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導かれる者  作者: タコヤキ
第三章:精霊
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第二十七話:好条件

第三章は奇数日の十二時に投稿します。

多くの「いいね」やブックマーク登録、高い評価をいただきまして、感謝いたします。ありがとうございます。

 ノックの音で目覚めた。

「どうぞ」

 即答する。

(いつの間にか寝ていたんだな)

 カークはベッドへ腰掛けたまま、自分では気付かぬうちに数分間眠っていた。短時間だがとても深く集中したので、訓練の疲れが溜まっていたようだ。

「カーク殿、シスター・メリィがお呼びです」

 若い神父が案内してくれる。




「……ご苦労様。まあ、お座り」

 通されたのは彼女の執務室だった。

 窓を背に大きなデスクが置かれて、猫背のノーム・シスターが書類を読んでいる。その前には低いテーブルと二人掛けのソファーが向かい合って配置されており、カークは静かに座った。


「薬草畑や工房でアンタが何をしたのか、それは後回しにしよう」

 彼女は書類にサインしながら話す。

「古代人の霊廟へ行ってきたけれど、綺麗になっていて何も問題はなかったよ」

 今日の報告だ。

「アンデッド騒ぎも終わりで、この村はもう安全だね」

 はあ、と溜め息をつく。


「お茶を飲もうか」

 彼女が自らティーポットへ三杯の茶葉を入れた。続いて熱いお湯を注ぎ、蓋を閉めて暫く待つ。予熱しておいた小さなティーカップに素早くお茶を淹れると、爽やかな香りがした。


「……どうせアンタは、気付いていないんだろう?」

 答えが分かった質問だ。

「私の妖精が教えてくれたんだよ」

 静かにお茶を飲む。

「アンタの連れてきた仲間と出会って、皆が大喜びしたのさ。その結果、全ての薬効が倍増した、と言う訳だ」

 やれやれ、と頭を振った。


「皆は一年ほどここへ残るらしいから、その間は高品質を保てるだろう」

 猫背のノーム・シスターは話しを続ける。

「だからアンタには、毎年ここへ来て欲しい」

 春の訪れと共に、改めて妖精達を呼び寄せることが目的だった。

「勿論、それなりの謝礼は用意するよ」

 メリィはニヤリと嗤う。


『毎年会えるのは楽しみデスネ』

 フェアリーは喜んでいるが、カークはまだ理解が追い付いていなかった。


「この村で生産される全ての薬剤について、アンタに販売する権利を認可しよう。そして商材は、全品を無償で提供する」

 売り上げがまるまるカークの利益となるのだ。

「アンタは商人だろう。ウチから毎月の給料として、商人組合の口座へ金貨十枚を振り込むよ」

 何やら契約書らしき書類を取り出した。

「契約金の代わりとして、荷馬車と馬を提供する」

 薬剤の保管に適した仕様の荷馬車らしい。

「明日から三日間は講習だ」

 馬や荷馬車の取り扱い、各種薬剤の効能や用法を学ぶ必要がある。毎月の給料は、馬と荷馬車の維持費に充てるのだ。


「取り敢えず、今できることはこの位さ。その他は実績に応じて、一年後に精算させておくれ」

 カークは慎重に書類の内容を確認するも、承諾のサインは保留する。確かに権利は魅力的だったが、行動に制限が加わることに違和感を覚えたのだ。


「それだけの価値がある、と私が判断したんだよ。何も心配は要らないさ」

 これだけの好条件を提供しても、薬草の村には更なる利益が見込まれる。しかし、カークは慎重だった。ギリギリまで回答を伸ばしたのだ。まだ十五歳の彼も、確実に成長していたのである。


「では、夕食をいただこう」

 話しは終わった。



◇◇◇



「今回の報酬です」

 翌日の朝食後に呼び出されたカークは、クリフト神父から金貨百枚の入った革袋を手渡される。

「私も同額を貰いました。コ・ドゥア氏もです。彼には帝国の市民権も与えられましたよ」

 古代人のアーク・リッチを討伐したことが、それ程までに高く評価されたのだ。

「報酬は帝国軍と教会が折半ですから、カーク殿が気に病む必要はありません」

 金髪碧眼の男前な彼は、豊かな表情でカークを安心させてくれた。


(第一目標にしていた手持ち金貨五十枚が、こうもアッサリと達成されてしまうとは)

 複雑な気持ちだ。

(これは偶然だから、甘えてはいけないな)

