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導かれる者  作者: タコヤキ
第一章:旅立ち
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第一話:助っ人

宜しくお願いします。

毎週月曜日の十二時に更新予定です。

(縄を巻くと滑らない)

 そう考えながら厳つい男は、手頃な太さと長さの樫の棍棒へ、藁で編んだ縄を慎重に巻いた。事前にナイフで浅く切れ込みを入れておいたので、滑らずに上手くフィットしている。縄の端を固く結び、水筒から三滴落として濡らしておく。水を吸った縄が膨張し、結び目が解け難くなるのだ。


(これでスッポ抜ける心配は無くなった)

 ブンッ! と樫の棍棒を振る。

 鍛えられた太い腕が自由自在に操り、周囲へ鋭い風切り音を振り撒いた。厚い掌の皮と重なったマメが、巻かれた縄をシッカリと捉えている。


『良い感じデスネ!』

 厳ついその男の頭上で、クルクルと舞うのは小さなフェアリーだ。身長は三十センチほどだが、九頭身で成人したスレンダーな大人の体格をしている。

『攻撃の威力も上がりマスヨ!』

 アゲハ蝶に似た羽根をパタパタさせながら、キラキラと七色に光る粒子を振り撒いていた。


(では、行こう)

 数度の素振りを繰り返し、グリップを手に馴染ませてから歩き始める。


 その厳つい男は身長こそ一メートル七十センチしかないが、ガッシリした骨格に固太りした体躯の持ち主だ。伸ばし放題のくすんだ金髪は、無造作に後頭部で一つに纏めて括っている。額に幅広の鉢金を巻くことで、長い前髪を分けて視界を確保していた。

 日焼けした肌に髭はまだ生えていない。

 彫りが深く厳つい顔は、太い眉と大きな二重の吊り上がった目、武骨な鼻筋、盛り上がった頬骨と四角い顎、これまた太い唇の大きな口が引き締められ、意思の強さを感じさせている。一見すると、背の高いドワーフとも思える体格だ。


『次はどんな町カシラ?』

 厳つい男の頭上で、フェアリーが宙返りした。

 山合の広い街道を歩いているが、他に人影は見当たらない。もっともフェアリーの声や姿は他人には感知できず、厳つい男だけが認識可能であった。


(この辺りでは大きな町だから、良い宿屋が幾つも有るだろう)

 フェアリーの問いに思考で応じる。


『ご飯が美味しいカモネ!』

 彼女はグルメだった。しかし自分で食事を摂るのではなく、厳つい男と味覚を共有しているのだ。


(ああ、楽しみだな)

 早春の晴れた午後の陽射しに照らされた街道を、思いの外速い足取りで進む。



◇◇◇



「……あれは、襲われているのか?」

 意外と穏やかな声で、厳つい男が呟いた。

『どうやら、そのようデスネ』

 フェアリーが応える。

「うむ。人達が劣勢だな」

 林の中を蛇行する街道の、丁度S字カーブを切り返す位置だ。よく整備された街道は、馬車が三台横に並べられる幅がある。


 彼らが居る場所から約五十メートル離れた道端で、二台の馬車が複数の魔物に襲われていた。

 ゴブリンだ。

 珍しく二十匹以上が群れを成し、護衛の傭兵達と入り乱れて混戦している。路上で馬車を護りながら、勇敢に武器を振るう者が四名。馬車の荷台から弓矢を放つ者が二名。二人の御者も、馬へ近付けないように鞭で魔物を打っていた。


「おーい、手伝おうか?」

 厳つい男は場違いに暢気な声を掛ける。


「頼むぜ!」

 荷台から弓矢を放っている一人が即答した。彼の接近に気付いていたのだ。


「おう、任せろ!」

 先程までの穏やかな様子ではなく、シッカリと通る大声を出した。他の仲間へ彼の存在を伝えるためである。


 腰に提げていた樫の棍棒を右手で振り上げ、足音を立てずに素早く動いた。最後尾のゴブリンへ近寄り、背後から間合いに入ると振り下ろす。


 パキャッ


 呆気ない音と共に、一瞬でゴブリンの後頭部が陥没した。


(ヨシ!)

