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おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記  作者: はむ
第六章 ゆきの国の妖精ハルルとフルル
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042-船旅のおはなし

【聖王歴128年 緑の月 40日】


<ジュエル大陸西部 海上>


 俺達は予定通り港町アクアリアから出港し、西の島国フロスト王国へと向かっていた。

 かつて俺の見た世界では勇者カネミツと歌姫マリネラの感動 (?)の別れの後、勇者パーティはアクアリア港から旅客船に乗って西を目指していたのだが、我ら平民一行にはそのような資金的な余裕は無いのである。

 てなわけで、俺達は旅客ではなく商船に「護衛」として雇われるかたちで、西へ向かっていた。


「そんじゃ、ちょい行ってくるわー」


『留守番お願いしますね~』


『「いってら~」』


 俺とエレナはチビッコ二人に見送られながら船室を出て、デッキで船乗り達と合流。

 すると、檣楼トップの上で遠くを見ていた男がこちらを見て声を上げた。


「ちょうど良かったぜあねさん! 前方のアレをお願いしやす!」


 その言葉を聞いて、エレナは苦虫を噛み潰したような表情でゲンナリしている。


『ちゃんとやりますけど、その呼び方ホントやめてくださいっ!!』


 さて、どうしてエレナが商船の船乗り達からあねさんと呼ばれているのか?

 それは今から二日前に話がさかのぼる。



……



【聖王歴128年 緑の月 38日】



『うみ~! うみはひろいな~っ♪』


「エレナさん、何だかご機嫌だねー」


『はいっ。どこを見渡しても海、海、海! とにかくマナの量が凄いですし、これならしばらく食事をしなくても平気です~』


 なるほど、エレナは神から力の供給がストップしたとは言っていたけれど、水のたくさんある環境なら、それを自力で補給が出来るようだ。


「水の精霊にとって、海って特別なモノなんだなー」


『はいっ。今なら、ちょっとした水属性魔法を連射しても平気ですっ♪ そこら辺にドカンと氷柱を立てる事も出来ちゃいますよーー!!』


「いや、やらなくて良いから」


『アイシクルピラーっ!』


どかーんっ!