 カークは気を引き締め直す。


「頼みがある」

 カークはクリフト神父に言った。

「ホビットから購入した薬を一揃え持っているのだが、その品質を評価して欲しい」

 帝国式との違いが気になったのだ。

「必要な費用は支払う」

 クリフト神父は躊躇いなく請け負い、昼食後にセッティングする約束で別れた。




『お花畑に行ってマスネ』

 フェアリーとは別行動だ。


 午前中は訓練場の一角を借り、昨日習った剣技を復習する。同じ時間帯に訓練していた討伐部隊の兵士の動きを参考にしながら、充実した自主練が行えた。


 ランチの時にコ・ドゥア氏と出逢ったが、お互いに干渉せずに過ごす。またもや彼はカークの二倍以上の量を食べていたのだ。




「お待たせ致しました」

 クリフト神父は一人の女性を連れて、カークの元へ訪れた。

「彼女はブロンディ助祭で、工房の品質管理を担当しています」

「ブロンディです。宜しく」

「カークだ」

 挨拶の握手を交わした相手は、金髪碧眼で背の高い美女である。フェアリーが等身大になったのか、と思わせる整ったスタイルの持ち主で、こんな山奥の薬草畑には勿体無いと感じた。

「彼女は僕のフィアンセで、二人は来月に帝都へ戻って結婚する予定です」

 豊かな表情でハニカミながら伝える。


「おめでとう」

 カークは言った。

 美男美女のお似合いカップルだ。クリフト神父に憧れていたあのシスターは、このことを知っていたのだろうか?

(しかし、結婚間際のクリフト神父をアーク・リッチ討伐に参加させるなんて、シスター・メリィも厳しい性格をしているな)

 そのための金貨百枚だったのか、と納得する。


「工房の会議室を、二時間予約しています。ゆっくりと相談できる環境なので、薬草の解析という今日の目的にはピッタリだと思います」

 ブロンディに連れられて移動した。彼女の腰には、然り気無く魔除けの鈴が提げられている。


 会議室に着くと、カークはホビットで旅の薬師であるボルビンから購入したパッケージを開く。ブロンディは興味深い表情で見つめ、カークの説明を静かに聞いた。

 一通りの説明を終えると、暫く考えてから意見を述べ始める。どうやらホビットの薬は、この村とかなり違う製法のようだ。

 彼女は豊富な知識を有しており、説明も明確で分かり易い。不明なことは分からないとハッキリ言い、理に叶った論理で効能を推測した。

 カークはその言葉を余さずメモに残す。昨日の見学と合わせて、彼は膨大な知識を手に入れたのだ。


 とても美しい女性と二人きりの時間を過ごしたが、カークは疚しい感情を抱かなかった。彼女がクリフト神父のフィアンセである以前に、幼い頃から彼の思い人は確定していたのだ。


 アッと言う間に時間が過ぎてしまった。


(集中して物事に取り組むと、時間は瞬く間に過ぎてしまうのだな)

 ここ最近の経験でカークは理解する。

(この集中力を自在に操りたい)

 様々なことに役立つだろう。



◇◇◇



「それで、一日考えた結果は出たのかい?」

 夕食前の短い時間にシスター・メリィから呼び出されたカークは、落ち着いて彼女の執務室に座っていた。

「……馬と荷馬車は遠慮しておく」

 少し間をおいて答える。

「代わりに、ここへの入門許可証が欲しい」

 控えめなリクエストだが、彼にとっては重要なことであった。


「分かったよ」

 椅子に座っていても猫背のメリィは、デスク上に置いてあったトレイへカードを載せる。

「ここ<薬草の村>にある教会の<顧問>として登録した。今持っている<非常勤の見習い僧侶>のアミュレットと交換だ」

 カークの回答を予測していたのか、彼女の準備は万全だった。

「勿論、顧問料として、毎月金貨五十枚を支給する」

 金額が少しどころではなく増えていたが、アミュレットを取り出す彼を眺めてシスター・メリィは嬉しそうに笑う。


「経常利益に対して課税されるから、少しでも皆に還元したいんだよ」

 カークはまだ理解できない。


『綺麗なお花が有りマスヨ』

 フェアリーがふよふよと窓際の鉢植えに向かった。

『良い香りデスネ』

 喜んでいる。


「では、祝福しておこう」

 カークは然り気無く鉢植えに治療魔法を掛けた。




『ありがとうございマシタ』

 カークの祝福に応えるような踊りで、フェアリーは感謝してくれる。

 ノーム・シスターのメリィは呆れていた。




続く

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