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呪縛のルカ〜約束は幾千の死を越えて〜  作者: 白希
Chapter Ⅰ Prescience
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Episode34 激闘

連日遅れてしまい、申し訳ありません。




 ──なんとカナデは、自身の唯一の武器である短剣を渾身の力で投擲していた。


 そんなカナデの渾身の力を込めて放たれた短剣は、夜の闇を切り裂いていく。


「ッ!」


 カナデの予期せぬ行動に、ミリエンは目を丸くする。ほとんど音もなく、月夜に光る刃が空気を裂いて、驚異的な速さでミリエンへと飛翔する。咄嗟に反応したミリエンだったが、不意をつかれたことでわずかに動きが遅れた。


「グッ」


 そうして、短剣の鋭い切っ先が脇腹を深々と抉り、ミリエンは顔を歪める。

 

「…やってくれるじゃあないか!だが、この程度じゃ大した支障は出ないんだよッ。」


 痛みを堪えつつも、ミリエンは短剣を勢い良く、後方へと抜き捨てた。そんな彼の表情に浮かぶのは痛みによる苦悶ではなく、激情だった。


 それに対してカナデは、


「ふぅー」


 唯一の武器を失なったのにも拘わらず、彼の瞳は全く揺らぐことがなかった。深く息を吸い、そして構え直す。そんなカナデからは、敵を恐れる様子は微塵も見えない。


「それで? 丸腰で、いったいどうするつもりなんだ?」


 カナデの様子を見て取って、そう言って問いかけたミリエンは、額に汗を浮かべながらも、漆黒の長剣を構え直し、ゆっくりとカナデに迫る。


 カナデもそれに合わせるように一歩踏み出し、 冷静な瞳でミリエンを見据えた。



「お前のその決意…見せてもらおうじゃないか!」


 





───────







 “決意だけがあってもどうにもならない”

 カナデはその事を今、強く実感していた。


(くそ…)


 荒い息を吐きながら、カナデは視線の先を震わせる。汗と血が混じり合って、視界が霞む。体力の限界。体は鉛のように重く、意識は朦朧としていた。

 武器を失い、殆どミリエンの攻撃を躱すだけになってしまったカナデは満身創痍だった。


 対峙するミリエンも、やはり脇腹の深い傷からか、疲弊の色を隠せていない。

 だが、ミリエンの手には鋭い光を放つ長剣が握られている。対して丸腰のカナデは、そんな自ら作り出した状況に苦しめられていた。


「どうした?流石に限界か?」


 ミリエンが冷たく勝ち誇ったように笑う。その声はカナデの耳に嫌悪感と共に突き刺さった。


「まだだ…」


 震える声でカナデは呟く。

 その目には変わらずの闘志を宿していた。“まだ諦めるわけにはいかない”、と。


「フン、本当に諦めが悪いことだな…しかし、これで終わりだ。」


 ミリエンはそう言うと、長剣を構え、ゆっくりとカナデに歩み寄る。

  一歩、また一歩。

 そうやって、ミリエンが近づく度に、カナデの心臓は鼓動を早めていく。


(これが最後か…)


 カナデは目を閉じた。静かに息を吸い込み、心を落ち着かせる。

 そうしてカナデが目を開けたと同時に、ミリエンのカナデヘと近づく足音が止まった。


「じゃあな。」


 ミリエンはそう言うと、長剣の間合いにカナデを捉えて、上段に剣を構える。


 そんな危機的状況の中でカナデは──、



 カナデの表情は、微かな笑みを湛えていた。



「ハアァァッ!」



 突然に放たれたカナデの凄烈の叫びが、周囲へと響く。

 


 そして、次の瞬間には──、

 鋭い刃がミリエンの胸元を貫き、鮮血を撒き散らしていた。



「…なに、が」


 カナデは苦悶と驚愕を浮かべるミリエンを見て取って、徐に懐から何かを取り出す。


「なに、簡単なトリックさ…これだよ。」


 カナデがミリエンに見せたそれは、エフィから借りた魔導具であるマジックバックだった。


「…お前わざと、俺にやられて…機会、を狙って、やがった、な」


 そう、カナデは短剣を投擲することを決めた時点で、ミリエンが油断し、己の間合いに入る瞬間を狙っていたのだ。

 そうして、遂にその時が来ると最速の動きでもって、懐に忍ばせていたマジックバックからカナデは長剣を抜き放った。


「正直言えば、この手は使うつもりはなかった。お前が隙をみせるまで粘らなければならないし、賭けの要素が大きい……お前は強かった…だから、これくらいしか方法がなかった。」


「なる、ほど……身体能力だ、けでなく、頭も切れ、たわけ、だ……魔法、至上主義の、この世の、中も考え、も…の……」


 そう言って、ミリエンは自重気味に微かに笑うと、彼の命の灯火は静かに消えていく。


 カナデはそんなミリエンの目がゆっくりと閉じられていく、その一部始終を最後まで見守った。

 そしてその場に膝をつき、ミリエンの目を閉じて、静かに手を合わせる。


「はぁ……」


 カナデは深く息を吐いてから立ち上がり、ミリエンが落とした長剣を拾い上げると、それを彼の胸元にそっと戻した。


 そんなカナデの心の内には、大司教に勝利出来たという嬉しさや安堵感よりも、今まで味わったことのない、何とも言えない気持ち悪さが心の内を渦巻いていた。


 そんな感覚を追い払うように、カナデは頭を振り再び前を見据える、そうしてカナデは新たなる決意を胸にその場を後にした。





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