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極意その二

夜会、当日。

会場は煌びやかに上から下まで輝きを持っていた。

会場に入る前に様々な場所を見えてきたが、所々に目に見えてもわかる高額な絵や骨董品が並んでおり、伯爵家の財政が潤っていることが伺えた。

男女問わず、場に負けないくらい煌びやかな衣装を纏いながらある者は踊り、ある者は話に花を咲かせていた。無論、マロンも例外なく数人の御婦人や御令嬢と話を咲かせ、笑みを浮かべている。

しかし、マロンの頭はかつてない程に回転していた。

右からスロット伯爵家御令嬢、アンバー男爵家夫人、ブッフェ侯爵家夫人、ハロワ男爵家御令嬢と確認しながら、頭の中の貴族情報をペラペラと捲っていく。スロット伯爵令嬢は肌がそんなに強くなかった筈だ。だったら、アメリアを調合した肌に優しい化粧水を薦めるのがいいだろう。アンバー男爵夫人はとても美容に気をつける人だ。化粧が濃い目が好きだったし、中々落ちないだろう。肌を痛めるのをなるべく抑えているとも言っていたからミミシンを調合した化粧落としシートかな。ブッフェ侯爵家夫人は_。という風に自分が持てる情報を整理しながら何の商品をどのように相手に売り込もうかと算段を立ていた。


「マロンさまの肌ってきめ細かで綺麗だわ」


スロット伯爵令嬢であるサメリアさまがふと、マロンの肌を見ながら呟いた。


「あら?本当に?ありがとうございます」


チャンスだわ。心中でそう溢す。実はマロン自身が自領の化粧水など日々使っていた。化粧水や香水などをアピールするためには、色々な方法がある。しかし、どれも我が家の財政でやるには余りにもリスキーなのだ。そこで女性のマロンや母親でもあるバイラレットの出番である。自身たちを広告塔に仕上げたのだ。


「実は我が領土で開発した化粧水を使ってますの」

「あら?そうなの?」

「我が家は昔から薬草栽培に注力しておましたから、その知識やノウハウを使えないと考えていたのです」

「まぁ、そうでしたのね」


アンバー男爵家夫人が興味深そうに此方を見た。

こういうときは先手必勝ですわ。


「皆さま、是非とも使ってみませんか?」


無邪気な感じを装う。少し首を傾げるのがポイントである。このような甘えのサジ加減が幼い頃は分からなくて講師の女性によく怒られていた。元々独立心の高いマロンにとっては誰かに甘えるという行為が肌に合わないと感じていた。しかし、「人に頼るということは自分の弱さを見せるということ。自分の弱さをうまく見せられるようになってこそ、人の上に立つことができるのですよ」と、講師から言われてからは何なくだがマロンの価値観が少し変わった。寄り掛かる訳ではないが皆でやった方がいいこともあるということを少しずつ理解していったのだ。


「あら、いいの?」

「是非とも感想を聞かせて頂きのです」


こういうときは変に押し売りしなのが大切だ。また相手を立てることも忘れない。領土に訪れる商人たちから手法を教え込んで貰ったのでバッチリである。


「まぁ、そこまで言うなら」


ハロワ男爵家御令嬢を筆頭に次々に了承の声が上がってきた。後日サンプルをお渡しいたしますわ。と頭の中のマロンはぴょんぴょんと跳ねていたが、そんなことは微塵も感じさせない笑みを浮かべて、その場は解散した。アンバー男爵家夫人だけではなくて、ブッフェ侯爵家夫人にもサンプルを渡すことに取り付けることができて心の底からの喜びを感じる。

まだまだこれからだが、それでも突破口が出来たことに今日は達成感に浸りたい。

もう一つの目的だったルビー嬢に会うことができた。噂も時には信じてみるものである。本当にクリーム色のふんわりした白髪にサファイアのようなブルーな瞳を持った美少女だった。あの可愛さは天使と呼びたくなる周囲の気持ちもわかった。女の私でも見つめられるだけで、高揚感を覚えた程だ。あれは異性になったら一回でノックアウトであっただろう。

彼女に元にはこれからどんどんと縁談が舞い込んでくるだろうと思うと、彼女や彼女の家が誰を選ぶのか少し楽しみなところでもある。

そんなかんやで夜会も終盤に差し迫り、無事目的を達成したマロンはバルコニーに出ることにした。


「うん!いい仕事…ってあれ?」


バルコニーの端の方で椅子に座っている青年がいた。よく見ると具合があまり宜しくないようにも見える。彼の方も気がついたようでマロンの方を驚いた表情で見えているようだった。


「あの、大丈夫ですか?」


顔付きのことも気になり、近寄る。だがそんかマロンを拒絶するように青年の方が立ち上がった。


「いや、大丈夫だ。ありがとう。失礼するよ」


一刻もここを立ち去りたいというのをなくとなく圧に感じながら、ある考えに辿り着いた。もし、考えが正しければマロンは悩みを解消できるかもしれない。


「少しお待ちになって下さい」

「これをどうぞ」


マロンが青年に差し出したのは香袋だった。男女兼用に作られたので、白に灰色の紐で結ばれていた。白の上に小さく“néroli“綴られており、上品な作りに仕様になっている。彼は案の定は怪しげに見た。マロンはほぼ予想通りの反応に少し笑みを溢しながら、「香袋です。スーラとヤッカを調合しているのでスッキリとした香りなんです。」と軽く説明をした。

恐らく青年は女性の香水に酔ったのではないかと思ったからだ。今の流行りの香りは確かマララが調合された少し甘ったる香りだった。最近はローズなど香りの分野で言うと甘いの分野に入るものが女性のなかでは人気になっていた。青年はマロンを見たときに少し顔を顰めてような気がした。ここからは推測の域を出ないが御令嬢たちに、それもそこそこな人数に言い寄られたいたのではないかと考えられる。

身につけているものも上質で、先程主催者の伯爵家一家が彼に仰々しい態度で接していたのを横目でチラリと見えていた。その点を考えると、彼は伯爵位以上の身分の者に属する貴族という訳である。また青年の顔を見ると、端正な顔立ちをしている。身分も相まって令嬢たちの標的になったのことは容易に頷ける。


「こちらの香りは別名鼻直し香りなんて言われています。調合師とかよく自分の鼻に残る香りをリセットする為にもよく使われているですよ」


「女性たちの香りに酔ったのでしょ」と微笑んでいうと彼の方からは驚いたような雰囲気を感じた。実はマロンも流行りの香水の香りはあまり好きではなく、むしろ酔いそうになっていた。しかし、夜会やお茶会など人脈を広げたいマロンからすれば一回も無駄にはしたくはなかった。そこで、調合のときに勉強した鼻直しのことを思い出して、急遽作ったのだった。


「少し嗅ぐだけでも全然違いますから、まだ顔色も悪いようですし…私は別のバルコニーを使いますからまだここをお使い下さい。それでは」


美しく頭を下げ、その場を後にした。

これが2人の初めての出逢いであった。

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