対策
魔王と会ったあとのブライトは少し悩んだようだが、それよりも領地の民達の方が大変だと判断したのか、領地のために尽力してくれているようだった。
この国のために力を尽くしてくれるのなら、かの領地は任せていた方が良いだろう。
民達から人気のある人物なので、理由もなく罪に問うてしまったら、逆に反乱を起こされて面倒なことになりかねない。
それならば、飼い慣らして収入を得る手段にするのが良いだろう。
それに今は特に反抗する意思はないように思えた。
これで二人の貴族を屈服させたことになる。
だんだんと他の貴族を追い詰めることが出来ているだろう。
そのうち、降伏してくる貴族もいるかもしれない。
城から金を奪っていった成金どもだからな。
ブライトのように魔族憎しで敵に回ったわけではない。そんなやつは手元に置いておく理由もない。
ただ、国土が広がっていく内に人材不足も目立つようになってくるだろう。
今はシャロの冒険者ギルドがあるおかげでどうにかなっているが、手を打つ必要はあるだろう。
いずれ襲ってくるであろう帝国や他の国に対抗するために――。
「アルフ様? どうかしましたか?」
「いや、何でも無い。それよりもシャロのギルドにいる冒険者たちはどうだ?」
「……どうといいますと?」
「いつもと違った様子はないか? 例えば突然いなくなったりとか……」
「そういったことはないですね。むしろ毎日欠かさずに来てくれるのは嬉しいのですけど、体調が悪いときまで無理に来ようとするので、押しとどめるのが少し大変なくらいです」
「そういうときはマリーに頼むといい。無理矢理引きずって帰ってくれるだろう」
「だ、ダメですよ! 病人相手にそんなことをしたら――」
「……冗談だ」
「絶対に冗談じゃなかったですよね?」
「……冗談だ」
妙に鋭くなったシャロ。やはりギルドマスターを続けてそういった部分が成長したのだろうか?
「それなら近々冒険者達に一つ、依頼を出そうと思う。できるか?」
「もちろん掲示板には貼りだしておこうと思いますけど、どんなことでしょうか?」
「あぁ、今回の事件を引き起こしたラグゥの身柄の拘束だ。当然ながらしっかりとしておく必要がある。俺の許可も出しておくから隙を見て拘束するように頼んでおいてくれ」
「……仕方ないですよね。また同じような被害に遭う人が現れないようにするためには……」
「当然だな。ただ、まだ城の兵が動かせる状態にないからな。冒険者の方で頼みたい」
「それは構いませんけど、冒険者には帝国の方もいますよ? それでもいいのですか?」
「仕方ないだろう。やってくれるかどうかは冒険者の個々に任せるしか……。それにシャロに心酔しているならしっかり仕事をこなしてくれるだろうからな」
「で、でも、アルフ様に殺されそうになっているとわかったら、帝国に亡命したりとかしますよね? やっぱり危険に思えますけど――」
「亡命したいならすれば良い。無能な人物なら逆に帝国の足を引っ張ってくれるだろう」
「……わかりました。また詳細条件を聞きに行かせていただきますね」
シャロに依頼を頼んだあとに、俺は手招きをしてイグナーツを呼ぶ。
「どうかしましたか、アルフ様」
「帝国の兵達が泊まっている宿へ監視に行ってくれないか?」
「……もしばれたら大事になりますよ?」
「大丈夫だ、確認するのは一つだけだからな」
「……それは一体?」
「これから書く深紅の紙に書かれた依頼を持って帰った帝国兵がいるかの確認だ。依頼はおそらくすぐになくなるから、一日監視してくれれば良い」
「そのくらいでしたらごまかすことも出来ると思います。かしこまりました」
イグナーツが頭を下げてくる。
これで取れる対策はしただろう。次に攻めるべきはラグゥだな……。




