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おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記  作者: はむ
第七章 中央教会の聖女コロン
63/208

063-未知なる一週間の始まり

<聖王都プラテナ 地下牢>


 薄暗い牢獄に白髪の男が一人。

 彼の名はネスタル……かつて、この国の大臣にまで登り詰めた男であった。

 その身分を失うに至った男の罪名、それは……


 ――プリシア姫の誘拐および聖竜への傷害。


 そう、彼こそが数ヶ月前に国中を騒がした大事件の当事者であり、プラテナ王国に強く根付いていた人間中心思想を崩壊させた張本人である。

 かつて巨大国家の大臣だった彼は、今や地下牢でただ無気力に時の流れに身を任せる罪人となっていた。


「何が聖竜だ! あのような魔物にこの聖地を蹂躙されるなど、何たる屈辱……!」


 ところが彼は今も、自らの行動が必ずしも悪だったとは思っていない。

 それどころか、今後の聖王都のあり方に対しても否定的であった。


「このままでは、我が国は神に見放されてしまうではないか!!」


 たとえ姫の身を危険に晒した行動が非難されたとしても、憎き魔物(ドラゴン)を駆除しようとした事までも罰せられるとは、まったくもって馬鹿馬鹿しい。

 そもそも我が国プラテナの首都が聖王都と呼ばれる理由、それは神が世界で最初に創られたのがこの地だったからである。

 そして、神が最初に最初に生み出した生き物は他でも無い、我ら人間であった。

 最も気高く知性に恵まれた人間という種によって世界は大きく発展し、こうして生み出された楽園は天界にも匹敵する素晴らしい世界となっていった。

 ……だが、そんな美しい世界を妬んだ者達が現れたのだ。


 それが――異世界より襲来した魔族だ。


 魔族共は各地にモンスターを放つと、この美しい世界を蹂躙した。

 聖王都も幾度となく襲撃を受けた結果、あろうことか約束の地へと繋がる東の森をドラゴン共に占領されてしまった!

 約束の地は、我らが天界へと昇った後に暮らす安住の地……それをけがされるなどあってはならぬ事だ。

 もしそうなってしまうと、彷徨さまよえる魂は地獄へ行くしか無いのだから。


「奴らが……奴らさえいなければ!!!」


 自分が大臣となってからは中央教会への支援を手厚くし、さらに軍事力も大きく高めてきた。

 それも全て東の森……いや、聖地を奪還するためであった。

 それなのに全ての準備が整った矢先、突然やってきた田舎者共によって計画が台無しにされ、自身も投獄されてしまった!


「おのれ背信者共め……地獄に堕ちてしまえ!!」


 怒り任せに堅い扉を蹴り飛ばすと、鈍い音が辺りに響いた。

 無論、魔力によって増強された金属の扉が、その程度の攻撃でどうにかなるわけがない。

 そういえば、今回の計画には自分ともうひとり魔術師長が関わっていたのだが、非常に強い魔力を持つゆえに、自分よりも更に強固な結界付きの独房へ収監されている。

 彼もまた神の教えを信じ、国の輝かしい未来を願う聖者であったのに、なんたることか……。

 もしや、この世界はそう遠くないうちに滅んでしまうのかもしれない。


「神よ! どうか我らに救いを……そして愚か者共に天罰と正しいお導きを!!」


 ネスタルが鉄格子の隙間から空を見上げ、両手を掲げたその時――



『投獄されてなおその信心。とても素晴らしい心掛けですね』



「!?」


 いきなり男の声が聞こえ、ネスタルは慌ててそちらに目を向ける。

 そこに居たのは、なんと中央教会の大司祭ツヴァイその人であった。


「おお、大司祭殿! このような場所へどうして……!?」


『あなた方が国の未来を案じ行動したと、神の名の下に我が中央教会が身の潔白を証明し、神からの恩赦を得たのです。無論、魔導師ワーグナー殿もですよ。残念ながら自由の身とは行かぬゆえ、あなた達の身柄は我々中央教会の監視下に置かれる事となりますが……』


 大司祭の言葉に、ネスタルは首を横に振ると涙を流しながら頭を下げた。


「大司祭殿……誠に、感謝致します!!」


『いいえ、感謝する相手は私ではありません。全ては我らが神のお導きのままに……』





【聖王歴128年 黄の月 11日 早朝】


<聖王都プラテナ 北街宿屋>


「『実家に帰るっ!!?』」


 突然のサツキの宣言に、俺とエレナは同時に驚きの声を上げた。


「うん。次の旅に出るまで一週間ちょっと時間あるでしょ? この間にエメラシティ経由でハジメ村に戻っておけば、フルルに力を借りていつでも帰れるようになるからね」


 確かに、俺のかつて見た世界では旅客船でゆっくり帰ってきたため、この宿に戻ってきたのが今月の十八日だった。

 次の旅に出るのはそれよりも後になるので、今日から約一週間程度は日記にも書かれていない「何もしなくてよい日」が続くのである。

 サツキの言うように、この期間中に実家に戻ってゆっくりくつろいでから空間転移で十八日以降に聖王都へ戻ってくるというのも悪くないアイデアだ。


「そんじゃ、今回はサツキの案を採用だな。俺も出発の準備を~……」


 俺がそう言って立ち上がろうとしたところ、何故かサツキはチッチッチッと舌を鳴らしながら指を横に振った。


「おにーちゃんとエレナさんはココで留守番だよ~」


「はあ?」『はい?』


 いつもの事ではあるが、サツキが意味の分からないことを口走っている。


「お前なぁ。子供だけでここから北上とか、モンスターだって出るのに途中で何かあったらどうすんだよ」


「子供だけじゃないよーん」


 そう言うと、鞄の中から隠れて待機していたハルルとフルルが顔を覗かせた。

 続いて、ユピテルが脱力した様子で溜め息を吐いた。


『オイラは子供だけど、サツキちゃんについて行くよ……』


「お、おう」


 表情から察するに、半ば強制的について来いと言われたに違いない。


「ホント、うちの妹がゴメンな。……あーもう! ったく、しょうがねえなっ」


「えっ! いいのっ!?」


 自分で言っておいて何故驚くのか。


「どうせ、駄目とか言ったところで、勝手に行くんだろうが!」


「さすがおにーちゃん! 話がわかるーっ」


「そんな事で褒められても嬉しくねえなぁ」


 やれやれと呆れる俺を尻目にササッと旅の荷物を整えたサツキは、こちらに振り返ると両手を構えて宣言した。


「ふっ、フェアリーテイマーサツキちゃんの冒険が、今始まる!!」


「そもそも往路だし。冒険じゃなくて帰省だけどな」


「ぶー! ノリが悪いよーっ!」


 サツキはぶちぶちと文句を言いつつも、ユピテルの手を引いて部屋を出る間際、今度はニヤリと笑いながら振り返った。


「さあ、おにーちゃん! この二人きりのラブラブ時間タイムによって、おにーちゃんとエレナさんの関係が進展する事を願う。デートせよ、探求せよ! おにーちゃんに、最大の成果を期待する!!」


「『!!?』」


「あでぃおーすっ!!」


 俺とエレナが呆気に取られている間に、チビッコ共は走り去ってしまった。


「えーっと……」


『う、うーん……』


 いや、こんなに露骨に煽られたら逆効果だってば!!

 そんなわけで、我が愚妹は無茶ぶりと微妙な空気を残しながら、遙か遠い我が家へと帰って行ったのであった。

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