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おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記  作者: はむ
第六章 ゆきの国の妖精ハルルとフルル
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043-救いのないセカイ5-1

~ 旅の記録 ~


【聖王歴128年 緑の月 28日】


 マリネラと別れた勇者一行は、それからアクアリアの港へとやってきた。

 その理由は、南西の島国フロスト王国へ向かうためだ。

 わざわざ海を渡ってまで何をしに行くのかと勇者カネミツに聞いたところ、どうやら「アイスソード」という武器を手に入れるのが目的とのこと。

 アイスソードは水属性の剣で、その刃は灼熱の炎すらも消し去る力を持っているらしいのだが、カネミツがアイスソードを求める理由――それは「彼が生まれつき、光属性の魔法しか使えない」という弱点を克服する為でもあった。


 カネミツのもつ光の力は魔王の眷属に対し圧倒的な強さを誇る一方、それが効かない相手に対してあまりにも無力すぎるのである。

 それゆえ、イフリート戦ではシャロンに戦いを任せるしかなく、何一つ出来ないままレネットが自らの手で弟ユピテルを殺める姿をただ眺めるしかなかった。

 二度と悲劇を繰り返すまいと誓うカネミツに、俺達三人は協力する事にしたんだ。


【聖王歴128年 緑の月 40日】


 さて、前回の日記から十日以上も経ったわけだが、別に飽きて投げ出していたわけではなく、船の揺れがあまりにも酷すぎて、船酔いで日記を書くどころの騒ぎではなかったのである。

 どうやら聖職者ヒーラーは船酔いを治すスキルを使えるらしいので、帰りは是非ともそういったスキル持ちと一緒に乗船する事を祈りたい。


 それにしても、着いたら着いたで常軌を逸した寒さに卒倒しそうだ。

 しかも、再び船乗りのおっちゃん曰く、フロスト王国のある内陸側はもっと寒いらしい。

 これ以上寒いなんて、現地の人達はどうしてこんな過酷な環境に暮らしているのか、全く理解できない。

 来て早々だけど、さっさとアイスソードを手に入れて暖かい世界に帰りたい。

 だけど、帰る時もまた船に乗るのか……つらい。


【聖王歴128年 緑の月 41日】


 フロスト王国にやってきた!

 もう寒いとか言う次元を越え、痛いとしか表現しようがない。

 事前に防寒着を買っていたものの、服が分厚くても寒いモノは寒い。


 それはさておき、王城へとやってきた俺達は勇者カネミツの特権であっさりとフロスト王との謁見を許された。

 いやはや、勇者の権限たるや国外でも凄まじいなぁ……と俺が呟くと、カネミツ曰く自分だけでなく国ごとに必ず勇者がいて、各国の勇者は異国でも丁重に対応される仕組みがあるらしい。

 この国の勇者は「白の勇者」と呼ばれているそうだが、世界中の国々から次々と勇者が送り出されているにも関わらず、未だ魔王が倒されていない事を考えると、もしかして人類はかなり厳しい状況に置かれているのではなかろうか。

 そんな不安を胸に、フロスト王国の都での一日目を終えた。


【聖王歴128年 緑の月 42日】


 今日は、国一番と言われる凄腕の鍛冶士に会いに行った。

 ところが彼曰く、アイスソードという名の剣があるのではなく、ふつうの剣に対し「アイスクリスタル」という魔法石から放たれる光を浴びせる事で属性を付与する仕組みらしい。

 そして、アイスクリスタルは都の北にそびえ立つ雪山にあるとの情報を得た俺達だったが、登り始めて早々いきなり雪崩に襲われた。

 シャロンがフレアストームで吹き飛ばしてくれたおかげで事なきを得たものの、山道が非常に険しいうえ休憩地点といったものは一切無く、ごうごうと雪が降る中で岩陰に身を潜めてビバークしながら夜明けを待つという荒行をする事になってしまった。