 滑り止めに巻いた藁の縄が効果を発揮して、これまでよりも力のロスが減ったのだ。手応えで感じ取った厳つい男は、満足そうな笑顔を浮かべる。


 馬車に向かっているゴブリンは、まだ厳つい男の存在に気付いていない。彼は背後から容赦なく樫の棍棒を振り下ろす。無防備な頭部を攻撃すると、魔物は訳も分からない間に絶命した。


(次は……左の奴だ)

 その厳つい男は自らチューンナップした樫の棍棒で、馬車に群がるゴブリンを叩きのめした。小柄なゴブリンの頭部を狙い、丁度腕を伸ばし切ったミートポイントを合わせる。堅く靭性に富む樫の棍棒は、脆いゴブリンの頭蓋骨を簡単に粉砕した。


 縦列駐車している馬車の後ろ側にいたゴブリンを全滅させると、背中に弓矢の刺さったゴブリンを蹴飛ばして剣士の前へと転がす。上手くタイミングを合わせた剣士により、瞬く間に躊躇いなく切り捨てられた。


 厳つい男の参戦によって一気に形勢は逆転する。元より実力者が揃っていたのだろう、全方位からの奇襲による混乱を抜け出すと、傭兵達は統率の取れた鋭い攻撃で次々と魔物を倒して行く。

 荷台の上から的確な指示を出す男も、随分と場慣れしているようだ。厳つい男の援護を受け入れた彼は、リーダー役を担っているらしい。

 厳つい男が一人だけで、半数に近い十匹のゴブリンを倒していた。




「助かったぜ」

 荷台の上にいた一人が、厳つい男へ声を掛ける。

「アンタ強いな」

 そう言って弓を背負うと、軽やかに馬車の荷台から飛び降りた。中年の男だが意外と背が高い。

「ありがとう」

 笑顔で右手を差し出す。

「お互い様だ」

 厳つい男も右手を差し出して、余り力を込めずに握手を交わした。

「でも助けられたのは事実だから、俺にできる限りの礼をしよう」

 あっさりと握手を解き両手を広げる。

「遠慮は要らないぞ、俺達は傭兵あがりの運び屋だよ」

 腰に提げていた革の袋を掲げると、ジャラジャラと貨幣の音が聞こえた。


「俺の名前はダニエルで、このチームのリーダーをしている」

 躊躇わずに金貨五枚を手渡して男が言う。

「カークだ」

 軽く会釈しながら金貨を受け取り、厳つい男が名前を伝える。

 こんな時は金額に触れずにおくのが不文律であった。余りにも低い金額であれば、それは彼等が自分で決めた命の値段であると、世間で評価されるのだ。

 カークと名乗った厳つい男の頭上では、フェアリーがプカプカと浮いていた。

「この街道を使っているのであれば、行き先は俺達と同じイースト・ヒルだな。どうだ、一緒に行かないか?」


 話し合う二人の周囲では、他の者達がゴブリンの死骸を始末している。胸を切り裂いて小さな魔石を取り出すと、道端へ並べながら積み上げて行く。皆が慣れた作業だが、既に多くの蝿が集り始めていた。


「油と薪は勿体無いが、流石にこれだけの量を放置できない」

 ダニエルの指揮により、処理を終えたゴブリンの死骸が燃やされる。魔石を抜いてあるのでアンデッド化することは無いが、他の魔物達の餌になって成長を促進したり、蝿や腐肉を漁る昆虫により人々へ有害な疫病が媒介されることを防ぐのだ。

 魔物が蔓延るこの世界では、当然の作業である。ゴブリンの死骸を焼いた後は、残った灰と骨を埋めて漸く一行が出発した。



◇◇◇



「そうか、西へ向かうのだな」

 馬車と並んで歩きながら移動している最中に、ダニエルがカークと話をしている。

「港町のレフトショルダー出身で、旅立ったばかりにしても、その装備では心許ないぞ」

 当たり障りのない範囲で自己紹介すると、彼の服装を心配されてしまった。

「俺達は取り回しを重視して、軽装の革鎧にしているんだよ」

 その言葉を聞いたカークは、他のメンバーを見て確認する。各々に色合いや形は異なるが、確かに全員が革鎧を装備していた。


(俺はそんなにも、頼りなく見えるのかな?)

 ハイネックの長袖肌着にフェルト地のシャツ、鞣し革のベストを着込んだ上から魔物の革でできた厚手のマントを羽織っている。腹部を護るために砂利を詰めた腹巻きを着けているのだが、外からは見えないので評価できなかったのだろう。

 ベストと同じ鞣し革のズボンに、堅い革製のブーツ等も含めた全てが茶色系統で揃っていた。

 アンバランスな額に巻かれた鉢金以外は、腰に提げた樫の棍棒を含めたとしても、かなり地味な印象である。


「そう言えば髭も薄いな」

 カークが横目で眺めた中年男の髭は、短く綺麗に刈り揃えられていた。

(髭はまだ生えていないんだよ)

 厳つい男は少し残念に思う。




『そこは気にしなくても構わないのデスヨ』

 彼の横顔を見詰めながら、フェアリーが囁いた。




続く

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