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Episode1 哀傷を照らす光焔




 閉ざすような紅蓮の劫火が空を覆い、家屋を次々と焼き尽くす


 その恐るべき炎は、もはや留まることを知らず、猛威を振るっていた


 まるで世界の終わりを告げる鐘の音のように、絶えることのない悲鳴と号哭があたりに響き渡る


 そんな阿鼻叫喚の



 ──【王都】にて





 光焔(こうえん)によって輝く、美しき金色(こんじき) の両眼を持った少女が、血まみれの青年の側で泣き崩れた



 そんな少女の啼泣と悲嘆の叫びは

 喧騒の中へと、かき消え──




 しかし、その声は風に乗って、遥かなる世界へと流れていった




 永遠のように感じられた、沈黙の後──



 少女は忽然と面を上げる


 その少女の腫れ上がり、充血した眼は





【 金色と“紫紺”へと輝きを変え、狂気の色を宿していた 】









 かつてない脅威がカルス大陸全土を襲った、その日


 絶大たる栄華を誇っていたルテア王国は、呆気なくも破滅の一途を辿ったのだった





_________







 

 ───深い森の奥。

 そこは、草木の清々しさとは無縁の、異様な静寂に支配された場所だった。


 乱立する木々から伸びる、無数の枝々が絡み合って森中への陽光を遮断し、朝だというのに森全体には深い闇が広がる。その不気味さを助長するように、森中は“しん”と静まった無音が広がり、静寂が耳に痛い。

 視覚、聴覚ときて、嗅覚。匂いはといえば、微かに湿った土の匂いと、何かの腐敗臭が漂い、思わず鼻をつまみたくなった。

 

 そのような凡そ人気(ひとけ)のない森の中にて、


 何故か、



 ───青年が一人、呆然と佇んでいた。



「はっ?………え?……おいおい、どこだここ!?」



 その場所において、明らかに特異である彼は、自分がその森に居ることに心底困惑しているようだった。

 まるで、自分の知らない間にでも、この森に連れてこられたかのような狼狽えを見せる彼は、実際のところ先程まで──、


(ベッドで本読んでたはずなのに…)



 先程まで彼は、自室で優雅に読書を嗜んでいたはずだったのだ。

 それがどういった訳か、本から目を離し顔を上げれば、そこは己の自室ではなく、この鬱蒼とした森の中。


「…いや、ほんとどういうこと!?」


 彼はこの突飛な現状に対して、ひどく混乱しながらも、何か情報を得られないか、と、周囲を見渡すことで現状の把握に努めた。

 しかし、そんな行為は彼の顔をさらに青くさせるだけだった。

 見渡して見ても鬱蒼と生い茂る植物たちが、ここは我の地なりと群雄割拠に無秩序に入り乱れ根を生やして、自然の恵みを奪い合う大樹海であって、“あぁ、ここは恐らく未開の地なのだ”と、そう思わされるだけになってしまったからだ。


「本当にどこなんだここは……でも、この リアリティーは現実、なのか?」


 彼はそんな先程の確認から、感じられる如何しようもない現実感から、この想像の埒外にある現状は、夢などではなく現実なのだと、そう頭では理解したのだが、


(でも一応、誰もがやるだろう通りにね…)


 彼は一応とばかりに、いや縋り付くように自分の頬を強く抓った。


「…ハハハ」


(痛い…)


 抓って痛かったら現実だ、と。お決まりの奴をやってみた彼であったが、もう殆ど己の内では現実だと認識しておいて、強く抓ってしまったことに、彼は頬をさすりながら少々後悔をした。


「……というか、これが現実っていうなら、マジでどうなったら、こんなことになるんだ?」


 彼は頭を軽く掻きむしって、苛立たしげに、そんな、答えの出ないであろう疑問を虚空に向かって呟いた。

 そうして、“ウンウン”と頭を悩ましていると──、

 


「あ、いや?……そうだ!“あれ”ならもしかして…」


 彼の内に1つ、この状況に説明を付ける仮説が浮かび上がった。

 しかし──、


「う〜ん…」


 彼は直ぐに顔を俯かせ眉間に皺を寄せる。そんな彼の渋い表情からは、どうやらその仮説にも矛盾点があった様だということが見てとれた。


(…そうだな。景色がいきなり切り替わるなんて、“あの人”じゃあるまいし、そんな事俺には到底無理だ。)


 そうして考え抜いて──、

 彼はある結論に辿り着き。


「いや、もう。本当になんなんだか、よくわからないけどさ。」


(どれだけここで唸ってても、答えは出て来ないってことだけはわかったよ。 …不安しかないけど。)


「…しょうがないよな。」




 そうして彼、月瀬(つきせ) (かなで)は、この不気味な森の散策を開始する事にしたのだった。





お読みいただきありがとうございます。


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