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おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記  作者: はむ
第四章 エルフの少年ユピテル
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024-故郷を助けるために

『オイラと一緒に謝ってくれて、そのうえ支払いまでさせちまってゴメンよ……』


 というわけで、店主のおっちゃんに迷惑料割増でジャガイモ代を支払う事で少年を解放してもらった俺達は、無事にこの子を宿屋へと連れ帰ってきた。


「お前、他に盗みをやっちまってるなら正直に言えよ?」


『街に来たばっかだし、盗みなんて生まれて初めてやったんだ! うぅ、でも悪いことだってのは分かってるんだよぅ……』


 そう言って申し訳なさそうに頭を下げる少年に対し、エレナは怖がらせないように優しく微笑みながらの彼の頭を撫でる。


『もうやっちゃダメですよ?』


『うん……』


『それにしても、エルフである貴方がどうして人間の街に来たのですか?』


 突然の問いかけに、少年はギョッとした顔で自分のフードの耳元をパタパタと両手で触りながら不思議そうに目を白黒させる。

 エレナは少し苦笑しながらフードを脱ぐと、薄水色の長い髪をさらりと下ろした。

 それを見た少年は、更に驚愕の表情でアワアワと慌て始めた。


『わっ、ね、ねねね、ねーちゃんって、もしかして水の精霊かいっ!? どうしてと言うなら、エルフであるオイラが人里に出てる事より、精霊が人間の街でメシ食ってる方が激レアだと思うよっ!!』


「そーなの?」


 サツキがキョトンとした顔でエレナに問いかけるものの、当のエレナもウーンと悩みながら首を傾げるばかり。

 ちなみに、精霊と通りすがりにバッタリ遭遇するなんて日常生活ではありえないので、少年が驚くのも無理はない。

 ずっと聖なる泉で暮らしていたエレナは、そんな事を知る由もないのだけど。


「とりあえず互いのレア度を比較してもしょうが無いし、ひとまず自己紹介しようぜ。俺はシーフのカナタで、このアホっぽいのが妹のサツキ。んで、君が驚いたこの子は水の精霊エレナだよ」


「アホっぽいって……」


 恨めしそうにこちらを睨む愚妹をスルーしつつ少年の反応を待つと、少し間を置いてから頭にかぶっていたボロ布を脱いでくれた。

 深緑色の髪色も特徴的ではあるが、やはり一番特徴的なのは長く尖った耳であろう。


『オイラの名前はユピテル。そこのねーちゃんが言った通り、森に暮らすエルフさ』


「ああ、よろしくな」


 ――だが、俺がエルフの少年ユピテルと出会うのは「2回目」である。


 もちろん、それは勇者パーティで冒険をしていた頃の話なので、目の前に居るユピテルとは初対面なのだが。

 俺はかつて城の地下牢で彼と出会い、その後にイフリートの力を暴走させて実姉のレネットに討ち取られるまでの一部始終を目の当たりにしている。

 しかし、いま俺達の目の前にいるユピテルは、地下牢でカネミツからの問いかけに対しひたすら感情を押し殺して黙秘を続けたり、わらいながら生まれ故郷を炎で焼き尽くす姿とは似ても似つかぬ、ごく普通の温厚そうな少年だ。

 そんな子が、どうしてエルフ村の宝を持って逃げたのだろう?

 それに、さっき俺が余罪が無いか問いかけた時も『生まれて初めてやった』と言っていた。

 ……もしかして、ユピテルは何か陰謀に巻き込まれただけなのではないだろうか。

 俺はそれを確認するため、再びユピテルに問いかけた。


「エレナの質問に戻るけど、食い逃げしなければならないほどの状態なのに、どうして聖王都に滞在してたんだ? エルフの森なら、子供の足でも丸一日あれば歩いて帰れるだろ」


 実際のところエルフは恐ろしく駿足なので、丸一日どころか数時間もあれば走破出来てしまうだろう。

 だからこそ、この街に留まっているのには必ず理由があるはずだ。


『……』


 俺の問いかけに対し、ユピテルは黙ったまま俯いてしまった。

 だが、この子の不信感を取り払うために必要な情報を、俺は知っている。

 ユピテルから本音を聞き出すのに必要なモノ、それは……


「イフリートの呪いだろ?」


『!!!!!!!!』


 少年が驚愕の表情で俺の顔を見上げた。


「高い魔力抵抗を持つエルフに対し、俺は一発で影縫いを命中させたんだぜ?」


 俺の言葉にユピテルは愕然とすると、チラリとエレナの方を見てフッと鼻で笑った。

 当のエレナは俺のハッタリを聞いて苦笑しているけれど、ユピテルにはそれすら別の意味に見えているに違いない。


『……なるほど、水の精霊がこんなトコに居るなんておかしいと思ってたけど、にーちゃんが使役する程の強者なのが理由だったんだね。アホっぽい妹が一緒な理由はわかんないけど』


「なんで皆いちいちあたしの存在意義を否定すんのさっ!!!」


「首を絞めんなっ!!」


 騒ぐ兄妹おれたちを見て安心したのか、ユピテルはついに真相を語り始めた。

 だが、そこで彼の口から出た言葉は思いも寄らぬものだった。


『一週間前の事なのだけど、誰かが宝物殿に保管されていた炎の精霊イフリートの封印を解いちまったんだ。そこに掃除係だったオイラがうっかり近づいた結果がコレさ』


 そう言って、右手中指に着けた指輪を見せてくれた。

 リングの中央には真っ赤な宝石が付いていて、どんなに強く力を入れて引っ張っても抜けないらしい。


「誰かが~って事は、ユピテルは自分で封印を解いたわけじゃないのか」


 俺の言葉にユピテルは慌てた様子で首をブンブンと横に振って否定した。


『そもそも精霊の封印なんて、オイラみたいな子供が解けるもんか! 相当スゴい力を持った奴がやったに違いないよ』


 ユピテルの表情を見る限りとても嘘を言っているようには思えないし、姉であるレネットは『弟はこんな事をする子じゃない』と言っていたが、その言葉が本当だった事の裏付けが取れたと思って良さそうだ。


