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おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記  作者: はむ
第六章 ゆきの国の妖精ハルルとフルル
55/208

055-チカラの代価

『空間転移が使えない……僕達は……完全に閉じ込められた』


 フルルが力なく肩を落とす姿を見て、ハルルは悲しそうに頭を撫でて慰める。


「くっ、必ず誰かが犠牲にならない限り出られない罠なのか!」


 ウラヌスが焦りの表情で石板を睨む姿を尻目に、俺は腰の鞘からライトニングダガーを抜き魔力を込めると、怒りを込めて全力で床へ突き立てた。


「バイタルバイド!!」



キィィィィーーーンッ!



 甲高い金属音が辺りに響き、右手がビリビリと痺れる。

 ……だが、渾身の一撃にも関わらず床にはキズひとつ付かない。


『この床……破壊不可オブジェクト!? これじゃ、イフリートの炎ですら焦げ一つ付けられません!』


「なんて反則な!」


 それからしばらく周囲を捜索したものの、脱出の手掛かりは掴めなかった。

 エレナ曰く、壁面も床と同じく破壊不可になっているらしく、見た目こそ神殿のようではあるが、その実態は牢獄と何ら違いはないようだ。

 結局、俺達は一旦脱出を断念し再び石板のあった場所へと戻ってきた。


「やっぱり、誰かが犠牲にならざるを得ないのかな……」


 クルルが不安そうに呟く姿を見て、俺はかつて勇者カネミツとともに神々の塔へやって来た時の事を思い出す。

 最上階を脱出し降りてくるウラヌスとクルルの姿を目の当たりにして、当時は「先を越されて悔しい」という気持ちではあった事を覚えているのだけど、今思えばウラヌスの物陰で小さくなっていたクルルは決して幸せそうな表情では無かった。

 その時の二人が「画期的な脱出方法」を見つけ出していたのであれば話は別だが、ウラヌスが王女と結婚する道を選んだ事を考えると、そうだったとは考えられない。

 つまり、この後二人のどちらかが力を失い、その結果別れる道を選ぶ事になってしまったと――



ゴゥンッ!!!



「!?」


 一瞬、建物全体がまるで鼓動するかのように揺れた。


「今のは地震……?」


『カナタさん! これを見てください!!』


 エレナの指した先を目で追うと、緑色の文字が並んでいた石板の表面へ新たに真っ赤な文字が浮かび上がっていた。



【タイムリミット警告】

 直ちに決定の意志を示さない場合、当該空間を消去し次の者へと挑戦権を移管します。

 制限時間――残り120秒、119秒、118秒……。



「当該空間? 消去???」


 書かれている文章の意味が分からないものの、エレナの顔色が青ざめている様子からして、これが尋常じゃない状況である事は間違いない。


『当該空間とは、私達が居るこの場所の事。つまり神は……この部屋ごと私達を消し去るつもりです!!』


「どんだけ執拗に用意周到なんだよ神様ってヤツは!!」


 俺はライトニングダガーを鞘にしまうと、すぐさま石板に向かって右手を伸ばす!

 ……が、石板に触れる直前にウラヌスが俺の腕を掴んだ。


「なっ、何をっ!?」


「……はぁ、それはこっちのセリフだ。今まで散々迷っていた割に、いざとなったら躊躇ためらいが無さ過ぎるなカナタは」


「そんなの、ここにいる全員が殺されるってのに、悠長にいられるわけが……!」


「いいから落ち着け」


 俺より年下のはずのウラヌスに諭され、俺は渋々と右腕を引っ込める。


「……で、何か良い案でもあるのか」


「無いな」


「おいっ!!」


「……だが、この状況において適任者は一人だろう?」


 突然のウラヌスの言葉に一同は騒然となる。


「カナタはパーティのリーダーとして今後も仲間達を護る義務があるだろう? 精霊であるエレナさんが全魔力を消失するのは命に関わる問題だ。子供二人に至っては、候補にする事すら論外だな」


 それからクルルの頭を優しく撫でると、何かを懐かしむように笑った。


「そろそろ泣き虫も卒業かな」


 言葉の意味を察し、クルルはハッとした顔でウラヌスの顔を見つめる。


「クルル。これからは、お前の力で世界を救うんだ。俺に頼らず、な」


「嫌だっ!!!」


 クルルはウラヌスに飛びつくと、腕の中で泣きじゃくった。


「どうしてそんな事を言うの!? 私、世界を救うとか、そんなの知らない!! ウラヌスが一緒に居てくれたら何だっていい!! 例え世界が滅んだって、君と一緒なら平気!! だから……お願いだから、そんな事言わないでっ!!!」


 泣き叫ぶクルルの姿に、ウラヌスの顔が辛そうに歪む。

 ウラヌスは悔しそうに奥歯をギリリと噛みしめると、何かを決心した様子で溜め息を吐いた。


「クルル、俺は……俺の存在が、お前の足枷あしかせになるくらいなら……」


 彼にそこから先を言わせてはいけない!!

 俺の直感が何かを察知し、それを引き留めようと――



「そぉいっ!!!」



【結界展開システム起動】

 承認されました。



「は?」


 思わず間抜けな声を漏らした俺の目の前で、石板が眩い光を放ち天を貫く!

 フルルの空間転移と同じような浮遊感が皆の身体を包み、それまでの閉鎖された空間から一転、フロストの広大な雪景色が一望できる塔の屋上へと景色が変貌した。

 続けて石板から噴水のように虹色の光が噴き出すと、真っ白な空に向けて広がってゆく……。



【正常終了】

 結界の再展開に成功しました。

 脱出ゲートをオープンします。



 それから屋上の中央にぽつんと立った石板に新たな文字が表示されると、塔の周囲をぐるりと囲むように螺旋階段が現れた。


「………」


『………』


 唐突すぎる状況に皆、無言である。

 そんな中、脳天気に「ほほーう」とか言いながら空を眺めていた当事者が一人、満足げにコチラに向けて親指を立てた。


「やったぜっ!」


「やったぜ、じゃねええええええーーーーーーーっ!!!」


 眩しいばかりの笑顔を浮かべる我が妹サツキの姿を見て、俺の絶叫が大雪原に響いた。

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