婚約破棄を申し出たら反論も何もできずに指を詰められた件について。
「エリザベート!君との婚約を破棄させてもらう!」
その言葉を聞いた時、私は一瞬意味が分からなかった。何を言っているのだこの第三王子は。
「理由は言うまでもあるまい!君は中途入学したロザリーを噴水に突き落とした!そのようなふるまいをする女性と僕は婚約を続けるなど考えられない!」
そういえば昨日そんなことをしたな、と思い返す。あれは挨拶のようなものだったのだが…まぁこの第三王子《馬鹿》にそんなことを説明する必要はない。
「さようですか。では第三王子殿下」
従僕から眼鏡を受け取りながら、にこり、と微笑みかけてあげる。一昨日までならこのほほえみでほだされていた馬鹿だったのだが、今は怒りのほうが上回っているらしい。こんな顔もできるんだな、などと思いながら冷酷に告げてやることにした。
「契約破棄に伴う条件などは私は覚えておりませんが、とりあえずこの場で貴方には指を詰めてもらいます」
「異論はありませんね?」
ぐっと、声を落として普段通りのふるまいを馬鹿に見せてやることにする。ちなみにわが従僕たちは優秀であり、すでに馬鹿の左手を抑え込みドスを抜きはなっている。馬鹿は事態の急展開についていけていないのか、顔が青くなったり周りの護衛─馬鹿の護衛のほうだ─に助けを求めるような視線を送っているが、私の従僕以外は誰も動かない。どうやらこの馬鹿の行動は誰にとっても想定外のようだ。……まぁそれはそうか。
それにそもそも、このような場で闖入者がいれば首を飛ばしてよいと父上からは言われている。
「ま、まて、まってくれ!?なぜいきなり、第三王子の僕が、王位継承権3位の僕が、このような目に合うのだ!?」
馬鹿はまだ元気が良いようなので、私は従僕がとっくに渡してきたキセルの煙をぶつけてやる。げふげふむせているようだが、こいつ本当に私の夫をやる気あったのだろうか。
「なぜも何も。ロジアーノファミリーにケンカを売るということはこういうことですよ殿下。いえ元殿下かもしれませんね。今頃王城は大混乱でしょうから」
この様子はあえて遠視の魔術を使って父にのぞかせている。当然、向こうは向こうで愉快なことになっていることだろう…が、こちらほどではないかもしれない。現陛下は情勢をわきまえた、まともな舎弟だから。
「ば、馬鹿なことを言うな。王家にたてついてただで済むと─」
いい加減面倒くさくなってきた。この後のファルムンドファミリーとの諍いを考えると、こんな茶番はさっさと終わらせるに限る。
「馬鹿がいつまでもギャーギャーと……面倒くさい。もうやれ」
「はい、姉御」
従僕がためらわずに馬鹿の左手の小指を詰めた。ものすごい絶叫が聞こえるが、もうどうでもいい。
「安心しときな、止血ぐらいは王城でもしてもらえるだろうよ。さて第三王子がだめなら第二王子との婚約になるのかねぇ……ああ面倒くさい。あたいはドンパチしたいってのに」
「姉御、叔父貴が見ておりやす。あまり不用意な発言は……」
従僕が耳打ちしてくる。そうか、王城に父上がいるなら叔父上もいるのか。また猫をかぶりなおす必要があるのか……私の心は少し沈んだ。
「コホン、冗談です。さて王城に行きますよ。父上が首を長くしてお待ちでしょう」
最後に一応馬鹿相手にカーテシーもどき─もどきだ。こんなものをまともに覚える理由はうちにはない─を見せてやって、私は王城への馬車に向かうことにした。
ノリと勢いだけで書きました。
もうちょっと寝かせるべきだったかもとかもっと長くできたのではとかちょっと反省はしていますが勢いが死んだら終わりそうな気がしたのでポイっと放り投げております。