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おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記  作者: はむ
第六章 ゆきの国の妖精ハルルとフルル
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049-国王からの要請

「都より南西へ行った先にある、神々の塔の最上階……そこへ行き、この国を護る結界を張り直してしてもらえないだろうか!」


 突然の王の宣言に辺りは騒然となる。

 いや、こちらに至っては騒然どころの騒ぎではない!


「それは、何者かが結界を破壊したのという事ですか?」


 無礼も承知で国王へ問いかけると、幸い俺の声が聞こえたのか国王はこちらを一瞥いちべつし、首を横に振った。


「破壊されたのではなく、時間経過による劣化とでも言うかな。我が国を護る巨大な魔力結界は、約二十年に一度の頻度で崩壊を迎えるのだが、結界を張り直すには南西にある神々の塔の最上階にある結界展開用の魔術回路を再起動するしかないのだ。そこで勇敢な皆に協力をお願いしたい」


「なるほど……」


 エレナが魔王四天王「炎のメギドール」を撃退した事で、フロスト王国を護っている結界は破壊されずに済んだ。

 ……にも関わらず、結界を張り直すという出来事は不可避となると、もしかするとこの出来事は「回避できない運命」なのかもしれない。


「神々の塔には極めて強いモンスターが徘徊していて非常に危険である。心してかかってほしい」


 国王がまるで演劇の台本を語るかのように、俺がかつて見た世界と同じ事を言う。

 前回はここで俺が「常に警備を置いてモンスターを追い払えば良いのに……」とか言ってしまったのだが……。



『それ、事前にモンスターが近寄らないようにしておけば良かったんじゃないっすかねー?』



「なっ!?」


 突然の言葉に周囲はざわつき、そちらへ視線が集まる。

 声の主は当然ながら俺ではなく……我が妹サツキであった。

 というか、実際に質問を投げかけたのはサツキのフードに隠れているハルルなのだけど。


「えっ……ちょっ……!」


 いつも問題発言で周囲の皆を振り回すサツキではあるが、さすがにこの場面で声を上げる程に非常識ではないので、半泣きでオロオロするばかり。

 ただ、国王的にも「興味本位でこの場に居合わせた子供が、何の気なしに質問をしただけ」と見てくれたのか、大人として真面目に答えてくれた。


「結界が弱まるのは二十年に一度。その間、常に兵士を派遣し塔の警備を行うにはとてもたくさんのお金がかかるうえ、多くの兵士達が常に危険な状況に身を置く事になってしまう。であらば、都度ここに居る屈強な強者達がモンスターを倒す方が理に適っているのだよ。……納得頂けたかな、お嬢ちゃん」


 サツキが涙目のままコクコクと頷くのを見て国王は笑うと、ついに本題の発表へと入った。


「そして……誰よりも早く最上階へと到達し結界を張り直した者に、我が娘ルルミフとの婚姻を認める!!」


 国王の言葉に広間は騒然となった。

 まあ、俺としては二度目だし、どちらかというと「白の勇者と王女は結婚する運命なのかなー」とか「やっぱり、勇者と王女を結婚させる為の出来レースなのかなー」という感想しかないんだけど。


「神々の塔はかつて新国王が戴冠たいかんの儀式を受ける前に、その者が国を治める事の出来る実力者であるかを見極める事にも使われてきた、由緒ある建物である。塔の結界を修復する目的で最上階層へ辿りつくのは、それに値するに等しいと言えるであろう」


 つまり「王女様と結婚する相手は強い男がいい」って事だろうか。

 でもその理屈で行くと、最悪ムチャクチャ厳ついジャイアントサイクロプスみたいな脳筋野郎が国王になるリスクがあるんだけど……。

 こんなザルな判断基準で大丈夫なのかなあ?


