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導かれる者  作者: タコヤキ
第二章:未熟者
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第十八話:呪い

毎週月曜日の十二時に更新予定です。

多くの「いいね」やブックマーク、高評価をいただきました。ありがとうございます。

(しかし、二日でギブアップするとは……)

 カークは苦笑いを噛み締めて宿を引き払った。当然のことながら、一週間分のデポジットは返ってこない。


(まあ、俺は聖人君子ではない、ということだ)

 キッカケは昨日の昼食だった。前日と同様に屋台を巡っていたのだが、旧王国風の料理を出している男が騒いでいたのだ。屋台を出す場所取りで揉めていた際の主張を耳にして、あまりの酷さにウンザリしたのである。

(受けてもいない被害と、自分の権利だけを周囲に押し付けていたな。関わった人間を不愉快にしかしないというのは、ある種の才能だと言えるのかも知れないぞ)

 二度とこの町には近寄らないと心に決めた。



◇◇◇



(グレート・クリフまでは、約二週間だな)

 早朝に出発して街道沿いを歩いている。

(当分は<互助会>の依頼を受けるつもりが無いし、自分と向き合うには丁度良い機会だろう)

 急ぐ訳でもない気楽な独り旅だ。ここ最近の出来事について、心の整理をつけるのには十分な時間が取れると考えていた。




(もう魔物が湧いているのか)

 大森林沿いの街道を進み三時間が経過したところで、ゴブリンの群れを見つけたのだ。

(他の旅人の迷惑にならないように、ここで片付けてしまおう)

 カークは軽い気持ちで判断した。


『強制睡眠の魔法を試しまショウ!』

 フェアリーがワクワクしている。

(そうだな、丁度良い練習だ)

 五匹のゴブリンが野犬を狩ったのか、ゴブゴブ喚きながら取り合いをしていた。無警戒な背後から迫り、フェアリーに教えてもらった呪文を唱える。

 魔法が発動されると、一瞬だけ景色がブレた。

 実際は魔法の範囲内にいたゴブリン達へその効果が及ぶと、唐突に身体が硬直して糸が切れた操り人形のように倒れていったのだ。


『流石デスネ! 魔法は完璧デスヨ!』

 フェアリーが褒めてくれる。基本的にカークへ対する彼女の評価は甘かった。


(結局この片手剣を試せなかったぞ)

 倒れて眠るゴブリン達はナイフで喉を掻き切り、胸を切り開いて魔石を取り出したのである。刃渡り十五センチでバックセレーションが付いたカークお気に入りのナイフは、安定した使い心地の良さを保っていた。

(猪種オークの時よりも手間が掛からなかったし、消費した魔力量も少なくて済んだな)

 街道脇の窪みへ死骸を並べ、周囲の草木を根刮ぎ刈ってから焼く。


(思わぬ時間を取られてしまったぞ。独りで野宿は避けたいから、今日の移動は次の村までにしておこう)

 ゴブリン達の死骸を焼き、灰と骨を埋め終えるまでに二時間を費やしてしまったのだ。昼食は焼いている間に済ませてある。




 そこから二時間半の場所に次の村があった。

 弓矢で二羽の野鳥を仕留めておいたカークは、小さな教会へ寄付として納め聖堂の一角を借りて泊まる。




 翌日も早朝に出発したカークは、ひたすら街道を西へと進んだ。

(やはり魔物の数が増えている)

 午前中だけで四回もコボルトに遭遇した。一度に現れるのは二~三匹ずつなのだが、ここまで高頻度なのは珍しい。

(魔物討伐部隊が通過してから、時間が経ってしまったからなのだろうか?)

 彼はツラツラと考えながら歩き続ける。




「うおりゃーっ!」

 カークが振り下ろした片手剣の軌跡に沿って、コボルトの上半身は真っ二つに断ち切られた。

「おおおーっ!」

 返す剣で隣の首を跳ねる。

「てやーっ!」

 逃げ出そうと背を向けた後頭部を貫く。

 チマチマと眠らせてから処理するのが面倒になり、つい大声を出しながら剣を振り回してしまったのだ。


(想像以上の切れ味だったな)

 自分でも血の気の多さに驚きつつ、衝動的に暴れたことを反省したが後悔はしていなかった。

(ちゃんとした剣を習っておきたい)

 今のように力任せに振り回すだけであれば、早々に行き詰まることが目に見えていたのだ。

(器用貧乏でも構わない。少しでもできることを増やしておこう)

 剣に着いた汚れを拭き取る間に、昂っていた気持ちが治まる。


『ストレスを溜めては駄目デスヨ』

 フェアリーは善き理解者だった。



◇◇◇



 まだ日が沈む前に大きな川の橋を渡って、結構大きな規模の宿場町へ着く。まずは教会に寄ってお布施を納め、聖堂の一角を借りて寝床を確保した。

(非常勤の見習い僧侶でも、それなりの効果があるのは有り難い)

