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032-怪盗ルフィンの正体!

 広間に紫色の煙が広がると、警備兵達がバタバタとその場に倒れていった。


「お、おのれ……ガクッ」


 しばらく抵抗を続けていたライナスも長くは耐えられず、床に突き立てた剣を握りしめたまま気を失ってしまった。

 煙が立ちこめる中、金髪の女が床に転がっていた宝剣ライトニングダガーを取り上げて怪しく笑う。


「フフフ……。こんなに上手く行くなんて、ホント拍子抜けね」


 この女の正体こそ、巷を賑わせている怪盗ルフィンその人であった。

 そして周囲に立ちこめている紫色の煙は、彼女の十八番スキル「麻痺毒霧スタニングミスト」である。

 主に状態異常系スキルを好むシーフが好んで使うこの技は、吸引するとたちまち全身が痺れ意識を失ってしまう。

 時間経過により効力が失われるため無関係な人を巻き込む恐れはないものの、毒草を原料としたものと違い「証拠が残らない」ため犯罪への悪用が後を絶たず、国によっては使用すら禁じている地域もあるくらいだ。

 ちなみに勇者パーティの一員であったカナタは、勇者カネミツの「そういうのは勇者パーティの戦いっぽくないよね」の一言により、このスキルを修得していない。


「ここの宝物庫ったら魔法防壁が堅すぎて、私のアンロックじゃ破れないのよねぇ。だけど、それならライナス殿下自ら開けちゃえば全て解決♪ ホント私ったら天才ね~」


 ルフィンは鼻歌交じりにライトニングダガーを鞘から抜くと、魔力を込めながら宝物庫の扉を切りつけた。


スパンッ!


 ズシリと重い扉がまるで粘土細工のように切り抜かれ、大きな孔を空けた。


「ヒュ~、こりゃ凄いわね。シーフ最強の武器をこんな場所にずっとしまいっぱなしなんて、ホントもったいない。これからは私が有効活用してあげるとしましょ」



『そんな事、絶対に許しませんっ!』



「何っ!?」


 いきなり話しかけられたルフィンは慌ててその場を飛び退きつつ、声の聞こえた方へ投げナイフを放った。

 だが……


『アイスウォール!』


 突如現れた巨大な氷柱に、投げナイフは全て弾かれた。


「なかなかやるじゃない。そんなトコに隠れてないで姿を見せなさいな!」


 ルフィンはライトニングダガーを構えると、氷の向こうの人影に向かってその切っ先を向けた。

 すると、氷柱の向こうから白いローブに身を包んだ女性……エレナが姿を現した。


「私の麻痺毒霧スタニングミストを回避するなんて、ホント驚きだわ」


 感心するルフィンに対し、エレナは目を細めながら悲しそうな顔で首を横に振った。


『……回避なんてしていません。あなたのスキルレベルでは、私に対しステータス異常を起こせないだけです』


「なんだって! ってことは、人並み外れた魔法抵抗力……アンタ人間じゃないわね?」


 エレナが水の精霊だという事を知らずとも、白いローブからわずかに見える薄水色の髪色や、自らのスキルが通用しない事からルフィンはそれを察したようだ。

 何より、強者として名高いプラテナ国のライナス殿下を昏倒させる程の威力をもつ麻痺毒霧スタニングミストが効かないという時点で、エレナが常人では無い事が明らかだった。


「それなら直接攻撃あるのみさ。宝剣の斬り試しをさせてもらおうじゃないか!」


 手に入れたばかりのライトニングダガーを構えるルフィンの姿を見て、エレナは悲しそうに目を伏せた。

 それから胸元のペンダントを右手で握りしめると、まるで幼子を諭すような顔でルフィンへ問いかけた。


『もうやめにしませんか、アナイスさん』


 エレナの言葉に、ルフィンは絶句した。

 アナイスの姿が三つ編みの黒髪にメイド服姿だったのに対し、怪盗ルフィンは短く整えた金髪と行動しやすいショートパンツスタイルであり、彼女らは似ても似つかない。

 それに身長や体格、声色まで違う。

 どう考えても、この両者に共通点は全く見られないはずだった。


「……どうやって見破った?」


 ルフィンの変装は単なるメイクではなく、魔力コーティングによる完全擬態と声色変化を組み合わせた独自技法で、普通の人間には絶対に見破れないと自負している。

 だからこそ、あらゆる盗みを成功させてきたし、これまで一度も捕まった事が無いのだ。

 そんなルフィン自慢の変装スキルに対し、エレナはキッパリと言い放った。


『私の()には、そういう小細工は通用しませんから』


「……はははっ! 私とした事がホント油断しちゃったわ。最初からアナタを警戒すべきだったのにね!!」


 そんな彼女の言葉に、エレナは悲しそうな顔でルフィン……いや、アナイスへと目を向ける。


『どうしてライトニングダガーを盗もうとしたのですか? それで誰か護りたい人がいるのですか? あなたが持つ事で誰かを救う事が出来るのですか?』


 エレナから「怪盗ルフィンの存在理由」についての問われたアナイスは、いぶかしげな顔で首を傾げた。


「アンタ何言ってんの? アタシは怪盗としてお偉いさん共からレアアイテムをぶんどるのが生きがいなだけさ。何が役に立つかと言われたら……今後の盗みがしやすくなるくらい?」


『そんな……!』


 あまりにも身勝手なアナイスの答えに、エレナは愕然としながらよろめくと、その細い肩を優しく両手が受け止めた。


「おめー、ウチの純粋無垢なお嬢様になんつー事を言いやがんだ。シーフの印象が悪くなるだろうが」


「っ!!」


 まだ麻痺毒霧スタニングミストの煙が立ちこめる中、盗賊シーフのカナタが不機嫌そうに睨むと、アナイスは困惑した表情でその姿を凝視していた。


「な、なんでシーフのアンタがあっさりと麻痺から回復してるわけっ!? どうして……!」


 エレナと違って、カナタはどこからどう見ても単なる人間だ。

 しかも自分アナイスと同じシーフ職であり、魔法抵抗力は極めて低いはず!

 だが、アナイスには大きな見落としがあった。

 麻痺毒霧スタニングミストの効果時間に影響を与える要素は、魔法抵抗力の他にもう一つ重要なモノがある。

 それは……



【簡易ステータス表示】

レベル:37

名前:アナイス

職業:シーフ

内容:人

性別:女

属性:無

年齢:31


【簡易ステータス表示】

レベル:99

名前:カナタ

職業:シーフ

内容:人

性別:男

属性:無

年齢:20



 目を細めたままエレナはアナイスへと、その答えを告げた。


『アナイスさんのスキルが効かない理由……それは、圧倒的なレベル差です』

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