82話 君の中の俺を守るため
「傲慢とは、自らの限界を決め、勇気を持ってチャレンジする精神を失うことである」オシム
ハーフタイムを知らせるホイッスルが鳴り響くのを、まるで他人事の様に富良都は聞いていた。
意味が分からない……。
ついさっきまで、完全に流れがこっちに来てる感じだったのに……。
気がつけば、、あっという間に流れを引き戻され、挙句なんの抵抗もないかのように逆転されてしまった。
キックオフからのリスタート。
継続して堅く守ってカウンターで突き放していけば、なんて考えていた矢先の同点劇だった。
「一点目ヤバいな、あれ」
控え室に向かう途中で礼津が声を掛けてきた。
「何がですか?」
「司ってさ、トラップでターンして後、一回も目線下げないのな……。多分、正面の奴の膝とか見てんだろうけど、ボール見ないままでよくシュートまで行けるもんだわ……」
礼津は大きなため息を零しながら、やれやれという仕草をする。
「やっぱ、この世代の世界最強って言われるだけあるな」
先輩のそんな言葉に富良都は、
「はぁ、そんなもんですかね」
と、あえて理解出来ないような態度を取ることにした。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
※View side 鹿島南
「うんうん。良い感じでみんな動けてきてるね。あとは、後ろ側だけかな」
それなりの充実感を覚えながら、ピッチからゆっくりと戻ってくるのは鹿島南の10番、皇司だ。
いい先制点を見せて貰ったことで、ちょっとはしゃいでしまった事を軽く反省している所でもある。
コースのないところを死角からアウトスウィングを掛けてゴール。うん、素晴らしい。
それに対して、こちら側は『バイタルでコースがない時は、目の前の二枚ぐらい抜いてからシュート決めれば楽だよ?』って返答を出した。
常にいつでも出来るわけではないが、狙える条件さえ整えば十分に可能性のある選択肢だと思っている。
二点目は、前を絶対に向かせないように慌てて寄ってくる敵をあざ笑うようにワンタッチで和泉へのフリック。入ってくる和泉にまで、敵の注意が届いてないのが明らか過ぎた。
周りを上手く使うゲームメイクに専念して、危険な供給元として思わせてからの特攻。目立ったら、次は引き寄せて剥がすようにすればいい。
こういった試合の中での存在感のあり方を、言外に富良都へと伝えたいと思っていた。
自分に固執しているという事は、以前に何となく聞いたことがある。だからこそ、誰かではなくもっと何か大きなモノに目を向けて欲しいな、と感じているのだ。
ただ、それが何なのかを言語化する能力は、今のところ……、というか当分は残念ながら持ち合わせる事は無さそうではあるが……。
二つも下なのに、自分に追いついて、抜かしたいと強く思っている奴がいる。
そんな期待出来る後輩のためにも、自分は常に高い目標でいなければならない、と。
それは決して跳ね返すだけの壁ではなく、いずれ富良都にとって「本当の目標」が見つかるまでの先導役として、しばらくは立ち塞がってやろう、と心に決めていた。
ボールを見ないまま、相手の膝の動きだけでドリブルで抜いていくのを書いたのは、R・バッジョへのオマージュになります。彼がユーベ時代にドリブルシーンを細切りした写真(雑誌)があって、ボールを見ないまま、相手の膝の向きで置き場所を変えて抜いていくという解説に衝撃を覚えました。言われないと分からない神業ですね。
最近、彼が強盗に遭ったというニュースが流れましたね。無事で良かったとはいえ、なんと許せない悪行か……!!




