121-エレナの気づき
『立派なのは神父様と女王様だけで、ほかの教会の人達は全員ロクデナシですね』
「うっわ、バッサリ!?」
俺が思わず突っ込むと、エレナは頬を膨らせながら手をぶんぶんと振った。
『だって、神が信者を登山させろと言ってそれに従うのであれば、先に自分達が行けば良いじゃないですか! 無力な子供達を先に行かせるとかそれでも大人ですかっ! シャロンさんが怒るのも当然ですーっ!!』
「どーどーどー、落ち着けって。……まあ、正直なところ俺もそこは気になってたけどな」
神は『信者が頂上で祈れ』と要求してんのに、実際のところ最初に来た神父以外で山に登ったのは「教会に所属する別施設で暮らしていた孤児達」である。
一応は神の教えを受けていたとはいえ、その子達を信者というくくりで扱うにはいささか強引すぎるだろう。
何度も神が同じ神託を与えているのも『お前らいいかげんにしろ!』みたいな、警告の意味があるのでは……。
「だけど、聖王都みたいな都会ならまだしも、こういう昔ながらの風習が残ってるトコってのは、マジで生贄を捧げることで病気が治るとか天災が止むとか思ってたりするんだよ。俺の故郷のハジメ村だって、真冬に水かぶって祈ると願いが叶う~……みたいな意味不明な風習があるし」
『それで願いが叶うなら、私ぜんぜん平気です! こんど戻ったときにやりましょうっ!!』
「いや、そういうことじゃなくて……」
なんだか話がおかしな方向に逸れてきたので、俺はエレナをなだめつつ再びセシリィに話しかけた。
「でも、どうして生贄として捧げられた人達がここで生活を?」
「結局、北の山へと登った者達は途中で力尽きてしまい、皆一様にスノウさんに助けられたんです」
セシリィの言葉に、白竜スノウはウンウンと頷く。
『しかも全員、目を覚まして私の姿を見るなり号泣よ? 怖がられるのは慣れっこだけど、さすがに傷つくわぁ』
「ごっ、ごめんねっ、ごめんねっ!」
申し訳なさそうに謝るセシリィを見て、スノウは王子そっくりにニヤニヤと笑う。
……なるほど、彼女は「いじられキャラ」というヤツなのな。
「だけど、それならスノウにお願いすれば村まで連れて帰ってくれるんじゃないか?」
「神父様は自分が帰ったせいで国に神罰が下るのではないかと懸念し、スノウにお願いしてこの森へ連れてきてもらったそうです」
『人間をこんなトコにほっぽり出したらすぐ死んじゃいそうだったから、人が増えて生活が安定するまでは一緒に居たけどね~』
確かに雪山に比べれば森の方が生活はしやすいだろうけど、人間が一人でサバイバルするには無理があるもんな。
ホワイトドラゴンのスノウが一緒に居れば、獣やモンスターに襲われる心配も無さそうだし。
「他の皆も、もしも自分が戻った後に飢饉や流行病が起きてしまったら、その責任を追求されるのではないかと懸念していて……」
王子はそう言うと、困った様子で小さく溜め息をひとつ。
どう考えても言い掛かりとしか言い様がないとはいえ、実際のところ彼らがヤズマト国の都に戻ったところで「どんな些細なトラブルも自分達の責任にされる」という状況に陥りかねない。
「だけど、シディア王子はどうしてこの件に関与を???」
神託に従って生贄を捧げた。
生贄達はホワイトドラゴンに助けられた。
神罰の原因と非難されることを懸念し集落で生活を始めた。
……つまり、王子が関与する条件がどこにもない。
「私は幼い頃からずっとセシリィと友人なのですが、去年ついに彼女が生贄として選ばれてしまったのです」
「それでシディア様がついて来ちゃったんですよねぇ」
「『えええっ!?』」
驚愕の事実に俺とエレナが仰天していると、スノウがニヤリと笑った。
『神の使いだか何だか知らないけど、私が貴様を成敗してやる! セシリィは絶対に守ってみせるっ!』
「やめてぇーーっ!!」
どうやら初めて対面した時のシディア王子の言葉を真似たらしい。
顔を真っ赤に赤面させたシディア王子は、セシリィそっくりな動きでぽかぽかとスノウを叩きつつも、ハッとして再びこちらへ目を向けた。
「……とにかく、それをきっかけとして我が国の抱えていた問題を、初めて知ることとなったのです」
「なるほどな」
そして王子が対策を考えているうちに勇者カネミツが現れ、女王リティスがホワイトドラゴンの討伐依頼を出してしまった……と。
『どうしてお母様に相談しないのですか?』
「それは、ここで暮らしている人達の希望でもあるのです」
『???』
「先の理由によって皆は都へは戻らず、ここで静かに暮らしたいと願っているのです。しかし、母が集落の存在を知れば必ずヤズマトを巻き込む騒動になるでしょう」
「そりゃなぁ……」
神の意向に逆らってまで、即座にホワイトドラゴン討伐隊を派遣させるほど行動力のある女王がこの状況を知ろうものなら、間違いなく全員を帰還させようとしたり、この集落への経済的支援を行うであろう。
そうなると生贄達が生存している事が明るみになり、神罰を恐れる教会サイドとそれを信じない女王とでイザコザが……と、これまたややこしい話になるのは想像に難くない。
「カネミツ達に頼めば口裏は合わせてくれるかもしれないけど、もしも後から調査隊が近隣に派遣された時にスノウが目撃されようものなら、大ゴトになるだろうな」
「そうなのです……」
王子がそう言って困り顔で肩を落とす姿を見て、はてとエレナが何かに気づいた。
『ところで、これまで北の山頂で祈りを捧げた方は居るのですか?』
「え? ……いえ、神父様も途中でスノウに助けられたとお聞きしていますし、誰もたどり着けてないと思いますけど」
セシリィの言葉にスノウもウンウンと頷く。
『あの雪山って途中からヒドい断崖絶壁ばかりで、人間が登るなんてゼッタイ無理。人間に対して頂上に登って祈れなんて、死ねと言うようなものだもの』
スノウはそう言うものの、エレナは釈然としていない様子だ。
『何度も同じ神託が数ヶ月ごとに来てるのであれば、絶対なにか意味があると思うんです』
「ということは頂上に何かある、と……?」
『神様は色々アレな方ですけど、無意味に神託を連発するようなことはしませんから』
俺やサツキの教育のせいで神様を『アレ』呼ばわりしちゃってるのはさておき、彼女がそこまで言うならば本当なのだろう。
エレナはくるりと南東の空にそびえる巨大な山を見上げて言った。
『まずは、その真相を確認しに行きましょうっ』






