第三十話:睡眠
第三章は奇数日の十二時に投稿します。
『ここは、とても穏やかな場所ですよ』
輝く金髪を波打たせ、儚げな少女は告げる。
深い森の奥に生えた大樹の麓、太くて長い根の分岐点にその部屋があった。しかし、大樹の根がうねり洞窟のような広さの空間を、ただの部屋と呼ぶには語弊がありそうだ。
『全ての調度品は、ブラウニーさん達が用意してくれました。とても素敵なデザインのモノばかりなのよ』
少女は自慢げに話す。その言葉を聞いた少年は、椅子やテーブル、本棚を眺めた。
『機織物は、アラクネさんに任せているの』
様々な布製品のどれもが柔らかく、手触りも優しいモノだ。色合いも落ち着いている。
『あのハンモックは、私の自信作です』
部屋の奥に二つ並んでいた。少女は少年の手を引いて近寄り、二人してハンモックに乗る。複数の蔓が複雑に編み込まれ、適度な伸縮性を持っており、身体を預けると心地好い。
ハンモックに揺られて直ぐに、少年はスヤスヤと眠ってしまった。部屋の隅に佇むアルラウネが、鎮静効果の高い香りのミストを漂わせていたのだ。
『うふふ、ゆっくりと休んでくださいね』
二人が並んで揺られたもう一つのハンモックで、少女もそっと目を閉じ眠りに就いた。
この場所はエルフの隠れ里だ。その中心部に生えた大樹、それは<世界樹>である。
そこに暮らす少女はハイエルフだった。
◇◇◇
『お早うございマース!』
頭に紋白蝶を止めたフェアリーは今日も元気だ。
「お早う」
カークに旅の仲間が増えた。
続く
第四章も続けて奇数日の十二時に投稿する予定です。