「なんで立てたーーーっ!?」


 だが、俺が抗議の声を上げた直後、船乗り達がざわつき始めた。

 今の一発で何か問題を起こしてしまったのではないかとビクビクしつつも、俺は船乗りの一人に話しかけた。


「何かあったのか?」


「今、アンタの連れのねーちゃんが魔法をぶっ込んだトコにクラーケンが隠れてたんだ!」


「なんですと?」


「もし見逃してたら船底に穴をブチ空けられてたかもしれねえ……本当に助かったぜ!!」


 ……えーっと。


「エレナ。気づいて撃った?」


『…………もっ、もちろんですともっ!!』


 回答まで妙に間が開いていたうえ、妙に目が泳いでいるのが気になるけれど、あえて触れないでおこう。

 とか思っていると――


「本当にスゲエぜ!」


「この船旅はアンタがいれば万全だな!」


「アンタなんて言い方は失礼ってもんだろう。今後はあねさんと呼ぼうじゃないか!」


「「おうっ!」」


『ええええええええええーーーっ!?』



……



 とまあ、こんな具合である。

 ぶっちゃけ自業自得なのだけど、涙目で抗議の声を上げるエレナの肩をぽんぽんと叩いた俺は、目を伏せながら首を横に振った。


「大丈夫。それでもエレナはエレナだから」


『えーん! その言い方は余計にキズつきますーっ!』


 エレナがしょんぼりしながら船首に立つと、鬱憤を晴らすように真っ直ぐに前を見据えて叫んだ。


『アクアスプレッド!!』


 エレナの放った大量の水弾はずっと遠くの空で構えていた飛行型モンスターの群へと降り注ぎ、不意打ちをくらった魔物達は一目散に逃げ出した。


『ふぅ、これで大丈夫です』


 そして一仕事終えてこちらへ戻ると、すぐに船乗り達が笑顔で迎えてくれた。


「お勤めお疲れ様っすあねさん!」


「これからも宜しくお願いしますぜあねさん!」


『うわーんっ!』



【聖王歴128年 緑の月 41日】



 色々とエレナの気苦労はあるものの、俺達は順調にモンスターを撃退しつつ、雪の島国へと向かっていた。

 しかし、何事も無く目的地に着いて欲しいという俺の期待とは裏腹にその事件は起きた。


「大変だァーー! 前方に氷山がっ!!」


「バカ野郎! 当直の奴らは何やってたんだ!!」


「あ、あっしはちゃんと見てやしたぜっ! あのバカでっかい氷山がいきなり生えてきたんでさぁ!!」


「んなバカな話があるかっ!!」


 口論の罵声に船内は騒然となる。

 困惑の表情で立ち尽くしている船乗り達をかき分けて船首に行くと、確かに遠く前方へ氷山がある。

 素人目には「舵を切って避ければよくね?」とか思ってしまうのだけど、船乗り達の様子を見たところ簡単な話では無いようだ。

 そんな騒ぎの中、目を凝らしながら氷山を見つめていたエレナがギョッとした表情になる。


『カナタさん! あれアイスゴーレムですっ!!』


「なんだってっ!?」


 確かに雪国であるフロスト王国周辺にはアイスゴーレムは出現するのだけど、ここはまだ海の上であり、生息域からはかなり遠い。

 しかも、氷山と見間違える程に巨大なゴーレムなんて、そんな奴は今まで一度たりとも見たことがないぞ!


『私のスキルでは、アイスゴーレム対してダメージを与える事が出来ません……!』


 エレナの主スキルは水属性で、当然ながらアイスゴーレムとの相性は極めて悪い。

 ネックレスの追加効果により聖属性が付与されているものの、ほぼ防御用スキルに特化しており、当然ながら氷山のように巨大なアイスゴーレムを倒すのは不可能だろう。

 この状況には、さすがのサツキも不安そうにオロオロとするばかりだ。


「おにーちゃんどうしよう! あたし泳げないっ!」


「大丈夫だ。泳げたところで、こんなクソ冷たい海に放り込まれて助かるのはエレナだけだから」


「うわーん、ぜんぜん大丈夫じゃなーいっ!」


 泣きついてきたサツキをなだめつつ、俺は右手中指のそれにチラリと目を向ける。


「しゃーねえ、やるしかねえか!」


 俺は右手中指に意識を集中しながら指輪に魔力を流し込む。

 たった1回で気だるさが全身を襲い、意識ごと刈り取られそうになるが、どうにか歯を食いしばる!


「おっとと……」


 俺が少しバランスを崩しよろめくと、背中をそっと細い手が支えてきた。


『あまり無理はしないでくださいね……』


 不安そうなエレナに対し、俺は自慢げに笑うと船首から真っ直ぐに氷の塊に向けて手を掲げた。


「行け! イフリート!!」


 指輪から巨大な炎に包まれた狼が現れると、眩しい光とともに巨大な炎弾を放った!

 それが真っ直ぐに氷山へ突き刺さると――



ドッゴオオオオオオオオオオオオーーーーーーーー!!!



 凄まじい轟音を響かせ、氷山が大爆発。

 何が起こったのか理解するよりも早くエレナが両手を広げて叫んだ。


『セイクリッド・ホーリーシールド!!』


 エレナの凛とした声が大海原に響き、船の前方に虹色のシールドが広がった。

 爆風に混ざりながら飛んできた氷塊やら火種やらが魔力防壁にブチ当たりながら空中で四散してゆく。


『ほっ、間に合ってよかったぁ』


「これは一体……」


 未だに防壁にガンガンとぶつかってくる氷塊を眺めながら俺が呟くと、サツキが「あっ!」と声を上げた。


「揚げ物をしてる時に、おかーさんが絶対に水を入れちゃダメって言ってた!」


「あーーー……」


 つまり、イフリートの巨大な炎を食らったアイスゴーレムが一気に気化し、それが海中で爆散してしまったのだろう。

 アイスゴーレムを倒す事ばかり考えていたけれど、その後の事を完全に失念していた。


「……ところで、エレナは知っててさっきの魔法を?」


『い、いえっ。何だかカナタさんがイフリートを召喚する直前くらいから、急激に水が騒ぎ出したというか。マナが異常に増大したので、嫌な予感がして……』


 うーん、さすが水の精霊。

 そういった変化には人間よりもずっと反応が鋭いのかもしれない。


「何にせよホント助かったよ、ありがとうエレナ」


『えっ、あっ。お役に立てて何よりですっ。えへへ~』


 嬉しそうに照れ笑いするエレナを見て和みつつ、再び後ろを振り返ると……今回は、船乗りの皆様方からの熱い羨望の眼差しが俺に向かっていた。


「すっげええええええーーーーー!!」


あねさんだけでなく、アンタも召喚士とは、人は見かけによらねえなっ!!」


『ちょっとっ! 人は見かけによらないってどういう意味ですか! カナタさんは見た目もちょーカッコイイですよ! ぷんぷんっ!!』


「そっちっ?」


 そんなこんなで、アイスゴーレムを撃破した御祝いもかねて、甲板の上で飲めや歌えやのお祭り騒ぎが繰り広げられたのであった。

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