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貧乏国家の黒字改革〜金儲けのためなら手段を選ばない俺が、なぜか絶賛されている件について〜  作者: 空野進
第三章、国力を上げよう

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説得

 クリスが手招きをしていたので、俺たちも小屋の中へ入る。

 すると、険しい顔をした男たちがにらみ付けてくるので、思わず顔が強張ってしまう。


 この表情を見る限りだと説得は失敗したか?


 ただそれならば俺たちをここに招き入れる理由がない。

 ――クリスが裏切っていなければだが。


 しかし、クリスにはそれらしい様子は見受けられなかった。


 つまり、今もなお説得中ということか?


 概ね状況を把握した後でクリスに話を聞く。



「どうだったんだ?」

「俺から詳しい説明をするより説明してもらった方が良いかなって思ったんだ」

「――なるほどな。わかった。それなら俺から説明させてもらう」



 クリスがジッと俺のことを見てくる。

 おそらくこの説明でも俺の(こと)を探っているのだろう。


 下手なことは言えないだろう。

 しかし、金で勝てないことは既にクリスと共有している。


 それならば俺が伝えるべきことは――。



「まず一つ目に伝えておきたいことがある。給金はこのまま帝国に残る方が絶対に良い。それを前提で聞いて欲しい」



 最初は悪いところから説明をする。

 これは隠しようのない事実だからな。

 それに最初に下げてから、あとから上げるほうがより効果は期待できる。



「まずは労働環境だな。おそらく、まともに休めていないのだろう?」

「あぁ、むしろずっと仕事をしている気分だな」

「確かにこの詰め所に控えているだけで、他に仕事をしていないと思われているのだろうけど――」

「俺たちがいないと敵に襲われたときにいち早く動けないだろう!」



 俺がちょっと質問を投げかけるだけで、男たちから不満が爆発する。


 なるほど……、確かにこれは金じゃないな。



「あぁ、それはわかっているつもりだ。詰め所にいる間はさすがにちゃんとしてもらうが、それ以外の休みはしっかり取らせてもらう。それと、もしお前たちを馬鹿にするような奴がいたら言ってくれ」

「――どうするつもりだ?」

「もちろん念話兵の重要性がわかっていない人間には、きっちりと分からせる必要があるからな。お前たちがいないとまともに国の防衛が成り立たないわけだからな」

「――そんなことを言って、戦えない俺たちをまた馬鹿にするだけじゃないのか?」



 疑いの目を向けられる。

 今までよほど酷い扱いを受けてきたのだろう。


 そんな相手に言葉だけじゃ通じないだろうな。



「クリス、シャロ、お前たちは証人として聞いておいてくれ」

「あぁ、もちろんだ」

「ふぇ? わ、私も、ですか?」



 クリスはこうなることを予測していたのだろうが、シャロは驚きを隠しきれないようだった。

 俺は一度頷いた後、男たちに説明をする。



「もし、俺たちについてくれるなら、念話兵はこれから俺直属の兵とする。そもそも他の兵と同じ体系に置くのがおかしかったんだよな。正式名称等はまた考える必要はあるだろうが……」

「なるほど、確かにそれなら一般兵より上の身分になる、ということになるな。そこまでしてもよかったのか?」



 クリスが聞き返してくるが、俺は迷うことなく頷いていた。



「情報を制する者が戦も制することができる。当たり前だろう? その逆もしかりだ」



 下手なポジションに付けて、今回みたいに裏切られるのも怖い。

 それならば、俺の直轄に置いてしまった方が監視の意味合いでいい。


 それに、こいつらも他の兵から馬鹿にされなくなる。


 俺の直轄部隊だからな。

 こいつらを馬鹿にすることは、俺を馬鹿にすることに他ならない。


 まぁ、勝手にそんな部隊を作ったことへの非難は集まるかも知れないが、情報の大事さは分かってくれるはずだ。



「俺から提示できる条件はそんなところだな。休みの方も俺の国はまだまだ弱小だ。それほど多くの念話兵を詰めさせる必要はないから十分に取れるだろう。立場についても確実によくなる。ただ、その分給金は落ちるだろう。それでも大幅に落ちないように努力はさせてもらう。国が大きくなれば更に給金は増えていく。俺自身が提案できるのはそれだけかな。あと、追加できるようなことはあるか?」



 念のためにクリスに確認をする。

 すると、クリスは満足げに首を横に振っていた。


 クリスとしても及第点に達していたのだろう。

 ただ、そのタイミングでシャロが言葉を発する。



「えっと、その……、き、来てくれるなら腕によりをかけてご飯を作りますので――。ぎ、ギルドの方で作ってますから……」



 ……まぁ、それは魔王には通じるだろうけど、他の人には決め手にはなり得ないな。

 でも、シャロなりに必死に考えてくれたのだろう――。

 と、微笑ましい気持ちになっていたのだが、ずっと詰め所に居続けた男たちの少女への免疫力を舐めていたかも知れない。


 俺が提案したことでもまだ迷っている節があった男たちだが、シャロのその言葉を聞いた瞬間に大きく頷き、俺たちに付いてくれることになっていた。



 ……あれっ? もしかして、シャロだけで説得ができたのか?



 なんだか、俺は少し損したような気持ちになってしまった。

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