表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/11

なゆちへの感情⑴

「湊人、犯人は分かった?」


 倉敷との電話を切った後、しばらく天井の照明を見つめて考え事をしていた湊人に、なゆちが問い掛ける。


 いつの間に注文したのか、テーブルの上には大きなチョコレートパフェが2つ載っており、そのうちの1つはなゆち、もう1つは湊人の目の前に置かれていた。



「なゆち、どうしてパフェを頼んだの?」


「だって、ファミレスに入ったのに何も頼まないのは反則でしょ?」


「これって僕の奢りだよね?」


「もちろん」


 なゆちが真顔で答える。



「好きな女の子とのデートでは、男が奢るのが普通じゃない?」


 男女平等が推進されている現代においては、必ずしも男が奢るという構図はないのでは?


 というか、そもそもこれはデートなのか?


 頭の中に疑問が渦巻き、湊人が回答できずにいると、なゆちは、それを違う意味で捉えたようで、テーブルに上半身を乗り出し、


「それともみなとは私のことは嫌い?」


と訊いてきた。



 湊人は、薄ピンク色の、緩めのセーターから覗く胸元をジロジロ見ないように注意しながら、


「そんなわけないじゃん。好きだよ」


となるべく淡々と答えた。



「本当に好き?」


「好きじゃなきゃヲタクはやらないでしょ」


「みなとの好きは、アイドルとしての好きだけなの?」


「……え?」


 ふざけて訊いているということはなく、なゆちの目は至って真剣である。



「……アイドルとしての好き以外に何かあるの?」


「異性として好きかどうか」



 一体なゆちは湊人にどのような答えを求めているのだろうか。


 湊人に、異性としても好き、と答えてもらった方が、なゆちは嬉しいのだろうか。


 もしくは、逆に、嫌な気持ちになるのだろうか。なゆちはアイドルとして売れたいのだから、アイドルとしての自分を見て欲しいのであって、異性としては見られたくはないのではないか。


 アイドルに「異性としても好き」と伝えることは、下心があると曲解されることにならないか。



 湊人が悩んでいたのは、なゆちのことを異性としても好きなのかどうかではなく、「異性として好き」と伝えるべきか否かであったが、湊人がうーんと悩み込んでいるのを見て、なゆちは大きなため息を吐いた。



「……そうか。私じゃまだまだ魅力不足なんだね」


「いや、なゆち、そうじゃなくて……」


「そんなことより、みなと、犯人は誰か分かったの?」


 そうだ。いつの間にやら話があらぬ方向にすり替わっていたが、そもそもの考えてたのはそのことだった。



 結論はおろか、考えがまとまってすらいなかったが、湊人は、自分の頭の中をなゆちに披瀝した。



「状況的に考えられる犯人候補は、強盗目的の第三者、第一発見者の穂奈美さん、もしくは妻である夕利果さん」


「私、夕利果さんが怪しいと思うな」


「なんで?」


「だって動機があるじゃん。夕利果さんは獅子男さんに召使のように扱われてて、喧嘩も絶えなかったみたいだし、それに、生命保険金ももらえるわけだし」


 動機の面を考えれば、なゆちの言う通り、夕利果がダントツで怪しい。



 ただ、夕利果を犯人と断定するためには、あまりにも高いハードルがあるのだ。



「でも、なゆち、夕利果さんは、獅子男さんが殺された時刻に、事件現場から往復で1時間も掛かるカラオケボックスにいたんだよ」


 夕利果には鉄壁のアリバイがあるのである。

 倉敷の証言がある以上、アリバイそのものを崩すことは不可能に思える。



「なゆち、夕利果さんはどうやって獅子男さんを殺したの?」


 なゆちは、しばらく頭を抱えた後、一体いつどこでそんな言葉を覚えてきたのか、


「式神」


と答えた。



「実は夕利果さんは陰陽術師で、式神を使って、獅子男さんの頭を花瓶で殴打させたんだよ」


「なゆち、それ本気で言ってる?」


「本気だよ」


「嘘でしょ」


「じゃあ、みなとはどういう方法があると思うの? 仮に夕利果さんが犯人だとしたら」


 具体的な方法までは思いついていない。


 ただ、筋としてありえるのは——



「遠隔操作かな」


「……どういうこと?」


「予め特殊な装置のようなものを仕掛けておいて、リモコンのようなものを使ってその装置を発動させて、獅子男さんの頭を花瓶で殴打した」


 式神よりも容易に浮かびそうなアイデアであったが、なゆちは目を丸くした。



「そうか!! なるほど!! リモコンか!!」


 このまま推理動画の撮影に移ろうか、という勢いのなゆちを、「だけど」と僕は制止する。



「今回の事件においては、遠隔操作も厳しいと思う」


「どうして?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 一体どのような装置が使われたのかは分からないが、遠隔操作のためには、少なくとも、リモコンに反応して動く何らかの電子機器が必要である。


 しかし、そのような電子機器が小部屋にあったという話は出てきていない。


 獅子男が死んだ直後に、夕利果が現場の小部屋に立ち入れたとすれば、夕利果が「装置」を回収した可能性もある。

 しかし、今回の事件では、第一発見者は穂奈美である。そして、穂奈美は事件の発生直後に小部屋の様子を確認し、即座に警察に通報している。

 当然、警察に現場保存をされるまでの間に、現場から30分掛かる位置にあるカラオケボックスにいる夕利果が家に戻り、「装置」の回収をするということはできない。



 ゆえに、今回の事件では、遠隔操作も無理筋なのである。



「たしかに装置がなくちゃ遠隔操作はできないよね……」


「そうだね」


「じゃあ、夕利果さんは犯人じゃないっていうことか」


 あまりにも強固な動機があるため、夕利果を犯人候補から外すのには抵抗がある。


 しかし、客観的な状況は、犯人が夕利果ではないことを物語っているのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