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導かれる者  作者: タコヤキ
第二章:未熟者
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第十六話:成長

毎週月曜日の十二時に更新予定です。

「いいね」や誤字報告、ありがとうございます。

(新しく覚えた魔法は、何故に<強制睡眠>と<範囲照明>なんだ?)

 フェアリーの説明を聞いたカークは、一人で真剣に悩んでいた。


(強制睡眠は対象とした魔物を眠らせる魔法で、戦闘に於いては有利な補助が期待できる)

 彼は努めて冷静に考えようとしたのだ。

(範囲照明なんて、半径十メートルの範囲を照らす光球を浮かべるだけときた。しかも三十分という時間制限があるなんて、全く使えないぞ)

 彼の人生経験では、まるで使い道が思い付けない魔法だった。


(最初に治療魔法と強力なプラズマ・ボールを覚えたから、次はどんな有効な魔法を覚えられるのか期待していたのに……)

 彼は本気で落ち込んでしまったのだ。

(神様は俺に何をさせたいんだろうか?)

 まだ若くて純粋なカークは悩んでいる。


『こんな短期間に四種類も魔法を覚えるナンテ、とても優秀デスネ』

 フェアリーは機嫌が良かった。



◇◇◇



「さて、行こう」

 残りのワイバーン肉で朝食を摂り、エルフの男と腕に治療魔法を掛けてから出発する。二人で食べきれなかった肉は、祝福を施して持ち帰ることにした。

「馬車が通った跡を辿れば、騎士達が来た道を遡れるはずだ」

 チャハンは努めて明るく振る舞っている。ワイバーンの大きな魔石やツメと翼に、羽毛付きの皮を追加で背負ったカークだが、成長したこともあって余裕の表情だ。


(おや?)

 カークは林道の入り口付近に人影を見つけた。どうやらチャハンには見えないようだ。

(小人なのか)

 人間の膝までの高さしかない。白い肌をしており、草で編んだ腰ミノらしきモノをまとっている。特徴的なのは歪な石板のお面だ。

『あれは<ウーイ>という精霊デスネ』

 フェアリーは知っているらしい。

『どこにでも居て何でも食べマスヨ』

 精霊は何を食べるのだろうか。

 そのウーイはカークに気付くと膝を抱えて座り、右手を上げて林道の先を指差した。石板のお面には三つの窪みがあって、どこか惚けた表情にも見える。

『親切な<ウーイ>デスネ』

 カーク達へ行き先を教えてくれたようだ。

(ありがとう)

 ウエストポーチからオヤツ用のジャーキーを取り出すと、一枚だけを放り投げる。上手にキャッチできたウーイは、何度か頷くと嬉しそうに手を振ってくれた。




 林道を一時間ほど進んだところで、整備された広い街道に出る。北側は山だったので、南へ下ることにした。

 そこから更に歩き続けて、昼前には大きめの村へ到着する。二人は取り敢えず教会を目指した。




「もしかして、アンタ達が依頼を受けたのか?」

 教会に着くと騎士団が待機しており、一際身体の大きな騎士が話し掛けてきた。

「……ああ、そうだよ」

 ミサンガと独特のハンドサインを確認してから、チャハンは慎重に答える。

「まだ存命なのか? ……おおっ、ありがとう!」

 エルフの男を見た騎士は感謝の言葉を述べると、二人を丁寧に扱って教会の奥へと案内してくれた。


「ご苦労様でした。後はこちらで引き受けますので、お二人はまず身体を休めてください」

 広い応接室で二人を迎えたのは老齢の神父だった。騎士の手伝いでエルフの男を担架に載せ、二本の腕も一緒に渡しておく。カークが持っていたワイバーンの魔石と翼や羽毛付きの皮を改めた騎士は、凡その事情を察したのか険しい表情に変わる。食べきれなかった残りの肉を提供すると、殊の外喜ばれた。


