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おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記  作者: はむ
第六章 ゆきの国の妖精ハルルとフルル
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047-救いのない?セカイ5-2

~旅の記録~


【聖王歴128年 黄の月 1日】


 メギドールを撃破した俺達はフロスト城での報告を済ませ、再び街へ戻ろうと城門前を通りがかったところ、色白・長身・金髪のイケメンに遭遇した。

 そんな完全無欠感が漂う野郎が、不満げにこちらを睨みながら口を開いた。


「貴様が"大陸の勇者カネミツ"だな?」


 この男の名はウラヌス、この国で『白の勇者』と呼ばれる男だ。

 白の勇者がつかつかと歩み寄ると、カネミツに向かって言い放った。


『街の人々を護り、魔王の刺客を討伐した事は感謝する。だが、我が国には防衛軍や凄腕の強者が集まる冒険者ギルドもあり、彼らも十分に戦える戦力を持っている! 大陸の勇者殿が腕自慢なのは分かるが、貴様の為に守護妖精ハルルの命を捧げる必要があったのか、いささか疑問だな!』


 どういうわけか、こいつはカネミツがアイスソードを手に入れた経緯を知っているらしい。

 わざわざ『大陸の勇者様』だけ妙に強調し、まるでメギドールを倒した事を否定するかのような言い回しに思わずカチンとしたが、勇者カネミツはやれやれと言った顔で白の勇者の正面に立った。


「君の言い分もごもっともだけど、正義の為に命を捧げた彼女ハルルを冒涜するのは、紛いなりに勇者としていささか軽率だと思うよ」


 言い方はマイルドではあるものの、自分の事を紛い呼ばわりするカネミツにウラヌスは激高。

 一触即発の状況に辺りは緊張に包まれるが、ウラヌスは仲間の女の子が悲しそうに自分の袖を引く姿を見て、舌打ちをしながら城の中へと入っていった。


【聖王歴128年 黄の月 2日】


 帰りの船賃を稼ぐため黙々とモンスター狩りで一日が終わった。

 もっと安い船は無いのかと聞いたところ「勇者が海難事故で逝去なんて絶対許されないから、貴族と同じ大型旅客船に乗るしかないんだ。商船や小型船なら一週間くらい早く着くんだけど……」と、カネミツにしては珍しく消極的な回答だった。

 というか、そんなに速く移動できるなら俺だけ帰りは別の船にしてほしい。


【聖王歴128年 黄の月 3日】


 城からいきなり緊急招集がかかった。

 大広間には俺達だけでなく傭兵や冒険者、さらには白の勇者ウラヌスの姿もあり、腕自慢が集結しているようだ。

 なぜ強者達を集めているのかと皆が不思議そうにしている中、国王の口から語られた話は「魔王四天王メギドールによって破壊された結界を張り直してほしい」という内容だった。

 どうやらフロスト王国の都一帯は、城から南西にある「神々の塔」と呼ばれる巨大な建物の最上階にある魔道装置から放出される結界によって加護を受けているらしいのだが、その結界が破壊された場合は、塔に登り結界を再展開するために魔力を供給しなければならないらしい。


 しかも、塔の中は極めて強いモンスターが徘徊していて非常に危険だそうで、最上階へ行くのは命がけになるであろうとの事。

 俺がうっかり「常に警備を置いてモンスターを追い払えば良いのに……」と呟いたところ、国王に聞こえてしまったのか「前に結界が破られたのは約二十年前。長い期間、警備のために莫大な税金と人員は使えない」だそうで、何だか釈然としないけど、お偉いさんがそう言うなら仕方ない。