 中央の広場では、驢馬に牽かせた荷台へ商品を広げたホビットの商人が居た。

(これは好都合だぞ。使ってしまった薬や調味料を、ここで買い足しておこう)

 予算は金貨二枚と決めてから訪れる。


「これを補充したい」

 カークはホビットの商人へ話し掛けた。

 以前に旅の薬師から購入したパッケージを開き、エルフの男に使って減った薬や、チャハンと一緒に消費した香辛料などを求めたのだ。

「ほウ、これは良い品揃えダ」

 ホビットの商人は感心した。

「この内容だト、ボルビンの一族から買ったんだナ」

 彼等の間では有名らしい。

「今の手持ちなラ、この薬は無理だゾ。こっちの香辛料の代わりニ、コイツを試してみるカ?」

 どうやら好感を抱いてくれたようで、品切れしているモノについては色々と代替え品を提案してくれた。

「ココの次はサウス・ヒルへ向かうかラ、幾らか荷物を軽くしておきたイ」

 そう言って更に在庫を紹介してくれる。しかしカークは、嫌いな町の名前を聞いて表情を曇らせてしまった。


「そのレフトショルダー訛りデ、若いのに厳つい風貌からするト、バルドスの縁者なのカ?」

 取り引きにひと区切りがつくと、ホビットの商人が話し掛けてきた。

「レフトショルダーのバルドスなら、俺の祖父だよ。今は地元で小さな店を構えているんだ」

 意外な言葉にツイ嬉しくなって答える。

「そうカ、バルドスとは昔からお互いに良い付き合いをしていル」

 ホビットの商人も懐かしそうに微笑んだ。

「アンタはロドニーの息子だナ」

 ズバリと指摘されて驚く。

「今日は良い出逢いだかラ、是非とも夕飯を一緒に食べよウ」

 思わぬ誘いに戸惑いながらも、断わる理由が無いので了承した。




「改めてまして、カークです」

 荷物を片付けたホビットの商人へ挨拶する。

「俺はケルビンだヨ」

 差し出された右手と握手を交わした。

「では行こうカ。穴場の店を知っているんダ」

 ケルビンは先に歩き始める。


 宿場町の隅に小ぢんまりした食堂があった。


「乾杯しよウ」

 赤ワインのボトルを卸し、二人で酌み交わす。

「川魚が旨いんダ」

 一品ごとの量は控えめだが種類は豊富だ。

 徐々にお互いの情報を交換しながら、ワインと食事が進んでゆく。


「さっきサウス・ヒルの名前を聞いテ、嫌な顔をしただろウ」

 かなり打ち解けた頃に、ケルビンが踏み込んだ話しを始めた。

「だからロドニーの息子だと分かったんだヨ」

 思わせ振りに微笑む。

「抜け目のないカマンドと違っテ、ロドニーは頭が良過ぎるのサ」

 カークは真意が掴めずに戸惑った。

「馬鹿な奴を見るト、歯痒くて怒るんだヨ」

 ニヤニヤしてカークを見る。

「商才があって人を見る眼も確かダ。でも感受性が強過ぎたんだナ」

 そこまで言われてカークは気付いた。父親も自分も同じで、デリカシーに欠ける人物は我慢ならないのだ。


「王国の頃かラ、何も変わっちゃいないんダ」

 そのホビットの商人は、カークを諭すように呟く。

「視野が狭くて浅慮だかラ、簡単な利益誘導でコロッと騙されるんだヨ。俺達にとってハ、割りの良いカモでしかないのサ」

 そう笑ってグラスを傾けるケルビンは、これまでカークが知らなかった世界を生きているのだと思い知らされた。

「口の悪い奴ハ、残された愚民達のことを指して<王国の呪い>だなんて言っているガ、俺達からすれば世間知らずなだけダ」

 世の中には色んな人間が居るらしい。

「基本的に俺達の取り引きは<鏡>なのサ。誠実には誠実で返シ、狡猾にはより狡猾に返すんだヨ」

 その後は当たり障りのない話題で締め括る。




(俺はまだケルビン達がいる場所の、スタート地点にも立てていないのだろうな)

 教会に戻ったカークは自嘲した。サウス・ヒルの町で怒っていたあの商人も、彼と同様に未熟者だったのだ。

(しかし俺は奴等のことを理解したくもないし、そのために努力する時間も惜しい)

 負け惜しみであることも分かっている。

(まあ、良い勉強になったことは間違いないな)

 カークは商人としても、一人の人間としても成長したのだった。




『慌てなくても構いまセンヨ』

 相変わらずフェアリーは優しく見つめている。




続く

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