、タマネギも一緒に炒められており、配色のバランスが良い。

(しかし、肉が無いぞ)

 ニンニクとオリーブオイルの香りは食欲をそそるが、クリームソースの牛乳以外には、全く肉の匂いがしなかったのだ。


 隣席の女性四人組みは、カークと同じメニューをシェアしている。


「……そうね、自分に合った杖を選ぶのも、魔法を使うには重要だわ」

 隣席の会話が聞こえた。

「カリナの工房では、トネリコとメイプルが選べるのでしょう? 羨ましいわね」

 どうやら彼女達は付与師のようだ。武器や防具へ魔法効果を与える職業の魔法使いである。

「幻と言われる<世界樹の枝>は無理だとしても、月桂樹か桜の杖を一度は手にしたいわ」

 この町では黒檀と菩提樹の素材が最上位だった。

「とにかく、相性の悪い杖なんかを使わされた時には、こっちの体調まで悪くなっちゃうんだもの。堪らないわよ」

 それぞれの職場環境に格差があるようだ。




(もしかして、魔法を使うには杖が必要なのか?)

 食事を摂りながら、何気なく隣席の会話を聞いていたカークは、ふと重要かも知れないことに気付いた。

(教会で食材へ祝福を施していた時に、周囲の皆は棒を持っていたな)

 当時の光景が目に浮かぶ。

(シスター・メリィのロッド、クリフト神父の杖、コ・ドゥア氏の錫杖。みんな魔法を使う時に何かを持っていたぞ)

 旅商人の息子であるカークは、これまでに魔法使いと無関係な生活を送ってきた。


(俺は掌や指先から魔法を打ち出してきた。握り拳からもだ。ましてや身体強化した時には、足裏から魔力を噴出させて走ったんだぞ)

 彼は常識を疑う。

(三毛猫娘に魔法がよく効いたのは?)

 杖は熱かった(ホットスタッフ)のだ。




『忘れてマシタ』

『てへぺろー』

 フェアリーは呑気にふよふよ浮いている。




「後は呪文の詠唱も難しいわね」

「そうそう、発音に注意しておかなきゃ、全然、効果が違うのよ」

「講習会で教わった時には、それほど重視していなかったのに、今になって思い知らされたわ」

「ウチは両親の訛りが恨めしい」

 どうやら彼女達は、まだ駆け出しの魔法使いらしい。周囲の客は自分達の若い頃を思い出すのか、生暖かい目で見守っている。

 誰もが通る道のようだ。


(俺も呪文は唱えているぞ。心の中でだが)

 彼女達の会話を聞きたくて、デザートの苺ムースと食後の珈琲をゆっくりと味わっている。

(……待て、慌てるな)

 シスター・メリィのカークに対する評価が異常に高いのは、杖を持たずに詠唱も無しで魔法を発動していたからだったのか?


「あーあ、これだったら攻撃魔法じゃなくて、回復系の魔法を覚えたかったなぁ」

「教会は初心者に優しいって聞くしねー」

「仕方がないわよ、系統が全く別なんだから。今更変われないもの」

「早く私のファイヤーボールで、思いっきり闇を切り裂いてみたいわ」




 カークは今日の昼間に広範囲へ治療と解毒の魔法を飛ばし、離れた処からプラズマ・ボールの魔法で盗賊へ攻撃した。そして強制催眠と共に、聖騎士団の呪文を封印したのだ。

 勿論、杖もなく無詠唱だった。


『ねえフェアリー?』

『……』

 珍しく紋白蝶が先に発言する。


(取り敢えず宿へ戻ろう)

 静かに支払いを終えて、目立たぬように店を出た。



◇◇◇



(俺のプラズマ・ボールを見て、生き残っているのは赤鬼のチャハンだけだ)

 カークは慎重に記憶を遡る。

(ベテラン猟師の彼ならば、迂闊に他人のことを言い触らしたりしないだろう)

 それは信頼できた。

(シスター・メリィ達には、治療魔法と範囲照明だけしか見せていない)

 あの時にプラズマ・ボールを思い留まったのは、只の偶然である。

(これまでは奇跡的にバレなかっただけだ)

 駅馬車内でも目立たずに居られたのは、杖無しで無詠唱のお陰だった。


(とにかく魔法について、誰かに教えてもらう必要があることは確かだな)

 エルフのニコラスに逢いたかったが、こちらから連絡する術は無い。




『帝都にはエルフさんが居マスヨ』

『逢えるかなー』

 フェアリーは反省したようだ。




続く

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