 それよりも、続けて国王が宣言した話に皆は度肝を抜かれた。


「一番最初に最上階にたどり着いた者に、王女との結婚を認める」


 つまりは次期国王の座が与えられるというのだから、この場に集まった強者達は大騒ぎ。

 話が終わるや否や、大半の人間が大急ぎで広間を飛び出して行ったのだった。

 なお、珍しくカネミツが乗り気じゃないなと思って聞いてみたところ、曰く「いや、僕は別にこの国の王になりたいわけじゃないし」だそうで、確かにごもっともである。 


【聖王歴128年 黄の月 4日】


 早朝、神々の塔へ向かった俺達は半日足らずで到着した。

 塔までの道中にモンスターと一切遭遇する事もなく、どうやら昨日のうちに出発した連中に片っ端から狩られてしまったらしい。

 こうなると、既に他のパーティが最上階層に登ってしまったのでは……? と不安に思っていたのだが、いざ神々の塔までやって来た俺達の目に映ったのは塔の前に多数並ぶ「かまくら」という雪で出来た簡易的な寝床だった。

 首を傾げながら塔の入り口に来ると、凍りついたドアに体当たりやら斬撃を繰り出してる傭兵達の姿が見えた。

 彼らが言うには、どうやら昨日にうちに到着したものの、どうにも入り口のドアを突破できなくて困っているらしい。


「アンタ達はどいてなさい」


 シャロンが大男達を押しのけてドアの前に行くと、その扉に書かれた模様を見てやれやれと溜め息を吐いた。

 そして杖に魔力を込めながら叫ぶ。


「メルト!」


 杖から魔力が放たれると、凍てついていた扉が真っ赤に炎を上げて焼け落ちた。

 どうやら扉そのものは単なる焼き板で、そこに凍結の結界を付与したものであったらしい。

 シャロン曰く「結界を張る為の設備なのに、その建物に結界が張らないわけ無いでしょ」だそうで、全くもってごもっともである。

 塔の内部に入ると、確かに国王が言っていた通り、手強いモンスターが凄まじい頻度で襲ってきた。

 しかも出現モンスターはいずれも火属性であるためシャロンや俺達の出番はなく、アイスソードだけが頼りという状況にカネミツ一人に負荷が集中し、第三階層の途中で探索を中断。

 多くの素材や経験値は手に入ったものの、悔しそうに来た道を引き返すカネミツの表情を見て、俺達は何も言えなかった。


【聖王歴128年 黄の月 5日】


 翌日、俺達が再び神々の塔へ登ろうとしたその時の事だった。

 塔の最上階から虹色の光がキラキラと広がり、雪の大地へと降り注いだ。

 それから塔の周りをぐるりと囲むように氷の階段が現れると、二人の冒険者がそれを歩いて降りてきた。

 白の勇者ウラヌスと、その仲間の女の子だった。


「アイスソードの持ち腐れだな」


 ウラヌスの言葉にカネミツは一瞬言葉に詰まりながらも、いつも通りの胡散臭い作り笑顔を見せると……


「次は負けないさ」


 とだけ呟いた。


【聖王歴128年 黄の月 5日 同日夕刻】


 フロスト王国へと戻ると、既にウラヌスが登頂に成功した話が伝わっており、街を上げてのパレードが開かれていた。

 どうにも、最初から白の勇者と王女を結婚させるための出来レースだったんじゃないかという気がしてならないけれど、過ぎてしまったものは仕方がない。

 人だかりの向こうには、白の勇者ウラヌスとお姫様が並ぶ姿が見えたけれど、わざわざそれを掻き分けて顔を見に行く意味もあるまい。

 俺達はお披露目式を見る事なく宿へと戻った。


【聖王歴128年 黄の月 6日】


 早朝発の旅客船に乗り、俺達はフロスト王国を後にした。

 ちなみにこれを書いているのは宿を出る直前である。

 たぶん、再び地獄の船酔いと戦う事になるので、次に書くのはずっと先の事になるかもしれない。

 ああ、いやだいやだ。

 次に船に乗るのは聖職者と一緒である事を祈ろう。


【聖王歴128年 黄の月 18日】


 しばらく船には乗りたくない。

違和感に気づいた人、お見事です。

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