 ホントこの国の旅はつらい……。


【聖王歴128年 緑の月 43日】


 二日がかりで山頂へ登った俺達の目に映ったのは、神秘的な雰囲気漂う神殿だった。

 そこに待ち受けていたのは、背中に氷のように透き通った羽をもつ双子の妖精ハルルとフルル。

 ふたりは山頂の神殿からずっとフロスト王国を見守っているらしい。


 だが、カネミツがアイスクリスタルを探しに来た旨を伝えたところ、ハルルから『一足遅かった』と言われた。

 どうやら先に「白の勇者」がやって来て、アイスクリスタルの最後の一つを持って行ってしまったらしく、次に手に入るのがいつになるのか分からないのだそうな。

 険しい山道を登ったのに無駄足に終わってしまった俺達を可哀想に思ったのか、今晩は神殿に泊めてくれる事になった。

 雪山でのビバークは洒落にならないくらい辛いので、本当にありがたい。


【同日深夜】


 フロスト王国の都の方角から凄まじい爆音が響き、慌てて飛び起きた。

 空が炎で朱く染まる様子は、まるでエルフの村がイフリートに焼き尽くされた時を彷彿とさせた。

 ハルルとフルルが遠くを見通す『ミカガミ』というスキルを用いてフロスト王国を映し出すと、そこには全身が炎に包まれたゴーレムの姿があった。


『我が名は魔王四天王メギドール。白の勇者ウラヌスを差し出せ!!』


 メギドールが叫ぶや否や街に炎弾を放ち、たちまち都は炎に包まれた。

 助けに戻ろうにも、山頂の神殿からフロスト王国まで下るだけでも一晩以上かかる事を考えると、俺達が到着する頃には全て焼き尽くされているだろう。

 アイスソードが手に入らなかったうえ、再び何もできないまま街が蹂躙される様子を悔しそうに眺めるカネミツを見て、フルルが『僕が皆を街まで転送する』と言った。


 その言葉の意味が分からないまま、俺達は光に包まれ――炎上する都の中心へと移動していた!

 カネミツは急いでメギドールに立ち向かおうとしたが、ハルルが両手を広げて行く手を遮ると次のように言った。


『今の君には絶対にメギドールを倒せない。行ったところで犬死にするだけだ』


 それに対しカネミツは答えた。


「勝てる勝てないではなく、白の勇者がフロスト王国を離れている今、勇者を名乗り戦える者は僕ただ一人だ。ここで勝てないと諦めて逃げ去る者に、勇者を名乗る資格など無い」


 あまりにも無鉄砲かつ蛮勇としか思えぬその答えを聞いてハルルは微笑むと、カネミツの剣にそっと触れた。


『アイスクリスタルは、妖精達の生きた証』


『我らを創りし神の下へ還る時……ただ一つ遺すもの……』


 微笑むハルルとは対照的に、表情ひとつ変えず淡々と呟くフルルから、その感情は読みとれない。

 そしてハルルが『次もフルルの姉として生まれる事を祈るね』と言い、フルルが無言のまま頷いた直後、ハルルは淡雪のような光となって消え、カネミツの剣の刀身が青白く輝いた。

 フルルはそれをジッと眺めながら、無表情のままカネミツへと告げた。


『勇者カネミツよ。我が姉ハルルの魂と共に、魔王四天王メギドールを倒すのです』


 カネミツは強く頷くと、メギドールへと向かって行った。

 ハルルの魂が込められたアイスソードの威力は凄まじく、たった一振りでメギドールの炎を消し去り、二振りでゴーレムの巨体を打ち砕いたのだ。

 こうしてカネミツはフロスト王国を救い、新たな武器「アイスソード」を手に入れたのだった。


【聖王歴128年 緑の月 44日】


 戦いを終えた翌朝、ふと気づけば妖精フルルは居なくなっていた。

 もしかすると再び街を見守る為に山頂の神殿へと戻って行ったのかもしれないが、今となってはそれを知る由はない。

 街の中心部を見ればたくさんの家が焼け落ちており、メギドール襲撃の凄まじさを物語っている。

 俺達は悲しげにそれを眺めている人々の姿に胸を痛めながら、フロスト王城へと向かって行ったのだった。

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