4
「お前ら付き合い始めたのか?」
「え、あ、はい…」
「…そっか。そうなんだな…。仲良くやれよ」
ズキッと胸が痛くなった。
平井係長からそんな言葉聞きたくないと思いながら自分でもバカだと思った。
どんなに諦めが悪いんだ…。違う男の子供を孕んでおきながら平井係長のことを思うなんて…。
まだ仕事場の人には妊娠したことを伝えていない。本来だったら上の人にはすぐ伝えるべきだろうけど、両親に顔合わせして結婚することがちゃんと決まってから結婚と妊娠を報告しようと高杉と話し合った。そのため、高杉がみんなにわからないように私の仕事を手伝ってくれていて、あまり残業しないですんでいる。正直、つわりでしんどくて吐きそうにもなるけど、なんとか耐えてみんなにばれないように気を付けている。
高杉の両親には2日前に会って、そのとき初めて高杉の父親が高杉製薬会社の社長で、高杉はその三男坊であることを知った。ただ、本人は会社の後を継ぐことはないそうだ。でも、さすがに世界が違いすぎて本当にこのまま結婚してもいいのか迷った。高杉は自分から好きになってやっと結婚してくれるようになったと両親に説明しているみたいだけど、端からみたらまたのこしを狙って嵌めた女にしか見えないだろう。高杉の両親はこの結婚について否定的なことは言わなかったが、困惑した様子だった。
「麻美ちゃん大丈夫?」
「うん、今日はまだましみたい…」
高杉は本当に私のことを心配してくれていて、仕事中にみんなにわからないように声をかけてくれる。…でも、平井係長のことを好きな気持ちが消えなくて、凄く罪悪感を感じる。
このまま高杉を好きになってしまったら凄く楽なのに…。どうしてうまくいかないんだろう。
そして、1ヶ月後には今後結婚すること、妊娠していることを会社全体に報告し、7ヶ月ぎりぎらまで働いて有給消化し会社を退職することも伝え、会社全体の人が知ることとなった。
「おめでとう。まさか妊娠してるなんて気が付かなかったよ。つわりとか大丈夫か?」
「あ、はい。実は高杉が気にかけてくれてて仕事も結構手伝ってくれてたんです」
「ああ、そういえば最近珍しく残ってたもんな」
「はい」
妊娠はおめでたいことだけど、平井係長に言われると胸が痛い。本当に心からおめでとうって言ってくれるのがわかるから余計に…。平井係長は私のことなんて本当に部下の一人にしか思ってないって改めて感じてしまうから…。
あっという間に妊娠7ヶ月になり、もうすぐて退職するんだと思うと、仕事はしんどかったけどそれなりにやりがいがあって退職することが寂しい。本当は仕事を続けたかったけど、高杉は退職してほしそうだった。その原因が平井係長のことだとわかっていたから私も退職することを了承した。
「もう今日で紺野と仕事するのが終わりだと思うと寂しいな…」
「そう言ってもらえると嬉しいです。平井係長には新人の頃から本当にお世話になって…。私、本当に平井係長のこと大好きでした」
「…っ。一瞬誤解したよ。そういうのは旦那さんに言えよ?」
「…はい」
平井係長は私が平井係長のこと上司として好きだって思ってるんだろうな…。でも…、私は、私は…。
「こらこらー、麻美ちゃん浮気しないの!」
「っ、高杉!」
「俺を妬かせないでよー」
「ご、ごめん」
「そろそろ下の名前でよんでよ?明日結婚式上げてやっと籍もいれるんだから」
「…うん」
「おい、仕事中にのろけるなよ」
「はーい。わかりましたー」
「お前反省してないな。明日の結婚式楽しみにしてるよ」
平井係長はそういうと自分の席に戻っていった。
「麻美ちゃん、まだ平井係長のこと好き…?」
「…っ、そんなことないよ」
「…そう。明日楽しみだね」
「うん…」
今日は普通の人だったら人生で一番幸せな人なんだろうなぁ…。
今日は私と高杉の結婚式。本当は妊娠してるし、家族挙式か写真だけて小さく済ませたかったけど、高杉の家このがあって普通に大きな結婚式になった。高杉の家はいろいろ派手にしたかったみたいだけど、お色直しは一回だけにしてもらってできるだけ人数も少なくしてもらった。といっても、普通に結構な人数を呼んでいるんだけど。
「すっごくきれいですね!旦那さんもきっと惚れ直しますね」
「…ありがとうございます」
「旦那さん呼んできますね」
髪の毛を可愛くアップしてもらってティアラをつけ、シンプルなデザインだけど有名ブランドの長いトレーンのウエディングドレスを着て、メイクも少し派手だけど、いつもより数段美人になっている。
人って結構かわるんだなぁ…。
トントン
「麻美ちゃん入るよ?」
「どうぞ」
ドアが空いて高杉が入ってきた。高杉はグレーに近い白のタキシードを着て、髪もちゃんとセットされており、いつもにもましてかっこよくなっていた。
高杉は私を見て少し目を見開いた後、手で口を覆った。
「やばい。すっげーきれい…」
「あ、ありがとう。…高杉もかっこいいよ」
「…麻美ちゃん、今日からは悠人って呼んで?俺も麻美って呼ぶから」
「え…、うん。…悠人」
結婚式は滞りなく進んで、披露宴でのセレモニーも終わり友達や同僚と写真も何枚も取れた。
「麻美ちゃん幸せそうね」
「山下先輩!」
「今日は本当におめでとう!相変わらず高杉は人気ねぇ」
高杉は同期に引っ張られて席を離れていた。
山下先輩は平井係長の同期で今は違う部署にいるけど、平井係長と一緒でとてもお世話になった人だった。
「そうですね」
「こういっちゃなんだけど、私、麻美ちゃんは平井のと好きなんだと思ってたわー」
「え…」
「今だから言うけど、平井、麻美ちゃんのこと好きだったのよ」
「え、でも、平井係長は奥さんとお子さんが…」
「ああ、そうね。でも、亡くなってからもう6年たったからやっと踏ん切りがついたみたい。今は私と付き合ってるのよ。もし結婚することになったらまた呼ぶわね!麻美ちゃん達も幸せにね!」
山下先輩は照れ笑いを浮かべながらそう言うと自分の席へ戻っていった。
え…?どういうこと?
平井係長が私のこと好きだった…?
あの写真は、亡くなった奥さんと子供さんの写真…?
山下先輩と平井係長の方を見ると二人で笑い合っていた。
気がついたら勝手に涙が出ていた。
多分、周りからみたら花嫁が感動して涙を流していると思っているんだろう。でも、そんなんじゃない。
どうして、こんなことになったんだろう…?
もう、結婚式をあげてお腹には高杉の子供もいる。
もし、あのとき写真を見ずにちゃんと自分の口から確認できていたら?
もし、平井係長に自分の気持ちを伝えられていたら?
もし、あのときに流されていなかったら?
もし、もし、もし一一一一。
一一全ては後の祭りだ。
一応完結ですが、高杉サイドをアップ予定です。