「後程詳しい話しを聞かせてくださいますか? はい、ありがとうございます。では食事を用意しますので、こちらでしばらくお待ちください」

 流石は騎士である。赤鬼のチャハンと厳ついカークに対しても平然としていた。

 柔らかなソファーに座って安堵した二人は、急に疲労感が増して眠気に襲われる。カークの治療魔法で何とか乗りきった。



◇◇◇



「酷く疲れたから今日は休んで、移動するのは明日にしようぜ」

 チャハンは大きく伸びをすると、関節をボキボキと鳴らした。騎士団の事情聴取では、殆んど彼が説明してくれたのだ。

「臨時収入もあったことだし、久し振りに浴びるほど酒を飲もうかな」

 謝礼として金貨十枚ずつ貰っていた。

「教会が部屋を用意してくれたので、宿の心配は要らないから安心して飲めるぞ」

 銅鑼声にも疲れが混ざっている。


「俺は靴を代えたい」

 ここまでカークは治療魔法を繰り返し掛けていたのだが、サイズが合わなくなったブーツに我慢の限界を感じていたのだ。

「じゃあその間は別行動だな」

 教会で待ち合わせを約束した。




 商人組合の事務所を訪れて、靴職人の店舗を紹介してもらう。この村には一軒しかなかった。

 間に合わせだとしても、靴は重要なので慎重に選ぶ。値段は金貨三枚だったが、これまで履いていたブーツを下取りに出すと半額で済んだ。




「乾杯」

 チャハンとカークはお互いにグラスを目の高さまで持ち上げると、軽く振ってから一口飲む。村では珍しいスパークリングワインがあったので奮発したのだ。

「この辺りは豆が特産品でな、色んな種類の豆料理が楽しめるらしいぜ」

 カークが靴を選んでいる間に、彼は情報収集してくれていた。

「季節に応じたお薦めを頼んでおいたから、今日はゆっくりと堪能しよう」

 まともに調理されたディナーは久し振りだったこともあり、二人共が大量にお代わりした。大男のチャハンは底抜けに酒を飲み、まさに赤鬼といった酔顔を晒す。

 塩味の多いメニューに合わせて、ワインからエールに変えた。


「この村はイースト・ヒルの西南西にあり、幹線道路から少し奥まった谷間に位置している」

 地理を説明してくれるチャハンは、見た目ほどには酔っていない。

「サウス・ヒルまで、馬車でも四日は掛かる距離だ」

 猟師連合会の会館へ寄ったらしい。

「ここには<互助会>の店が無いので、どうしても戻らなければならないぞ」

 依頼の完了報告と報酬の受け取りが残っている。

「追加が欲しいところだな」

 報酬の話しだったのだが、エールのお代わりが配膳された。

「明日の朝一番に商人組合へ行って、便乗できる馬車を探そう」

 カークの提案に合意する。


「ヌガウとコンヤか? はぐれた時の待ち合わせ場所は決めてあるから、ひと月もしない内に逢えるだろう」

 気になっていたことを尋ねたのだが、赤鬼はあっさりと答えた。これまでにも何度かあったようだ。

(俺は猟師に向いていないぞ)

 ベテランの姿を見て強く思った。




「回収してきたんだな」

 飲み過ぎないように早い時間で切り上げ、教会へ戻った二人の前に騎士団の馬車が並んでいた。

 エルフの男を連れた一団は昼間のうちに出発していたのだが、残った数名が仲間の遺体と壊れた馬車を修理して回収してきたらしい。

 馬車に残っていた道具を使ったことは、正直に報告していたので何も疚しいことはなかった。


 その夜は教会の施設にあったサウナとシャワーで身体を洗い、漸く清潔なベッドで快適な睡眠を得ることができたのだ。



◇◇◇



「馬車はないのか。仕方がない、歩いて行こう」

 翌朝、金貨一枚ずつをお布施として納めた二人は、早い時間に教会を出たのだが、生憎とサウス・ヒルへ向かう便はなかったのだ。

「まあ路銀も有るし、一人でワイバーンを倒した奴が一緒だから、一週間程度の徒歩でも大丈夫だろう」

 チャハンは切り替えが早い。

 数種類の豆を乾燥させた保存食を購入して二人は村を出た。




 カークとチャハンが移動を始めてから、何事もなく順調に四日が過ぎた。少し曇り空だが、まだ雨は降りそうにない。


(あれはウーイだな)

 彼等は道の分岐点に居ることが多く、その殆んどが膝を抱えて座っていた。

(ジャーキーは……好みではないのか。ではソラマメだったら……おお、喜んでいるぞ)

 個体によって嗜好が異なるようだ。また全てのお面は形状が違っており、窪みの配置によって様々な表情に見える。


「なんだよ、カークも<見える人>だったのか」

 道端で何かへ餌付けしているように見える行動を取っていると、変に鋭いチャハンに指摘された。ベテランの猟師は観察眼に優れているのだ。

「数は少ないが、猟師仲間にも時々居るのさ。何が見えているのか、俺にはサッパリ分からないけれどな」

 どうやらそれほど特異なことではないらしい。前回の成長で得た能力なのだが、新たに覚えた二種類の魔法よりも気に入っていた。


『色んな種類の精霊が存在しているノデス』

 フェアリーの説明によると、ウーイ以外の精霊も居るようだ。




続く

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