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呪縛のルカ〜約束は幾千の死を越えて〜  作者: 白希
Chapter Ⅰ Prescience
28/41

Episode25 紡がれていくもの






 ───胸を押さえながら、早鐘を打つ心臓に“早く治まれ”と苦言を呈する。


 静かに何度も深呼吸を繰り返すが、それでも尚、心の内のうねりは収まる気配を見せなかった。瞳を閉じて、そうやって呼吸を整えようとしても、あの男の言葉が頭から離れてくれなかった。


「なんで…あんな核心をつくようなこと、」


 “言えたんだ”と、そんな疑問がカナデの頭の中を強く渦巻いていた。


 動揺を隠せずにいるカナデの横で、心配そうにその様子を窺っていたイルは、徐にカナデの肩にそっと手を置く。


「ねぇ、カナデ…本当に大丈夫なの?」


 そう問いかけるイルの優しい声色(こわいろ)に当てられ、カナデは少しずつ落ち着きを取り戻し始める。現実へと戻っていく。



 ──こんなことで動揺している場合ではなかった、と。



 混乱の渦から引き戻してくれたイルに、まだ多少ぎこちない笑みを向けてから、カナデは再び深い呼吸をした。



 そうして、平静を取り戻してから、

 カナデは真剣な表情を浮かべ、話しかける。




「イルに聞いて欲しい話があるんだ。」






────────






 ───場所は風蘭の宿、カナデの宿泊部屋。


 その空間には、微かに緊張が漂い、厳かな静寂が支配していた。

 そのような重苦しさを纏う部屋で、カナデとイルの二人は殆ど動くことなく、互いに正面から見つめ合うように椅子に腰を降ろしている。彼らの顔には、その場の雰囲気に相応しい、神妙な表情が浮かんでいた。


 そんな、張り詰めた空気を──、



「俺はこの世界の人じゃないんだ。」


 そう言って破ったカナデは、話したいことがあるといってイルを部屋に呼んでいたのだ。

 この場でカナデは、自分の奇異な事情と、そしてこれから起こることの顛末を、イルに伝えるつもりだった。


「この世界の人じゃない?…ごめんカナデ、ちょっと言っていることがよくわからないかも。」


 そして、そんなことを言われたイルは、カナデの真剣な表情から身構えてはいたのだが、発された言葉があまりにも予想外に過ぎた為、流石に理解に苦しんでいた。


「そうなってしまうのもわかる。俺がこの世界に来た時がまさにそうだったから。」


 恐らくそのような反応になるだろうな、と、カナデの予想した通りの反応をしたイルの心情に、カナデは納得する。


「…じゃあ、カナデはこの国の人じゃない、とか、そういう次元の話じゃないってこと?」


 徐々に、イルの脳が情報を処理して、カナデの置かれている状況の理解をし始める。


「あぁ、俺の居た世界には、魔物も魔法もオッドアイに対するあんな扱いもなかったんだ。」


 そうやって、この世界と自分の居た世界の大きな違いをカナデが話してみせれば、


「そっか〜、だからカナデはあんな反応だったんだね。」


 と、イルはカナデがエフィに対して示したオッドアイへの反応を思い起こして、意外にもあっさりと納得した。


「…信じて、くれるのか?」


 こんな突飛な話なのにも関わらず、あまりにもイルがあっさりとしすぎていて肩透かしを食らい、思わず、“本当に信じてくれたのか”と、心配したカナデがそうやって問いかける。


「え?だってそうなんでしょ?」


 首を少し傾げたイルは、カナデのその逆に問いかけるような言葉に、“違うの?”と、不思議そうな顔をした。


「いや、こんなの普通ありえない話だろ?嘘だとは思わないのか?」


 イルのそんな、全てを信じてくれるかのような反応に、カナデが矢継ぎ早な説明をすると、イルは、


 “あ~そういうこと”、といったような納得した表情を浮かべて──、



「…カナデ、確かに私達はまだちょっとしか旅をしてないし、だから、一緒に過ごした時間もそんなに多くはないかもしれない。

 ───でも、だけどね…カナデが優しい人だって、真剣な話の場で嘘ついたりなんかしない人だって、それくらいのことは、私にだってわかってるんだよ?」


 そうやってイルはカナデに、穏やかな、優しげな表情を向けて言い、そして、続ける。


「エフィだって、きっとそう。じゃなきゃ、お兄ちゃんなんて呼んで、あんなに一緒に居て楽しそうにしたり、カナデが気分悪そうだったら、気になって仕方ないくらい心配なんてしないでしょ?」

 

 そんな温かな言葉をもらったカナデは、


「…そう、だな。」


 そう一言だけ、噛みしめるように言葉を漏らした。

 そんなカナデの心には、複雑な感情が入り乱れていた。イルが自分に寄せてくれていた信頼を疑ってしまって、申し訳ないという気持ち。

 そして、“あぁ、俺がイルやエフィのことを大切で救いたいと思っているように、自分もイルやエフィにそんな風に思われてたんだ”、という、己の心のうちを満たしていく、なんとも言えない、心が包み込まれるかのような気持ちだった。


「…ありがとう、イル。俺を信頼してくれて。」


 そんな溢れだす温かな気持ちと伴に、カナデは目尻を少しだけ濡らして、イルにストレートな感謝の気持ちを伝えた。


「どういたしまして……でも、お互い様だよカナデ。見てたら、わかったよ。悩んでた原因って私とエフィのことなんでしょ?」


 そうやってイルは、カナデにとっては、今日二度目となる核心をついた言葉を投げかける。

 しかし、カナデは核心を突かれたが、あの時のような動揺はしなかった。もちろん、多少の驚きはあったが、心の内に湧いたものは、“何故気づいたんだろう”という純粋な疑問だけだった。


「なんでわかったんだ?」


 そのカナデの問いに、


「私達を見るときだけ、カナデ、いつもと表情が違ったから…だから多分、エフィも気づいてるんじゃないかな?」


 カナデは自分が無意識のうちに二人に対して、どんな顔をしていたのだろうか、と思い返す。


「そっか…」


 そして、カナデは納得したように頷いた。

 すると──、



「ねぇ、カナデ。」



 イルが真剣な面持ちで、カナデの瞳を見据えてくる。

 そして──、




 「私達のことで何があったの?」





 この話し合いを持つに至った真の主題へと、

 踏み込んだ。






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