「じゃあエルフの村から逃げたのは?」


『コイツは宿主を媒介にして、いずれは表に出てきちゃうんだ。オイラの村のエルフ達は戦いに慣れてないから、このまま封印が完全に解けて暴れてしまうと誰にも止められなくなっちまうし、大昔にそれで大惨事になったって言い伝えもあるんだよ。でも、聖王都には凄腕の人間達が集まってるって聞いてたから、ここなら誰か止めてくれるんじゃないかなって……』


 確かに先日のプリシア姫誘拐騒ぎで魔術師団は混乱しているとはいえ、全軍で挑めばイフリートを止める事は十分に可能だろう。


「でも、それだと結局イフリートの封印は解けちゃってるし、ユピテルくんは人間達に殺されてしまうんじゃないの?」


 サツキの問いかけに一瞬ビクッとしながらも、ユピテルは目を閉じて首を横に振った。


『村民達がたくさん死んじゃうのに比べれば、オイラ一人で済むならどうってことないさ』


「えー……。うーーーん、なんて言ったら良いかわかんないけど、何か納得できないっ。なんか嫌な感じー!」


『えぇぇ、そんな事言われても……』


 ユピテルは困惑しているものの、俺個人としてもサツキの言いたい事は凄く分かる。

 いや、きっとユピテル自身だって、内心では決して納得は出来ていないだろう。

 それでも自分一人で聖王都までやって来たのは、村人達を傷つけたくないという想いと信念によるものだと思う。

 だが、俺のかつて見た世界では結局その作戦は失敗し、エルフの村が火の海になってしまったと考えると、本当に救いのない話だったのだ。


『ですが、その前に村の方々に相談してからでも良かったのでは? 突然ユピテルさんが居なくなったら、皆さん心配すると思いますし』


 エレナの問いに対し、とても悲しそうにユピテルは首を横に振った。


『村の皆に向かって、オイラ達じゃ勝てないから人間に助けてもらおうなんて提言したって、誰も聞く耳持たないよ……』


 確かにユピテルの言うとおりかもしれない。

 エルフ村の住民達は、シャロンが森の木を数本燃やしただけで憤怒して勇者パーティ全員を牢獄にブチ込むくらいに人間との確執が根深かったし、聖王都プラテナだって、先日やっと森のドラゴンとの共存関係が始まったばかりの人間中心の社会だ。

 エルフであるユピテルの立場的にも、非常事態とはいえ人間と進んで関わろうとするのは望ましくないだろう。


「エルフってヤツは面倒くさいんだねぇ」


 サツキが呆れ顔でぼやくと、ユピテルは怒……る事もなく残念そうに溜め息をひとつ。


『それに関しては同意するよ。レネットねーちゃんが居れば相談できたんだけどね……』


 ユピテルの口から出た名前に、俺達は顔を見合わせた。

 レネットはユピテルの実の姉であり、勇者パーティ4番目の合流メンバーだ。

 そして、イフリートの力によって暴走したユピテルの心臓を射抜いて止めた張本人でもある。


「レネットはエルフ村には居ないのか?」


『うん。半月くらい前から、南西にある別のエルフ村に用事で出かけててさ。たぶん近々戻ると思うんだけど……』


 ユピテルの言葉に、妙に何かが引っかかる。

 何者かにイフリートの封印が解かれた……しかもレネット不在のタイミングを狙って、だ。

 これは本当に偶然か?

 そもそも魔王の仕業なのか?

 エルフの村で起きた事件に対して疑問を感じたその時――


「っ!」


 いきなり宿の周辺で膨らんだ殺気を、パッシブスキル「危機感知」が捉えた。

 俺は咄嗟に床を強く蹴りエレナを押し倒した。


『きひゃうん!?』


 変な悲鳴を上げてベッドに倒れ込んだエレナが、顔を赤らめながら涙目でこちらを見上げてきた。


『こ、子供達も見てるのに、こんな事、だめ……』


「いや、そういう事じゃなくて!」


 俺がエレナを押し倒した状況を目の当たりにしたお子様二名も、顔を赤くしてアワアワしている。


「こ、こういうのは見ちゃダメだよねっ!」


『わわっ、押さないでよっ』


 ドテッ!

 あっちはあっちで逆にサツキがユピテルを押し倒す格好になってしまい、ユピテルは尻餅をついてしまった。

 ――その直後、大きな音をたてて部屋のガラスが割れ、そのまま部屋のドアに何か硬質なモノが突き刺さった!


『!?!?!?』


「うわあっ!! 何なになんなの、おにーちゃーーんっ!?」


『わ、わわわあああ、暴れないでっ!』


 サツキが半狂乱状態でユピテルの上でジタバタと騒いでいるものの、幸いサツキとユピテルも無傷のようだ。

 ちびっ子二人の無事を確認してから、俺が窓の外に向かって投剣を構える仕草をすると、急激に殺気が収まった。


「これは、かなりマズいな……」


 俺は部屋のドアに突き刺さったソレを眺めながら、不安そうに呟いた。


【鑑定結果】

名称:猛毒の矢

説明:主に暗殺者が用いる、ショートボウ用消耗アイテム。

効果:即死(確率大)

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