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「なんであんたがここに…」

居酒屋からの帰り道になぜか高杉がいた。

こんなにグチャグチャな顔、誰にも見られたくないのに。


「なんでって言われても、ここにうちの近所だから?てか麻美ちゃんどうしたの、その顔」

「…別に何もない」

「何もないって訳ないでしょ?どうしたの?」

「何もないっていってるでしょっ!ほっといてよっ!」


思わず高杉に怒鳴ってしまった。

なんでこのタイミングで高杉なんかに会うの!?もう、私に構わないでよっ!


「ごめん…」


高杉に謝られてふと我に返った。

高杉は何にも悪くない。勝手に落ち込んで、高杉に会ったのにイライラして八つ当たりしてる私が悪い…。


「ううん、私が勝手にイライラして八つ当たりした。ごめん」

「いや、俺もごめん」


ちょっとした沈黙があった後、独り言のように話始めた。


「私、もう平井係長のこと諦める。ずっと好きだったからすぐには気持ち切り替えられないと思うけど…」

「…そっか」

「じゃあ…ね」

「あのさ、もし1人がでいたかったらあれだけど、俺でよかったら話聞くよ?麻美ちゃんが心配なんだ」


いつもだったら高杉と一緒にいたいとは思わないけど、失恋したばかりで人恋しかった。誰でもいいから側にいて欲しくて、酔っていて頭がうまく回らなかったのもあり、気がついたら高杉の家にいた。

高杉の家は私の家とは全然違った。私の家はアパートのワンルームだけど、高杉の家は駅近のマンションで、通されたリビングは20畳以上はありそうだった。給料は私とあんまり変わらないだろうから、もしかしたら高杉の家はお金持ちなのかもしれない。


「何か飲む?お酒もあるけど」

「…じゃあ何かお酒もらえる?」

「わかった。ちょっとまってて」


高杉は家にあるウイスキーでカクテルを作って出してくれた。

カクテルは甘くて飲みやすく、気がつけば何杯も飲んでいた。


「全然気がつかなかった。奥さんがいたなんて…。でも、今知れてよかったのかもしれない。妻子持ちの人と恋愛なんて、考えられないから…」

「辛かったね」

「…っ、でも、好きなの…。この気持ちを忘れるなんてできない…」

「麻美ちゃん…」

「なんで…、なんでなのぉ…」


高杉は下手に慰めたりせず、黙って話を聞いてくれた。


忘れてしまいたい。こんなに辛いなら…。


泣いて、泣いて、ある程度気持ちが収まって高杉のことを見ると、じっと私のことを見ていた。そして、高杉が私に口に軽く触れるだけのキスをしてきた。


「高杉…?」


え、今、何が起こったの…?


「こんな時にごめん。俺…、ずっと麻美ちゃんのこと好きだったんだ」

「え…」

「こんな時に告白するなんて卑怯だってわかってる。でも、それでもいいから振り向いて欲しいんだ…」

「高杉…」


今まで高杉のことを恋愛対象に見たことなんてなかった。確かに高杉は変に私に突っかかってくることがあったけど、ただふざけてるだけで本気で私のことを好きだなんて思ったことなかった。だって、高杉なら私なんかじゃなくて、もっと可愛くて、性格もいい子を捕まえられるだろうから。

でも、今の高杉の顔は本当に切なそうで、辛そうで…。本気で私のことを好きなんだって思った。


「ごめん…。高杉のことそんな風に見たことなかった」

「うん、知ってるよ」

「…」

「辛いことがあったら話も聞くし、麻美ちゃんのためからどんなことでもしてあげたい。どんな形であっても麻美ちゃんの側にいたいんだ」


どうしてそこまで私のことを…。


「俺のこと利用してよ」


高杉に熱っぽい目で見られて、酔った頭でうまく考えることができないかった。でも、平井係長のことを考えるとすごく胸が苦しくて、寂しくて、人恋しくて…。

気づけば自分から高杉にキスをしていた。

自分でも何してるんだろうって思う。でも、今日は誰かに慰めて欲しい。


「高杉…」

「麻美ちゃん」


私たちはその日、一夜を共に過ごした。

この事を後で後悔するだろうと思っていたけど、今はただ寂しい、楽になりたい、としか考えられなかった。この恋を忘れたかった。






朝起きたら高杉が私を見ていた。


「…っ」


昨日のことを思い出して、途端に恥ずかしくなった。

私…、なんてことしたんだろう。高杉の顔、真っ直ぐ見れない。


「おはよう。ご飯できてるけど食べる?」

「え、あ、うん」


な、何、この恋人みたいな会話っ。


「や、やっぱり私帰る!」


私は急いで服を着替えて高杉の制止も聞かずに自分の家に帰った。






月曜日に仕事へ出勤すると、高杉は物言いたそうな目で私を見ていたけど、私はそれを無視した。この前のことなどなかったかのように振る舞い続けていたら数日すると高杉も今までのように接してくれた。

高杉には悪いと思っているけど、まだ自分の中で平井係長のことを整理できてなくて、あんなことをしといてなんだけど、高杉ことをそういう風には見ることができなかった。





あの日から約1ヶ月が過ぎ、平井係長を見ればまだ胸は痛むけどだんだんその痛みは和らいできたように思う。もしかしたら、ただ慣れただけかもしれないけど。

最近、なぜか体がだるくて熱っぽい。

会議室に資料を取りに行くと高杉がいて、私が高いところにある資料を取ろうとしたら高杉が代わりにとってくれようとした。


「どれ?」

「あ、その右隣にある…」


いきなり目の前が真っ暗になり、しゃがみこんでしまった。


「麻美ちゃん大丈夫!?」

「…大丈夫。ちょっと目眩がしただけ」

「医務室に行った方がいいんじゃない?」

「大げさよ。たかが目眩ぐらいで」

「…麻美ちゃん、ちゃんとご飯食べてる?最近顔色悪いけど…」


そういえば最近食欲がない。でも原因は一つしかないし、それはどうすることもできない。

だめだなぁ、失恋ごときでこんなことになるなんて…。


「今日ご飯でも食べにいかない?」

「え、いや」

「断ったら食材もって麻美ちゃんの家にいっちゃうよ?何がいい?」

「…わかった、行くよ」


高杉ってもともと強引なとこあったけど、さらに強引になってない?


「じゃあ、この前食べておいしかった焼き鳥やさんがあったからそこでいい?」

「うん、わかった」

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