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貧乏国家の黒字改革〜金儲けのためなら手段を選ばない俺が、なぜか絶賛されている件について〜  作者: 空野進
第三章、国力を上げよう

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新米兵クリス

 帝国領の金鉱前までやってきた。

 やはり、兵はしっかり配置されているものの、その様子はだらけきっていた。


 まだ日が高い時間であるにも拘わらず、酒を飲み、騒いでいた。


 この程度の相手なら今でも余裕で倒すことができそうだ。


 でも、怖いのはここを落とすのに手間取っているうちに他所に救助を出されること。



 隠れている兵はいないか。

 応援を呼びに行く場所はどこになるか。

 その時に通る道はどこか。



 その辺りは調べておきたい。



 一応いくつかは目星を立てているが、実際に現地を見て調べないと分からないこともあるからな。



 兵たちに普通の服を着させたのは、相手を油断させるためでもあるが、色々と調べているのを怪しまれないようにするためでもあった。



「結構たくさんの兵士さんがいるのですね」



 シャロが不安げに言ってくる。



「まぁ、あいつらは油断してるから問題ないな。酒が回ったタイミングで襲えば簡単に倒すことができる」

「で、ですが、お酒に酔っていない人とか、そもそもお酒を飲んでない人とかもいますよね? そもそも仕事中の人が真昼間からお酒を飲むなんて――」

「あぁ、そこが問題だな。想像以上に奴らが油断しすぎている。これが真に俺たちを弱小だと信じての結果なら良いんだが、油断していると見せかけている可能性が出てきた」

「――さすがに王子は考えすぎだと思うな」



 ポポルは苦言を呈してくる。



「いや、よく考えて見ろ。ここは金の鉱山だ。普通なら小隊が守っていてもおかしくない重要拠点だからな。敵に不穏な行動があるなら調べて当然だ」

「まぁ、本来ならこんなところから攻めないけどね。もっと落としやすいところから進んでいくから――」

「とにかく少し様子を探ってくる。もし何かあったら指揮はポポルに任せるぞ!」

「あっ、王子一人で行動したらダメだよ!」

「そ、それなら私が一緒について行きます!」



 ポポルは少し心配しすぎだと思うが……。


 シャロが俺の後を慌てて追いかけてくる。

 そして、くっつきそうになるほど近づいて隣を歩いていた。







 鉱山の近くを歩いて見て回る。

 本来ならこんなところを歩いていると呼び止められてもおかしくないのだが、「けっ、飯がまずくなる。あっちにいけ」と逆に先へ進ませてくれる。



「おかしな奴らだな。まぁ、俺たちとしては助かるが――」

「そ、その……、今、私とアルフ様、その恋人に見られて――」

「んっ、あぁ、そうか。その方が都合が良さそうだな」



 さすがに恋人同士が偵察に来ているなんて思わないだろう。


 シャロと腕を組むと、彼女は顔を真っ赤に染めていた。


 ただ、それをしたことによって、ますます駐在している兵士達から呼び止められる回数が減っていた。

 舌打ちされる数は増えたが――。



「あ、アルフ様……、これだと逆に目立ってないですかぁ……?」

「まぁ、目立ってはいるな。カップルとして……」

「か、か、カップル!?」

「誰も俺たちの顔を見てないから好都合だろう」

「そうでもないぞ。止まれ、アルフ王子!」



 ……!?



 突然兵士に呼び止められる。

 まさか、本当に先ほどまでの酒を飲んで酔っていた兵士は揺動だったのか?



「王子? 誰のことを言ってるんだ? 俺たちはただ、束の間のデートを楽しんでいるだけだが? なぁ、シャロ?」

「ふぁ? は、はい、そ、そうです。わ、私とアルフ様はその、デートをして……」



 シャロの顔は茹で上がったみたいに真っ赤に染まってしまう。

 しかし、すぐに必死になって首を縦に振っていた。



「はははっ、そんなウブなカップルがいるか。よほどの節穴じゃない限り、見たらわかる。そもそも他国の王子の顔くらい覚えておかないで兵士なんてできるか」



 くっ……、確かにこの兵士の言うとおりだ。

 危険な敵国の人間を知らないで誰と戦うつもりなんだ。


 ただ、弱小と言われている俺たちの情報すらあるとは……。

 帝国侮りがたいな。

 これは少々作戦を考え直す必要がありそうだ。



「それで俺たちをどうするつもりだ? なにもしていない一国の王子を捕らえるつもりか?」

「今は――だろう? ここに来たということはこの金鉱を取るつもりだったのだろう?」

「ぐっ……」



 そこまで既に見抜かれていたのか。

 俺の予想以上の相手のようだ。


 俺が眉をひそめて、この場をどう乗りきるか考えていると、兵士は突然大声を上げて笑い出した。



「あははっ……、いや、すまんすまん。アルフ王子がまさか本当にこの金鉱に来るとは思わなくてな。ついカマをかけてしまった。ここの兵士はあんたが王子だったと言うことは知らないから安心するといい」



 えっと……、つまりどういうことだ?



「お前はこの帝国の兵じゃないのか?」

「あぁ、そこは間違いない。俺はこの国の兵士だ」



 やはりそうだよな。

 俺は鋭い視線を兵士へと向ける。



 すると、兵士は慌てて首を横に振っていた。



「いやいや、違う違う。俺は帝国の助けをしたいわけじゃない。あんたを見込んでお願いがあるだけだ」

「……お願い?」

「あぁ、俺の力は今見ただろう? だから俺を雇ってくれないか?」



 ……雇う? 貧乏国家であるユールゲンの兵になるってことか?

 それならば帝国にいた方がよほど好待遇をウケられるものを……。



 ただ、その疑問も察してか兵士が先に答えてくる。



「待遇がよくても上がガチガチに固まっている。これ以上の出世を果たせないところに興味はないな」



 なるほどな。

 出世という観点から考えると確かにうちはいいだろう。



「……理由はわかった。まだ全幅の信頼は置けないがそれでいいか?」

「あぁ、それはこれから勝ち取ってみせる」

「わかった。それじゃあこれからよろしく頼む。……えっと」

「俺はクリスだ。元帝国の新米兵だった」

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