案内
「はぁ……、疲れた……」
フルールを見送った後、俺は自分の部屋のソファーで深々と腰掛けていた。
「でも、シャロに全て任せても大丈夫なの? 流石に見てて不安になったけど」
ポポルが心配そうに聞いてくる。
「何か心配なことでもあるのか?」
むしろああいった場はシャロの方が向いていると思う。
「だって、シャロは聞かれたら話しちゃいそうじゃない?」
「でも、シャロはマリナスのことを新米冒険者マリーだと思っているぞ? あっ、今だとオズマリーだったか? つまり、正しいことを言ったとしても、マリナスまではたどり着かないんだ」
「あっ……確かに。で、でも、他にこの国の機密について――」
「他にバレたらだめなことでもあるのか?」
「た、例えば、魔族がこの領地にいるって事を話したら――」
「当然だが、シャロは守ってもらえるな。魔族としてわかりやすい角がないわけだから」
「本当に聞けば聞くほど、適任だったのね」
「あぁ、そういうことだ。むしろ、他の冒険者たちみたいにシャロにほだされるかもしれないぞ」
俺はニヤリとしていた。
「さ、さすがにそこまではいかないでしょ……」
「でも、マリナスを落としたシャロだぞ?」
「うっ……、確かに可能性はあるね……。で、でも、逆にシャロが勧誘されて帝国に行くなんて事は……?」
「帝国は魔族と戦争をしたことがなかったか? 今はこの国が防波堤になっているが――。そんなところにシャロが行くとでも思うか? 常に身を危険にさらすことになるぞ」
「それもそうね……。見た目が魔族ってわからないから、ついね……」
ポポルが思わず苦笑する。
◇■◇■◇■
「えっと、こちらが冒険者ギルドになります」
シャロは帝国の騎士たちを連れて、冒険者ギルドの前までやってくる。
「意外としっかりした建物を使ってくれているのですね……」
「は、はいっ、アルフ様のおかげで良い場所を使わせていただいています」
「なんだ、このボロ家は……。魔物が襲ってきたら吹き飛びそうじゃないか?」
シャロとフルールが話していると、後ろから騎士が悪態をついてくる。
「こらっ、バーグ!! 余計なことを言うな! 申し訳ありません、シャロ様。後できつく叱っておきますので、何卒ご容赦を……」
「あっ、いえ、気にしないでください。ボロボロなのは確かですから……」
必死に謝ってくるフルールにシャロは苦笑で応える。
ただ、その後ろでマリナスは拳を握りしめていた。
「それよりも中に入ろうと思うのですが、その……」
シャロは騎士たちを眺めて、心配そうにする。
それなりに大きなギルドとはいえ、騎士たちが全員入るかといえば怪しかった。
でも、相手は帝国の使者。
そんなことを言っても良いのかという疑問が浮かんでいた。
「あぁ、さすがにこの人数は入れないな。私と数人だけが入るとしよう。あとはここで待機していろ!」
「はっ!!」
フルールの号令に、一同声を合わせて返事をする。
この統率力はすごいなぁ……。
そんなことを考えながら、シャロはギルド内に入っていく。
「うぉぉぉぉーー!! シャロちゃんだ!!」
「今日もかわいいよ、シャロちゃん!!」
「はぁ、はぁ……」
ギルドに入った瞬間に歓声が上がり、シャロは思わず苦笑していた。
しかし、普段から慣れていたギルドの状況だが、フルールにとっては驚きの出来事だったようだ。
「な、なんだ、これは……」
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまいましたよね。どうも冒険者の人たちが私を持ち上げてくれまして……」
「あっ、ふ、フルール様……」
フルールの姿を見た冒険者たちが、急に静かになる。
そして、どこか青ざめた表情をしていた。
「それは済まないな。我が帝国の冒険者がこのような真似を行っているとは……。後でしっかりしつけをしておこう……」
冷たい言葉を冒険者たちにかけるフルール。
しかし、シャロは首を横に振っていた。
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ、私が大変なときでも、楽しませてくれますのですごく助かっています。みなさん、熱心に依頼をこなしてくれますし……」
「おう、俺たちはシャロちゃんのためなら、いくらでも命を張るぜ!!」
冒険者たちが再び騒ぎ出す。
その様子を見て、フルールは思わず、頭を押さえていた。
「わかりました。シャロ様がそのように仰るなら、本当に問題ないのでしょうね」
「はいっ!」
「それと、シャロ様に一つ、伺いたいことがあるのですか……」
「何でしょうか? 私でわかることでしたら――」
「実は、私たちはこの国にマリナス……という人物を探しに来たのですけど、シャロ様は見たことはありますか?」
「マリナス……ですか? 私はないですね。私とすぐ近くの時期にこの国に来たアルフ様もないんじゃないでしょうか?」
「そうか……。それじゃあ、まだ姿を隠しているんだな……。ありがとう、助かったよ」
「いえ、そのくらいでよろしければ……」
「せっかくだし、もう一つ教えて欲しいのですが――」
「えっと、何でしょうか?」
「ちょっと、皆が聞いてる前だと話しづらいことになりますので、二人で話せるところはありませんか?」
「……? それなら二階に私の私室がありますが、ちょっと散らかっていますよ?」
「そこでかまいません。行きましょうか……」
フルールに促されて、シャロは二階へと向かっていった。




