掌編小説 捌
目が覚めると、私は暗闇の中に居た。
湿った土と草の匂い。
どうやら外にいるらしい。
手を横に動かすと、硬い材質の感触。ここは箱の中だろうか。
上に伸ばす。
すぐにぶつかった。
そんなに広くないらしい。
自分の息使いが聞こえる。
ギィッと、天井が開いた。
いや、天井だと思っていたのは扉だったのだ。
新鮮な空気が中にはいる。
切り取られた空の形で、丁度箱の大きさがが自分の大きさにぴったりなのがわかった。
棺桶。
私は棺桶の中にいるのだ。
蓋を開けたのは女人。
風で顔が靡き、辺りも暗いので顔がよく見えない。
体を起こそうとしたが、動かない。
仕方がないので暫く女人を見詰めていた。
風が止み、顔が見える。思わずヒッというか細い声が出た。
女人の顔は、黒かったのだ。
真っ暗。
それがこちらをじっと見詰めていた。
女人は白い服を着ていたので、更にその不気味さが際立つ。
「………か…………ん……」
女人が呟いた。私はそれを聞いた瞬間、起きた。
女人はこう言っていたのだ、
「私の代わりに死んで?」と。
ガバリと蒲団から飛び起きる。
心臓が早鐘のように脈打つ。息が上がっていた。
「……夢か」
そんな夢をみた、数日後。
また、同じ夢をみた。
この前と違うのは、続きがあるということだろうか。
白服の女人は手を伸ばし、首を絞めてきたのだ。
夢から醒めた後、落ち着く為に顔を洗う。
そのときふと、鏡に映る自分が目に入った。息を飲む。
夢で女人に首を絞められた所が、くっきりとした痕になっていた。
その日の夜、また同じ夢をみた。
今度は体が動く。
私はすぐに棺桶から逃げ出した。
後ろを振り返ると、やはり女人は追いかけてくる。
手に光るものを持っていた。
周りは果てしない草原。
逃げる 逃げる 逃げる。
其処で朝がきた。
次の日、昨夜の続きから夢は始まった。
必死に走り、その日も無事に逃げきれた。
次の日も、次の日も、夢をみる。
前の夢の続きからだ。
気付けば、周りの景色は草原ではなく、街になっていた。
気にせず走る。
見慣れた家が見えた。
私の家だ。
走って、走って、自分の家へ逃げる。其処まで行けたら、此の悪夢も終わる気がしていた。
自分の家に滑り込み、鍵とチェーンをかける。
窓に鍵をかけ、カーテンを閉めた。
直後、ドアを物凄い勢いで叩かれる。
じっと息を潜める。暫くすると、ピタリと音は止んだ。
息を吐き、後ろを振り返る。何も無い。カーテンを開ける。
女人が窓に張り付いていた。
目が合ったような気がする。
女人が口をひらき、目を細め
ミツケタ
背筋が凍る。
部屋中に、女の嗤う聲が響いた。
目を覚ます。夜中の三時。
夢の内容を思い出し、恐る恐るカーテンを開ける。
何もなかった。
コンコンッと、家のドアが叩かれる。
恐る恐るドアを開けると、はたして、何もいなかった。
周りを見渡すが、人一人居ない。首を傾げながらもドアを閉める。何となく、後ろを振り返った。
女人がいた
目の前で、鈍い銀色が光る。
私は闇の中に沈んだ。