「皆の者、期待しておるぞ!!」


 こうして国王のありがたいお言葉が終わるや否や、集まっていた者達は神々の塔へ向かうべく、一斉にその場を離れていった。

 そして騒ぎの渦中にあったサツキは……顔を真っ赤にして怒りながらハルルの首を絞めていた。


『ぎっ……ギブギブギブ!!』


「なんでいつも、みんな私にハズレ役やらせるのっ!」


「お、おおお、落ち着けー!!」


 ここで「大人のれいでぃ~になるため?」とか言おうものなら、本当にハルルが天に召されそうなので、どうにかサツキをなだめながらハルルを救出した。


『うぅ、ひどい目にあったっす……』


「つーか、どうしてハルルはサツキに成りすまして、あんな質問したんだ?」


『そりゃ、君の残した日誌との整合性を確認するためっすよ。結界を張り直す理由がメギドール襲撃による破壊ではなく、年数経過による崩壊という違いはあっても、警備を付けない理由は金銭面だと回答する事は一致したっす』


「まあ二十年も警備し続けるにはそれなりのカネと人が必要だろうしなぁ」


 だが、俺の答えに対しハルルの代わりにフルルが首を横に振った。


『それなら……結界魔術回路をお城に移設すればいい。わざわざモンスターの集まる場所に……結界の施設を建てる必要は……ない』


『そもそも君の記録によると、塔に入る時にシャロンという子が炎魔法でドアの結界を破ってるっす。という事は、結界を護るために外部からの侵入を防ぐ仕組みがあるんすよ。……じゃあ、なんでモンスターが塔の中に居るんだって話っす』


「あっ!!」


 ハルルの言う通りじゃないか!

 つまり、モンスターは塔に侵入したのではなく「塔に最初から居る」。

 そして、国王が皆を集めたのは結界を張るのが目的ではなく、皆を塔に登らせるため――



『ハルル!!』



 いきなり名前を呼ぶ声が聞こえ、思考が中断された。

 俺は声のした方へ目を向けると、驚きのあまり息を飲んだ。

 話しかけてきたのは、色白・長身・金髪のイケメン……なんと、白の勇者ウラヌスその人だった。

 その後ろには、彼の仲間の女の子の姿も見えた。


『やあウラヌス、久しぶりっすね』


「ああ、アイスソードの一件では世話になったな。だが、山頂の神殿に居るはずの君達がどうしてここに?」


『たまにはふもとも見ておきたいと思ってね。アイスクリスタルも在庫を切らしてしまったし、しばらく彼らと同行させてもらってるんすよ』


「そうだったのか! ……おっと、挨拶が遅れたな。俺の名前はウラヌス、こっちがパートナーのクルルだ」


 俺らの姿を見るなり、ウラヌスは礼儀良く挨拶してきて、クルルと呼ばれる子もぺこりと頭を下げた。

 こちらも各々に名乗るが、とくに険悪な雰囲気になる事もなく、勇者カネミツと一緒にいる時と比べたら天と地の差である。

 まあ、勇者同士の確執という理由が無ければ、初対面の俺達が争う理由が無いから当然ではあるけれど。


「俺とクルルはこれから神々の塔へ向かおうと思うが、君達はどうする?」


「うーん。王女様と結婚する気は無いけど、結界が無くなって都が襲われても困るし。手伝いくらいはしようかなーって感じかな」


 俺が適当に答えると、ウラヌスは俺の横にいたエレナに目をやってから、ワハハと愉快げに笑った。


「ははは、言えてるな。俺も王族なんぞになるなんてまっぴらゴメンだ。さっさと仕事を済ませて次の冒険に向かいたいよ」


「っ!?」


 俺の知っている世界では、ウラヌスは塔の結界の再展開に成功し、王女と共にお披露目をしていたはず。

 でも、いま俺達の目の前にいるウラヌスは……それを望んでいない?


「ん、どうした?」


「い、いや、なんでもない」


「???」


 俺を見て不思議そうに首を傾げるウラヌスだったが、気を取り直すとクルルにチラリと目を向けた。


「さて、そろそろ神々の塔へ向かうとするかな」


「お、おう。俺達も準備が出来たら向かうよ」


「それじゃ、いっちょ頑張ろうじゃないか。お互いにな!」


 ウラヌスはそう言って爽やかな笑顔で手を挙げると、クルルを連れて南西へと歩いていった。

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